神の花嫁ー運命の時ー
龍の背に乗って、神界へ到着した。
神界と言っても、現実世界の人間界と違い別次元である上に
空間自体がかなり広く、普通に探すのは無謀と思わせる程だった。
「さて、ここからが勝負だな・・・」
月凰神が呟いた。
「良かった・・・。我の光の糸は消えていないな」
「この光の糸の先にきっと探している神が居るはず・・・」
光陽神が自信を持って告げると、急いで又皆で龍の背に乗って
移動を開始した。
光の糸を辿り進み続け、時間にしてどれくらい経ったのかとかは
分からないが、進んで来た先に神の世界の山と言うのか、木々が
生い茂る場所に辿り着いた。
「私の世界と同じなんですね」
「ああ、この山と言うのか、木々の森がか?」
「はい、だって神界へ着いて神様の世界って、特殊な空間だと
思っていたし、私の世界と同じ様な、こんな場所があるなんて
不思議な感じで・・・」
「そうだな・・・。美巫にとっては、そう見えてもおかしくは無い」
「この神の世界は果てが無い。しかし、美巫も我の事で関わったが
天の意志が管理をしていて、神々の想いや力で空間に再現される景色
は変わるのだ」
「だから、神々は個々に自身が住まう社も周りの景色も自身の好みに
変えて住んでいるのだ」
「そこから、人間界の動きを見守り、時には導いている」
「本当にどうしてこんな神聖な空間に鬼が?」
「そうだな・・・」
華夜月の尊は美巫をいたわる口調で呟いた。
皆で、現れた木々の中を進んでいると小さな声らしきものが聞こえた。
「口惜しや・・・」
「もうこれまでなのか・・・」
「誰ぞ、我を見つけて欲しい・・・。誰ぞ我の話しを・・・」
「ああ、悔しや。このままでは神界が・・・」
小さな声で必死に訴えかけた口調だった。
「この声って・・・。もしかして・・・」
「ああ、探していた神である可能性は高いな」
「どう思う?光陽神に月凰神よ・・・」
「華夜月の尊と同じ意見だな」
「我も同じ意見だ」
「よし、では行くぞ!」
声の聞こえる方へ、皆で進んで行った。
そこで驚愕の姿を目の当たりにする事となった。
声を発していた神の姿は消えかけた姿で、身体はボロボロに傷を
負っていた。
「大丈夫ですか!?なんて酷い怪我・・・」
「そなたは誰だ・・・。まるで、春の女神・・・春の陽だまりの様だ」
「皆、そなたを探していたのだ。事情は、そなたに仕えていた少年から
詳しく聞いている」
「そうか・・・。まるが・・・」
「あの少年は、まると言うのか・・・」
「そうだ・・・。我に良く尽くしてくれた・・・」
「まるも怪我を負ったはずだが、そなた達に助けを求めたと言う事は
助かったのだな・・・。良かった・・・」
「実は・・・」
光陽神がその後を言う事を、他の皆でそっと止めた。
「そっそれにしても、まずは貴方を早く救わないと!」
「すまぬな・・・。もう、完全に復活するのは無理なのだ」
「その変わり、我の願いを叶えて欲しい・・・」
「そなたは、太陽神の系列であろう?だからこそ頼む」
「我の五柱の神としての力、そなたに渡したい・・・」
「それは・・・!」
「察しの通り、我は消えるだろう・・・。しかし、どのみち我は消える」
「ただ、命尽きるには余りにも情けなく、悔しい・・・」
「あの鬼に人間界と神界の狭間で襲われ、その後、弱った我から神の力と
命のエネルギーを吸い取られ、最後の抵抗でここへ逃げ隠れたが、もう、
動くことも出来ないほどになっていた」
「あの鬼は、我になりすまして人間界と神界の幸のエネルギーを独り占め
して、自身の力にしている。このままでは大変な事になる・・・」
「皆、鬼の力で騙されて操られておる。それを打破するには、破邪の力を
強く持つ太陽神のみ」
「だが、大神の天照大神様は、大神の三貴神故に、おられる次元が違われ
畏れ多くて、お呼び出来ない」
「だが、その系統を受け継いでおるそなたなら、きっと滅する事が出来る」
「どうか、我の仇を取ってくれ・・・。そしてこの神界を救って欲しい」
「そんな・・・。何とか私の癒しの力で助ける事は・・・?」
皆、静かに首を横に振った。
「優しき娘よ、そなたは人の子であったか・・・。本当に春の女神の様な
波動をまとっておるな・・・。我の為に嘆いて、涙してくれるのだな・・・」
「最後に救われた思いだ。このまま朽ちるだけだと諦め、無念の思いだけが
我の糧となっていた・・・」
「ありがとう、優しき娘よ・・・。すまぬ、もう、時間が無い。頼む・・・
太陽神よ、最後の願いを叶えて欲しい・・・」
「分かり申した・・・」
そう、告げた光陽神の表情は凄く辛そうな表情だった。
もう、その表情と消えゆく神を目の当たりにして、誰も何も言えなかった。
「そうか・・・。ありがたい・・・。では、受け取ってくれ・・・」
「そして、この五柱の神の力が、我になりすまして居る鬼に気付くきっかけと
なるはずだ」
「では、頼んだぞ・・・」
そう、言うと神の身体が光り出して、一つの虹色に輝く光りの玉が浮かび出て
光陽神の身体に吸い込まれて行った。
それと同時にそこに横たわっていた神の姿は、あの少年の様に光りの粒となり
消えていった。
「皆、行くぞ!仇を取る!」
熱い怒りを滲ませた声で、光陽神は言った。
「はい!」
「勿論だ!」
「許すまじ鬼を滅す!」
皆、想いは一つだった。
そして、舞台は鬼との決戦の舞台へと火蓋を切った。