マシューズ・マリネン 01 運の良い三男
マシューズ・マリネンは結構な魔法能力と、結構裕福な家の生まれだった。
結構な魔法能力とは、少なくとも魔法士、おそらくは魔道士にはなれる才能。
そして結構裕福な家とは、少なくとも三男を初等魔法学校に入れて、魔法士には出来る程度の資産を持っている家だ。
それがとても運が良いと言えるほど、運が良かったのかはわからないが、少なくとも貧民層に生まれなかったのは運が良かったと言えるだろう。
ましてやこの世界で魔法士になれるほどの才能を持って生まれたのは、かなり運が良いと言える。
そしてマシューズは兄たちと年の離れた三男だったので、父マリオの商売は兄二人が継いで、自由気ままにする事が出来た。
マシューズは魔法士になった後で、個人的に飛行魔法を学び、初歩の飛行術で空を飛べるようになり、さらに使役物体魔法の初歩を学び、タロスを作成可能となって、使空魔法士、すなわち使役物体魔法を操れて、空を飛べる魔法士となる事が出来た。
正規の魔道士にもなろうかと考えたが、それには3年もかかるし、兄二人は一般初等学校しか出ていなかったので、ただでさえ自分は金のかかる初等魔法学校へ通わせてもらっていたのに、その学費を全て親に払ってもらうのは兄二人の手前気が引けたのだ。
それにこの世界では正規の魔道士にはなれなくとも、魔道士補と使空魔法士ならば、身分としては魔道士補の方が上だが、実際に働くとなれば、使空魔法士の扱いの方が、良い場合が多い。
なぜならば魔道士補では、何かの魔法が魔道士と同じ五級程度である事を意味するだけだが、使空魔法士ならば、確実に空を飛べて、使役物体魔法を使えるのが間違いないからだ。
そちらの方が単なる魔道士補よりも遥かに使い手がある。
従って就職する場合でも魔道士補よりも、使空魔法士の場合が待遇が良い場合が多い。
そう考えてマシューズは使空魔法士になったのだった。
そしてしばらくの間は一人で気ままに過ごしたかったマシューズは、一人で稼げるもっとも人気のある職業、すなわち迷宮探索者になる事にした。
そしてマシューズは基本的な事を着実に学んでから行動する性格だったので、親に頼んでアースフィア広域総合組合のロナバールにある初等訓練所の費用だけは出してもらった。
1か月後にはそこを卒業して7級の組合員となって自分の町へ戻り、いわゆる冒険者の道を歩み始めていた。
しかし、実際に一人で迷宮の探索などをし始めてマシューズは少々困った。
やはり一人では限界があるのだ。
マシューズの場合は使空魔法士なので、攻撃、回復共に魔法で出来るし、使役物体魔法でゴーレムを作る事は可能なので、普通の組合員よりは困らないが、やはり一人では心もとない。
特に毒攻撃などはまだましだったが、もし麻痺の攻撃を喰らうようになれば、かなり危険なのは明白だった。
だが、マシューズは当分の間は気ままに仕事をしたかったので、あまり人と組む気はなかった。
マシューズにとって、人に命令されるがままに迷宮を探索するのは苦痛だったし、かと言って、いちいち意見を仲間に言うのも面倒だったのだ。
マシューズは社交性がない訳ではなかったのだが、若いうちは単に気ままにしたかったのだ。
そして仮に自分がリーダーになるにしても、人に指示しながら他人に気を使わねばならないのがやはり面倒だった。
つまり人と組むのは嫌だが、仕事をするのに一人では心もとない。
それはあまり苦労のない人生をおくってきた少年の矛盾した贅沢な悩みだという事はマシューズ自身にもわかっていた。
いずれそんな事は言ってはいられなくなるかも知れないが、少なくとも10代位までの間は、出来れば自由気ままに一人で仕事をしていたい。
まあ、20代を過ぎれば考えが変わって人と組む気にもなるかも知れないし、そもそも迷宮探索者の仕事以外の事をやりたくなるかも知れない。
