神の花嫁ー運命の時ー
「私は知らず知らずに貴方のことを無意識に知っていたみたいです」
「私が好きだった漫画のキャラクターも、自分で描いていた人物像も
今思えば、貴方に似ていて私の理想そのものだと気付きました」
「我が理想だと言ってくれるのか?」
そう言うと、楓月の尊は何かを堪える様に顔を伏せた。
美巫は抱きしめられた胸の中で、楓月の尊が悲しみを堪えている様に
感じて、胸が締め付けられる想いになった。
「どうしてもその寿命は、神様なのにどうにもならないのですか?」
「そうだ・・・。神であっても、特別な位の、特別な者で無い限りは
寿命がある」
「全ては理の決まり事なのだ・・・」
「散々苦しんで、辛くても前を向いて頑張って来たそなたにこれまで
制約もあって、何もしてやれず、もどかしかったが、やっと我の寿命
と引き換えに、そなたを幸せにする幸と神の力を渡せる」
「もう、無理をしなくて良いのだ」
その言葉を聞いて、美巫は今までの色々な事を思い出して、ますます
涙が止まらなくなった。
「美巫、もう泣かないでくれ・・・。我も辛くなる」
「そなたの笑顔も、優しさも全てを愛している・・・。だから笑って
幸せになって欲しい」
「それが我の最期の願いなのだ」
「すまない・・・。そんなに悲しませるとは思っていなかった」
美巫は、切なさに胸が詰まり言葉にならなくなった。
そして同時に、初めて会って、姿を見て、少し会話をしただけなのに
不思議と凄く惹かれて、この神の事を愛していて恋しいと思っている
自分がいた。
その思いとは反して、残酷な時間が容赦無くやって来た。
「すまない・・・。もう時間が来た様だ・・・別れの時が来た様だ」
「えっ・・・。嫌・・・行かないで・・・死なないで・・・」
「側にいて・・・。好き・・・大好き・・・愛してます・・・」
「だから・・・。どうすれば良いの・・・」
取り乱す美巫の背を優しくさすり、楓月の尊は最期の言葉を紡いだ。
「美巫、そなたと縁を結べて嬉しかった。何度も、転生するそなたを
見守りながら、どれほどの時代を超えて来ただろうか・・・」
「そなた程、美しく汚れない魂の者はいない・・・。許される事では
無いと分かっていても、叶わないと分かっていても、恋焦がれてゆく
想いは止められなかった」
「だが、理は残酷で、もう我の寿命は尽きる・・・。最期にそなたに
幸と神の力を渡せて良かった・・・。別れの時間だ・・・幸せになり
我の大好きな笑顔の日々を・・・それが最期の願い・・・」
「さよなら・・・美巫・・・」
そして楓月の尊は光りの粒となり、空へ向かって消えて行った。
美巫の手には楓月の尊が託した、幸と神の力を込めた蒼紺色の勾玉が
一つ残されていて、直ぐに彼女の手に吸い込まれる様にして消えたの
でした。
ただただ、涙が止まらず立ち尽くした。