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マシューズ・マリネン 03 見知らぬジャベック

 その時、マシューズは少々無理をして迷宮を探索していて、うっかりと強力な魔物の集団と出会ってしまっていた。

そうとは気づかずに魔物の群れの部屋に入ってしまったのだ!

マシューズは戦闘タロスを出して自分を防衛するので手一杯だった。

攻撃はパメラとブリックに任せたが、魔物は想像を超えて強かった。

そしてパメラがやられた!


「パメラッ!」


愛着のあったジャベックだったが仕方がない。

それに次々と魔物が襲ってきて、今やそれどころではないのだ!

そして耐久力には定評のあるブリックまでもが、今や危なかった。

ついにパメラに続き、ブリックも魔物にやられた。


「ブリック!」


すでに魔物の8割以上は倒した物の、残る魔物をマシューズ一人で倒せるかどうかは、わからなかった。


しかしこの時、倒されたはずのブリックの中からサッ!と何かが出てきた。

それはどうやらジャベックのようだった。

身長はマシューズとほぼおなじ位で、長い銀髪の女性型ジャベックだ。

そのジャベックは疾風のように動くと残っていた魔物を瞬く間に全て退治した。

驚くべき強さだ!

あっと言う間に魔物の群れを倒すと、そのジャベックらしき者がマシューズに挨拶をしてきた。


「初めまして、御主人様、私はソーニャと申しますジャベックです。

今後御主人様にお仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」


やはりジャベックだったのか?

しかしこのジャベックはジャベックとは思えないほどに人間的で、ほとんど人間と区別がつかないほどだ。

話し方にも全く淀みがない。

しかも何故ブリックの中に入っていたのか、不思議に思ったマシューズはソーニャに聞いた。


「え?ジャベック?何でブリックの中に入っていたの?」

「はい、もちろんそのお話をさせていただきます。

しかし話の内容が少々長くなりますので、ここは不向きです。

宿屋に戻ってからお話しとうございます」

「わかった」


確かに魔物が発生するような場所で長話などおちおちと聞いてはいられない。

マシューズはソーニャの言葉を受けて、その日は宿屋に戻った。

宿屋の部屋へ戻ったマシューズが寛ぎながらソーニャに尋ねる。


「さあ、では話してくれないか?」

「はい、私はかつてリリカ王国という国の王宮魔道士をしていたソウイッチ・ホンザ様とおっしゃる賢者に使えておりました」


その話を聞いてマシューズは驚いた!

リリカ王国と言えば、かつてあったがすでに滅んだ国の名前だ。


「え?リリカ王国って、もう無くなった国だよね?