それまでは一人でのほほんと仕事をしたかったのだ。
それがマシューズの心境だった。
そうなるとジャベックを購入して迷宮に行くのが良いのだが、生憎マシューズはまだそこまでの稼ぎはなかった。
マシューズはまだ7級なので、1日の稼ぎはせいぜいの所、銀貨7~8枚分という所だった。
これは7級の稼ぎとしては良い方だったし、食べて行くには困らないが、さほど貯金を出来るほどの金額ではなかった。
マシューズはまだ実家暮らしだったので、その分は貯金できたが、それでもジャベックの購入にはほど遠かった。
もちろん、単なる雑役用のジャベックなら買う事も可能だったが、それを連れて迷宮で戦闘をするのは論外だった。
そんなジャベックではせいぜいゴブリンに勝てる程度であろう。
やはりせめてレベル50ほどはある戦闘ジャベックを欲しかった。
欲を言えば、攻撃か、回復の魔法が使えるジャベックだ。
そのためにはせめて中級訓練所を出て、五級程度にならなければ無理だ。
五級にもなれば稼ぎも多くなるので、さし当たってはそれを目指す事にした。
中級訓練所に入るのに、また父に頼もうかとも考えたが、すでに組合員として仕事をしている身で、やはりそこまで頼むのは気が引けたマシューズだった。
そんなある日、マシューズが町の近くの迷宮探索を終えて家に帰ると、見慣れないジャベックがいた。
マシューズの実家は遠距離の行商を営んでおり、商隊の護衛などのために自前のジャベックも持っていたのだが、それは見かけないジャベックだったので、父に尋ねてみた。
「あれ?父さん、新しいジャベックを買ったの?」
「ああ、最近新規開拓をして新しい商売先を見つけたんだが、そこへ行くにはどうしても一箇所魔物のレベルが高い場所があってな。
そこを通らないで迂回するとなると、3倍近い日数がかかるんで、経費が嵩むからどうしても通らざるを得ない。
だから思い切って新しい護衛ジャベックを買ってみた。
まあ、前のを下取りしてもらえたので、結構安くは買えたがな」
「そうなんだ?」
「ああ、しかし買ってから少々困ってしまってな」
「どうして?」
「買ってから気がついたんだが、マリネスクにしてもマリオーネにしても、レベルが低くてな、このジャベックを指揮して商隊の護衛につけるには少々心もとないんだ。
しかし専門の護衛や指揮を組合に頼むとなると、経費がかさんで儲けが大して取れそうにないんだ。
それだとわざわざ商売先を新規開拓をした意味がなくてなあ・・・
それで困っているんだ。
今回買った護衛ジャベックのレベルは60もあるから強さには問題はないんだが、指揮を執る者のレベルがもう少しないとさすがにな」
「いくつくらい?」
「そうだな、まあ最低でも45は欲しい所だな。
しかし「上げ屋」に頼むとなると、あれはあれで金がかかるからな。
それでどうしようか悩んでいる」
「ああ、確かにね」
上げ屋というのはレベルを上げる事を商売にする連中の事だ。
彼らに頼めば遅くとも1週間、早ければ3日ほどで目的のレベルまで上げてくれるが、その分、金額も高い。
目的のレベルにもよるが、金貨の50枚や60枚は取られてしまう。
日数を短くするなら金貨80枚位取られてしまうかも知れない。
二人分ならばその倍だ。
さすがにうちの父親でも、貴族でもないのにレベルを上げるだけに金貨100枚以上はかけていられないだろう。
「わしもあいつらがもう少し強いかと思って、いちいち確認しなかったのも悪かったが、本人たちが無理だと言うもんでな。
だから困っているのさ」
「なるほどね」
「ああ、それで何か良い方法はないか困っていたのさ・・」
考え込む父に対して、マシューズは自分の考えを父に提案してみた。
「それじゃさ、こういうのはどう?
