トム・サテナ 21 診療所と宿泊所
サクラ軽食堂は開店以来順調だった。
そこは毎日人で賑わい、近隣から来てパンを買って行く者、食堂でパンを食べていく者、そして食べ終わってからさらにまた土産にパンを買って行く者と、毎日が大繁盛だ!
あまりにも忙しいので、当初予定していた馬車や飛行艇による移動パン屋はしばらくの間は、あきらめなければならないとメロディールさんがこぼしていたほどだ。
なぜならば、あまりの人出に、本来は移動店舗である馬車や飛行艇の中にある厨房設備を使って、追加でパンを焼いても足りなくなったほどだったからだ。
聞いた所によると、俺がパン屋として作った建物の予備で作った部屋を、予備の厨房に改造したのに、それでもパンを焼くのが間に合わないほどらしい。
そして当初は自由日と休日は店舗を休みにしようと考えていたらしいが、当分の間は自由日も営業をすると言っていた。
流石に休日は休業日にするようだ。
メロディールさんや各移動店舗の店長さんたちは移動販売をする前にこれほど忙しくなるとは思わなかったと驚いていた。
そして俺はいよいよ村長様に言われた診療所を作り始めた。
基本的な構造や内装はポリーナたちに教わったパーシモン村の診療所やホウジョウ先生が迷宮で作った診療所をまねた物だ。
さらに俺は参考にするために、ジェリーと一緒にこの辺で最も大きな町であるアジャスタの診療所も見学をしに行った。
アジャスタの町には魔法協会の診療所の他に、4つほど診療所があった。
そのうちの二つは正規の魔道士が開いている診療所で、一つは六級の治療魔法士が運営している診療所、もう一つは単なる七級の治療魔士が薬屋も兼任で運営している診療所だった。
そのどれもが参考にはなったが、ホウジョウ先生やポリーナの所のようにジャベックを使って治療している所等は一箇所もなかった。
魔法協会の診療所ですらだ。
そもそも聞いた所によれば、魔法治療ジャベックというのは相当高価らしい。
実際の所、俺もそれを売っているのを見た事がないので、正確な値段はわからない。
ポリーナの所にあるのも、高祖父であるゴブリンキラーさんの形見のノーザンシティ製ジャベックと、ホウジョウ先生からもらったうちのマイクやナンシーと同じ型のオリオン級のジャベック、そして知り合いを経由してメディシナーから贈呈された物だそうだ。
そりゃどれもこれも滅多にない高級品だ!
そこまでは及ばないにしてもうちの村の周辺ではジャベックを使って治療をする場所などどこにもない。
いや、そもそもアジャスタ以外には診療所その物がないのだ。
この様子だと、治療ジャベックが全部で6体もいるうちの村の診療所は、どうやらこの界隈でも画期的な診療所になりそうだ。
そしてあちこちを参考にして作った診療所がついに完成した!
診療所所長にはロバート師匠が就任し、副所長はジェリーだ。
実際の診療は主にサーバントやヘルパーが携わり、深手の傷などの場合はナンシーが、それでも手に負えない時は師匠やジェリーが診察する事になった。
俺とマイクはクルティボと共に村の開拓で忙しいし、三人組も当分は師匠に魔法を教わりながらサーバントやヘルパー、ラボロたちと共に村の防御壁作りにいそしんでいる。
薬の方は当座は俺や師匠が魔法結晶を作って、それを毒消しや治療薬として売る事にした。
そして将来的にはポリーナからもらってきた種や薬草で村に薬草畑も作っているので、それを使っていずれは様々な薬も売るつもりだ。
ようやくの事で我が村に出来た診療所やパン屋は順調だった。
しかしそれに伴い、困った事が起きた。
村に色々と出来たおかげで人の出入りが多くなったものの、徐々にそれを捌く事ができなくなって来た。
特に遠方から来た人々の泊まる場所がないのだ。
うちの村には宿泊施設などはない。
今まではそんな物の必要がなかったからだ。
そもそもうちの村に用事がある場合は、大抵知り合いに用事がある訳で、泊まる場合はそこへ泊まれば良いだけだった。
うちのような田舎村で、それ以外の用件など、まずある訳が無い。
村に知り合いもいなく、どうしても泊まる場所がない場合は、村長様の家が宿代わりだったが、それも頻繁になってくると、そうも行かなくなって来た。
何しろ多い日は村の人口の数倍もの人が訪れるようになったのだ。
最近は乗ってきた馬車にそのまま寝泊りする人たちも多くなって来たようだ。
その結果、必然性に迫られて、俺は村長様に頼まれて、宿泊所も作る事になってしまった。
診療所とパン屋の近くに旅館が作られる事になり、そこには一緒に売店を併設する事となった。
村には万屋が一軒あるだけだったし、そこの店番をしていたばあさんはもう年だったので、これを機会に引退して、村長様があらたに村の若い者を数人雇い、そこの店員とした。
そこでは一般日常品や旅の必需品も売る事となった。
宿の方もジェリーを初めとした村の女衆数人と、ラボロたちで運営する事となった。
ジェリーはその宿の女将という訳だ。
もちろん、その宿にはホウジョウ先生の薫陶が行き届いた俺が、ハーベイ村の風呂を参考にした広い風呂を男女別に作ったために、その宿も評判となった。
特にポリーナに教わって作った薬湯風呂が一番評判が良いようだ。
もっともパンを買いに来ただけで、単に一晩泊まれれば良いと言う人も多かったので、俺は屋根と寝床だけを作った簡易宿泊所のような物も作って、そこは一晩大銅貨5枚という破格の値段で泊まれるようにした。
最初は宿泊料を無料にした上で、客任せにして開放しようかとも考えたのだが、そうなると客同士で場所の諍いも起こるし、なによりそこに住み着いてしまう者が出てきそうなので、一応小額でも金は取る事にした。
ちなみに基本的に普通の宿の客は風呂は入り放題だが、簡易宿泊所の方の客は風呂は別料金だ。
そしてうまいパンと簡単な食事、診療所と薬、広く気分の良い風呂があると評判になったうちの村は近隣でちょっとした保養旅行場所となってきた。
さほどこれと言った物はないのだが、のんびりと温泉に浸かり、うまい食事が出来るというだけでもこんな田舎では十分な客引き効果があったようだ。
特にアジャスタの町の人たちにとっては近場の良い旅行先になったらしい。
アジャスタにも風呂屋や宿泊所はあるが、それはそれぞれ別物で、うちの旅館のようにゆっくりと風呂に入った後で食事をして、そのまま泊まって寝れるのが受けたようだ。
その結果、毎日のようにほどほどの客がうちの村に訪れるようになった。
これは予想外の事だった。
もっともこれ以上客が来ても、今のこの村の状態では捌き切れなくなって、正直困っただろう。
うちの村程度の規模ならば、この程度で丁度良い。
それでも人の出入りは昔から考えれば信じられないほど多くなり、村にそれなりに金が落ちるようになって来たので村長様も大喜びだ。
ジャックもこれで自分が将来村長になった時は楽が出来そうだと俺に笑って話している。
こうして今や俺の名前がついた我がサテナ村は、ほんの数年で大発展した村として近隣でも評判になっていった。
私用でここ数日家を空けるので、トムの話は数日おいて、あと1話だけ書きます。
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