確か今はリリカ共和国に名前が変わったんじゃなかった?」


マシューズの質問にソーニャが答える。


「はい、その通りです。

ホンザ様はリリカ王国の初代国王と仲が良く、その方に頼まれて国づくりを手伝っておりました。

大変優秀な魔道士であったために、その国は順調に発展してゆきました。

ホンザ様は初代国王が亡くなってからも、息子であった次代国王を助け、仕えておりました。

2代目の国王様もホンザ様を頼りにして、国は小さいですが、国民は増えて、順調に発展していきました。

しかしやがてその方も亡くなってしまいました。

そして3代目の国王となられた方はホンザ様を嫌っていたのです。

王家2代に渡って仕えていたホンザ様を鬱陶しく思い、ホンザ様の忠告も受け入れませんでした。

初代の国王も二代目の国王様も孫である3代目の王に必ずホンザ賢者の言う事は聞くようにと言われましたが、それも無意味でした。

そして佞臣ねいしんの言葉にばかり耳を傾けて、ホンザ様をないがしろにするようになりました。

それどころかホンザ様は身の危険まで感じるようにさえなったのです。

やがてあまりにも王に対して危険を感じたホンザ様は引退されたのです」


忠臣が愚かな王に疎まれて追い出される。

ここまでの話はよくあるような話で、マシューズも似たような話を聞いた事はあった。


「なるほど、それで?」

「はい、ホンザ様は隠遁生活をして研究を続けておりました。

それなりに資産はございましたので、生活には困らず、魔法の研究に打ち込んでおりました。

そこで何体かのジャベックを作り、最終作品として私を作り上げたのです。

私はそれまでのジャベックの集大成のような作品でホンザ様も満足されたようでした。

私は他のジャベックと一緒にホンザ様の研究を手伝い、日々を暮らしておりました。

しかしそのような時に異変が起こったのです。

ホンザ様が王宮を去った後、三代目の国王は愚かで国はどんどん荒廃していきました。

せっかく2代に渡ってホンザ様の築き上げていった物もそのせいで、そのほとんどが消えて行ってしまいました。

そこで隣国が攻め込んで参りました」


国が弱体すれば他の国に攻め込まれる。

これまたよくある話だ。


「国王は一応戦おうとはしましたが、生まれてこの方、戦争などをした事もなく、毎日を遊び暮らしていた国王にそれは無理な話でした。

そして軍事部門のほとんどはホンザ様に頼っていたために、滅亡は目の前に迫っておりました。

国王は慌ててホンザ様に急使を送り、助けて欲しいと懇願しました。

ホンザ様も御自分が造った国が滅びていくのを看過できず、救援に向かおうと思いましたが、それには条件を2つ、つけました。

それは自分が軍事の全権を掌握する事、そして自分が名指しをした佞臣ねいしんたちを一掃する事です。

しかしこの願いは叶えられませんでした。

この頃は王宮もそのほとんどが王に媚を売る佞臣ねいしんばかりになり、自分の利益しか考えなかったために、ホンザ様を糾弾しました。

つまり、自分が国に返り咲き、国王の地位さえ狙っているのだと王に吹き込み、王はそれを信じてホンザ様を招聘するのをやめてしまいました。

僅かながらまともな忠臣も残っていたのですが、王がその言葉を聞きませんでした。

その結果、王国は滅び、国王一族は滅亡しました。

そして蹂躙の日々が始まりました。

リリカ王国を滅ぼした隣国は圧政をしきました。

リリカ王国を自分たちの属国にしただけではなく、税を苛烈なまでに上げ、必要とあらば国民を奴隷として徴発さえしました。

国民は喘ぎ疲弊していきました。

そこで残った忠臣たちがホンザ様に頼み込みにきたのです。

愚かな王はいなくなった。

どうかあなたの造った国の国民を助けて欲しい、と。

涙ながらに訴えるその者たちにホンザ様は心を動かされて立ち上がりました。

ホンザ様は事あるを考えて、私の他に自分の護衛と世話をするために造った高レベルの近衛のジャベックを三体と、数十体の戦闘ジャベックを作ってありました。

また、戦闘に備えて、数千に及ぶタロスを作成してグラーノ化しておりました。

このような事があるのではないか危惧していたためです。

そのジャベックとタロスを率いてホンザ様はかつて御自分が造った国に向かい、かって知ったる王宮を瞬く間に攻め落としました。

そしてその翌日にはその勢いを持って隣国にまで攻め入り、1週間も経たない内に相手を攻め滅ぼしました。

リリカ王国は隣国を併合し、新たなる国を作りました。

これが現在のリリカ共和国です。

国民はホンザ様に国王になるように強く希望しましたが、ホンザ様はそれを受けませんでした。

その代わり暫定的な領主となり、共和制の礎を作り、それが終わると後の事は後裔にまかせ、再び引退をしました。

私達ジャベックはホンザ様が引退なさった後も、お手伝いをしておりましたが、ホンザ様は余命僅かになると、特殊な命令を私に出しました。

それは自分の死後、ほとんどのジャベックたちはそのままリリカ共和国に仕える様にするが、私を初めとして数体の側近ジャベックは国を出て人探しをして欲しいと。

そして自分に似たような人間を見つけたら、その人間に仕えるようにという命令を受けました。

私はホンザ様によってグラーノ化した側近の三体と共に煉瓦型ジャベックの中に隠されて、新たなる主人を探して諸国を放浪する事となりました。

煉瓦型ジャベックの中にいたのは、新しい御主人様探しは長期にわたるので、その間に私の本体を老朽化させないこと、そして私の素性と能力を知れば、心無い者たちが何とか自分の物にしようと画策するために、それを避けるためだそうです。

そのためにわざとその煉瓦型ジャベックは力と耐久性はありますが、鈍重なジャベックとして造られました。

そして私は各地を放浪し、遂にあなた様を見つける事が出来ました。

あなた様こそが私の新しい御主人様です。

私はレベル250の魔法賢者級ジャベックで、生産ジャベック能力も備えて7種類のジャベックを生産可能でございます。

私は戦闘型煉瓦ジャベックとして転々と持ち主を変え、先日中古ジャベック屋で売りに出された所、あなた様が通りかかりましたので、購入していただこうと後をついていった次第でございます」


ソーニャの長い話は終わった。

おかげで大体の事情はわかったが、一番肝心な部分の事がわからなかったので、マシューズはその部分をソーニャに聞いてみた。


「でも何で僕なんだい?