兄さんたちをロナバールにある組合の訓練所に通わせるのさ」
「組合の訓練所に?」
「うん、初等訓練所に1ヶ月、中級訓練所に3ヶ月通わせるんだよ。
合計4ヶ月ね。
中級訓練所に通うと、卒業する時にレベル50にはしてくれるのさ」
「そりゃ、確かにそうだが、あの二人はお前と違って戦闘の組合員でもないし、その4ヶ月の間の商隊護衛がいなくなるだろうが?」
「だからさ、兄さんたちを組合員として登録して、4ヶ月間そこで訓練するんだよ。
あそこは組合が経営しているから中級訓練所でも3ヶ月で金貨3枚の授業料で済むのさ。
多少時間はかかるけど、上げ屋に頼む事を考えたら格安だろう?
だからまずマリネスク兄さんに4ヶ月通ってもらってレベル50にしてもらう。
その後でマリオーネ兄さんに4ヶ月通ってもらう。
そうすれば二人ともレベル50になるじゃないか?
その後でちょっとした組合の仕事をしてから、やはり自分に合わないから辞めるという事にして、組合員の登録を商業専門にすれば問題はないよ。
さすがに卒業していきなり登録変更は世間体があるからね。
それで兄さんたちが訓練所に通っている8ヶ月の間は僕が商隊の護衛をするよ」
「お前が?お前、そんなにレベルが高かったか?」
マシューズは三男で、上の二人とは年も離れている。
そのため父親はあまりマシューズにはかかわらず、放任状態だったので、息子の実情を知らなかった。
正規の魔法士ではある事は知っていたが、そんなにレベルが高かったかといぶかる父親に本人が答える。
「いや、今の僕のレベルは32だけど、これでも使空魔法士だから、多少戦闘タロスも出せるし、護衛ジャベックをつけてもらえば、商隊護衛と指揮は十分出来るよ」
その三男の提案は確かに良さそうだった。
父親はしばらく考えると、うなずいて返事をする。
「なるほど、それなら確かに大丈夫そうだが、お前はそれでいいのか?
8ヶ月もこっちの仕事をして、組合の方は大丈夫なのか?」
「まあね、だから代わりに兄さんたちが中級訓練所を卒業したら次に僕を入れてよ。
訓練所に通っている間は仕事をしている扱いになるからさ。
僕も自分のレベルをもう少し上げたいからさ。
そして兄さんたちが通っている間は商隊護衛を組合に依頼してくれれば良いよ。
護衛の金額を1週間で銀貨1枚とか、誰も受けないような安値にしてね。
それを僕が受ければ問題は無い。
そうすれば僕も組合に対して仕事をしている事になって、言い訳が立つからね。
それと僕が訓練所を卒業したら護衛していた間の給料代わりに、僕にジャベックを一体買って欲しいんだ」
「ジャベックを?」
「うん、レベル70位の奴をね」
「ふむ・・・まあ、うまく行けば、それ位買ってやっても良いが・・・
お前、それで本当に良いのか?」
「うん、中級訓練所に入れてくれて、ジャベックを買ってくれるならそれで良いよ」
「よし、わかった。ではそれでやってみよう」
この提案は兄たちにも受け入れられて、早速長男のマリネスクが初等訓練所に通う事となった。
そして4ヵ月後には無事中級訓練所を卒業し、次に次男のマリオーネが訓練所に入った、
8ヵ月後にマリオーネが卒業すると、いよいよマシューズの番となった。
「お前のおかげで新しい商圏も開拓して獲得できた。
8ヶ月もすまなかったな」
「別にいいよ。
これで僕が卒業したらジャベックを買ってくれるなら」
「ああ、新しい交易も順調だし、良いのを買ってやるぞ」
「ありがとう」
こうしてマシューズは兄たちに続き、自分が希望した組合の中級訓練所に運よく入所する事が出来たのだった。
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