神の花嫁ー運命の時ー
「ああ、もちろんだ・・・」
「しかし、ツインレイとしての制約があり、ただ見守るしか出来なかった」
「傍にいって慰めてやる事も出来ず、何度もツインレイとしての役割の事を
恨めしく思い、歯痒い思いを何度もした・・・」
「ごめんなさい、心配をかけていた事に気付けていたら・・・」
「美巫は悪くない。本当に良く頑張ったと思っている」
「美巫は知らなかっただろうが、天は全て知っている、分かっている」
「人々の日々の行ないや、心根は全て隠す事は出来ず、筒抜けだからな」
「だから美巫は、胸を張って良い。何も臆する事は無いのだ」
「華夜月の尊様・・・。ありがとうございます・・・」
「華夜月の尊よ、我らは皆、熱うて敵わんぞ」
二人の世界になっていた状況に、光陽神がたまらず声を挟んだ。
「すっすまない」
「すっすみません」
二人同時に謝った。
「はははは、本当に息がぴったりだな」
「仲が良い事は何よりだ。主が幸せそうでなりよりだ」
月凰神に、守護人達が続いて声を挟んだ。
守護龍達もその状況に満足して、嬉しそうに頭上を旋回しながら咆哮をあげた。
そんな暖かな空気を切り裂く様に、突然の訪問者が現れた。
「たっ大変です。お願いします、どうか助けて下さい・・・」
見た目はまだ幼い少年の姿だが、着ている服装は現在で言うと神社の宮司が
着ている袴の着物姿で、急に姿を現した事から普通の人では無いと、流石に
美巫も察した。
もちろん、華夜月の尊も含め、ここにいる美巫以外は誰であるのかを知っていた。
この状況に、何かを察したのか光陽神が顔色を変えて少年に声を掛けた。
「そんなに怪我をして、天の神界で何があったのだ?」
「じっ実は、五柱の神の一人である我が主人の神が襲われ行方不明に・・・」
その言葉を聞き、状況の分からない美巫以外は険しい顔になった。
「詳しく聞かせてもらえますね」
光陽神は力強い声で尋ねた。
「それが、秋に予定しております出雲での神の会議の為、五柱の神々が毎年の様に
先に集まり、小会議を行いそれぞれ準備を決めて、我が主人と帰っていた時、急に
不意を突かれ、鬼に襲われました」
「そして、私も主人も怪我を負いまして私が主人の怪我を案じる隙を突いて、鬼が
主人に目眩しの霧を吹きかけ連れ去ってしまいました」
「ところが、それからすぐに主人は戻って来たのですが、主人では無かったのです!」
「見た目も口調もそっくりなのですが、長年お仕えしている私にはそっくりの別人だと
すぐに分かりました」
「なので、他の神々様に助けを乞うたのですが、皆様信じて下さらず、合間を見ては
主人を探していました」
「それを気付かれ、不意を突かれ再び襲われまして、あの鬼が我が主人に成り代わって
いたのです!」
「この目で、しっかりと主人の姿から鬼の姿に変わったのを見ました」
「何とか命からがら、この人間界へ逃げ込み、人間界で神々の波動を感じてここへと
辿り着いたのです」
「お願いします。どうか主人を探して助けて下さい」
「そして、畏れ多くも天の神界で五柱の一人として、のさばっている鬼をを退治して
いただきたいのです!」
そう言うと少年は倒れ込んだ。
「だっ大丈夫ですか?酷い傷だわ・・・」
「皆さん、この子の手当てをしないと手伝って下さい」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「えっどうして?どうして何も答えてくれず、手伝って下さらないの?」
「美巫、もう遅いのだ。助からない・・・」
華夜月の尊がそう言うと同時に、意識を失った少年は光の粒となって消え去った。
「そんな・・・。嘘でしょ?こんなのって無い・・・」
「どうすれば良かったの・・・」
「美巫・・・。あの傷ではもうどうしてやる事も出来ない状態だった」
「でも、でも・・・神様なら奇跡の力を使えるはずよね!」
「すまない・・・」
華夜月の尊の言葉とみんなの苦しげな顔を見て、美巫はハッとした。
いくら神様と言えども限界はある。出来る事と出来ない事。そして何よりも神々も含め
生きとし生けるものに、命の永遠は無い。
それは華夜月の尊の件で分かっていたはずだった。
華夜月の尊の件は、本当に奇跡だった。それは、天の意思が動いてくれたからであり
もしかしたらあのまま華夜月の尊を失っていたかも知れなかった。
寿命であのまま眠りについていて、もし転生しても全く知らない存在として生を受ける
訳で、魂にその記憶があっても違う存在として生を受けていたら私の事なんて分からない
知らないと言う事になるだろう。
事実、私自身に前世の記憶なんて無い。神々の世界へ行けば思い出すと言われたが、実際
自分の事としてどこまで認識出来るかは分からない。
悲しいかな、今の自分は自分だけなのだ。今まで繰り返して来た前世の存在とは同じで
あって同じでは無い。
だから、自分は華夜月の尊と出来るだけ永遠に近い時の中を、神界で転生の輪を捨てて
恋人・夫婦として過ごしていきたいと思っている。
私は私でありたい。私が彼と一緒に居たいのだ。
そう、改めて思い、気付き、心が刹那に苛まれた。
なんて理は、無情なのだろう。
心が刹那に苛まれる中、先の少年の思いも痛いほど理解できた。
大切な人だから、諦められず危険を犯しても、命をかけても主人を救いたいと願って
全力で頑張ったのだ。
その思いを無駄にしてあげたくは無いと思った。
それに、少年の言う様にもし危険な鬼が神々の世界にいるのなら、みんなの為にも
このままにはしておけないだろう。きっと大変な事になるだろうし、今後、みんなに
何があるか分からないと思った。
「美巫?大丈夫か?」
華夜月の尊が、心配げな表情で尋ねてきた。
「私、決めました!五柱の一人である神様を探し出して、鬼退治です!」
「だから、私にもっと詳しく情報を教えて下さい!」
そう言い切った美巫のの眼は決意に満ちていた。