今までだって色々な人のジャベックとして仕えていたんでしょ?」

「それは煉瓦型戦闘ジャベックとして仮に仕えていただけです。

私の本当の御主人様は現在は暫定的ではありますが、あなただけです。

それはあなた様の魔法紋が先代の御主人様に似ているからです」

「魔法紋が?

しかし僕はたかだか使空魔法士水準だよ?

何で反応したのかな?」


魔法紋は指紋のように一人一人が違う。

そして魔法紋が似ている人間は性格や魔法能力も似ていると言われている。

しかしマシューズはたかだが使空魔法士で、正規の魔道士ですらないのだ。

賢者である先代とは差に開きがありすぎる。


「はい、先代様は私の次の主人を自分と似た魔法紋の方をするようにと私に申されました。

私はそのための魔法紋測定機能も持ち合わせております」

「なるほどね、でも今言った通り、僕は高々使空魔法士だよ?

賢者だった先代とは比べ物にならないんじゃないかな?」

「確かに魔法の才能などは先代の方が高いかも知れませんが、そのような事は些末な事で、問題ではございません」

「では今から僕より優秀で魔法紋が同じ人間を見つけたらどうするの?」

「あなた様が亡くなった後でしたら、場合によってはその方にお仕えするかも知れませんが、現在、私があなた様を主人と認めた以上、あなたが亡くならない限り、たとえ同じ魔法紋を持つ方を見つけようとも、決して主人を変える事はございません。

そのために私は失礼ながらブリックとして煉瓦ジャベックの中で、あなた様の行動を観察させていただいたのです。

ホンザ様が御自分と似たような魔法紋を所有する物であっても、決して邪悪な行動を取る人間に仕えてはならないと固く命令されていたので、申し訳ありませんがあなた様を観察させていただいていたのです。

これが私が煉瓦ジャベックの中にいたもう一つの理由です。

そして現状では暫定的ではありますが、あと一つの試練をあなたが合格すれば私は完全に貴方様の僕となります」

「あと一つって何?」

「それは貴方様がコルプトユージャントに合格する事です」

「なるほど」


コルプトユージャントはケット・シーによる審査の事だ。

3名以上のケット・シーに審査されて良しとされなければ合格にはならない。

そして悪しき心を持つ者は合格できないのだ。

説明をされてマシューズはようやくすっきりとした。

こうしてソーニャは暫定的にマシューズのジャベックとなった。


そしてソーニャには配下として3つのジャベックがついていた。

ホンザ賢者とやらの近衛を務めた三体のジャベックだ。

それぞれレベル230で、女性猫獣人型汎用剣士ジャベックの「アーシャ」、女性人間型汎用魔戦士ジャベック「メルーシャ」、そして女エルフ姿の魔道士型ジャベックの「エリーシャ」だった。

剣士型ジャベックのアーシャは剣技ならばソーニャにも匹敵し、魔戦士型ジャベックのメルーシャはそれよりはやや弱い物の、魔法は魔道士並みに使えるので、非常に重宝した。

そして魔道士型ジャベックのエリーシャは魔法学士並みの魔法が使えるほど優秀だった。

この三体はソーニャと一緒に賢者ホンザの指揮の下に、隣国から攻め込まれた時に一旦占領された王国を取り戻し、国を復興した三体なのだそうだ。

そしてソーニャはさらに自分が生産したレベル145の魔道士級魔戦士型ジャベックを五体、レベル100の使空魔法士級魔戦士型ジャベックを10体、レベル50の汎用ジャベック20体をグラーノ状態で所持していた。

これはちょっとした戦力で、小さな国の軍隊にも匹敵するので、マシューズは驚いた。


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