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トム・サテナ 20 サクラ軽食堂サテナ村支店

 俺たちがパーシモン村から帰って来ると、そこではすでに大掛かりな工事が行われていた。

ロナバールの魔法食堂には敵わない物の、パン屋としては恐ろしく大掛かりな店だ。

うちの村で一番大きな建物になるのは間違いないだろう。


「これは・・・」


俺がその大規模な工事に驚いていると、マルセルさんがやって来た。


「ああ、トムさん、ジェリーさん、ちょうど良い所へ」

「何でしょう?」

「うちの店で売るパンの見本が出来たので、試食をお願いします」

「パンの試食?わかりました」


俺たちはマルセルさんに呼ばれて、村長様の家へと行った。

そこにはすでに村長様と師匠、そしてジャックがいた。


「全員御そろいになりましたね?

それでは今回は当サクラ軽食堂で売る予定の通常のパンと魔法パン、それにこの店を開店するに当たってホウジョウ様が新開発された、あんパンとクロワッサンとメロンパンを試食していただきます。

どうぞ食べてみて忌憚のない意見をお聞かせください」


その始めて聞く名前の物に俺たちはキョトンとした。


「え?あんぱんにくろわさんにめろんパン?」

「全てホウジョウ子爵様が開発なされたのですか?」

「はい、その通りです。

特にこのメロンパンというのは個人的にパン屋に絶対欠かせないとホウジョウ様がおっしゃってましたね」

「ふむ、それは興味深いですな」

「まずは一番基本となる、通常のパンと魔法パンからどうぞ」

「わかりました」


俺たちは早速そのパンを食べてみた。

まずは普通のパンと魔法パンからだ。


「うむ、やはりこの魔法パンはうまいですな」

「ええ、でもこの普通のパンもその辺で売っている物よりもはるかにおいしいとおもいますわ」

「そうじゃな」

「はい、うちではこれを通常よりも安く売ろうと考えております」

「なるほど、それは頼もしいですな」


続いて新開発のパンとやらを食べる。

まずは何やら弧を描いたような形のグルグル巻きのパンからだ。


「な、なんだ!このくろわっさんというパンは?」

「ええ、こんな軽くてサクサクしていて・・・とてもおいしい・・・」

「それはホウジョウ様の故郷の国の言葉で三日ルミナを表す言葉だそうです」

「なるほど!確かにこの形はそんな感じだな?」


その形を見て俺が感心していると、ジャックが驚いて叫ぶ。


「なんだ!このアンパンってのは!」

「うむ、これはトムに食べさせてもらったあんまんというのに似ているが、また少々違うようだな」

「このメロンパンというのも変わっているがうまい!」

「菓子パンの一種のようだが、こんなのは初めてだ!」

「ああ、面白いし、どれもうまい」

「私はこのメロンパンというのがとても気に入りましたわ!」


俺たちがバクバクとパンを食べているのを見てマルセルさんが質問をする。


「いかがですか?

わがサクラ軽食堂の主力製品のパンは?」

「文句なしです!」

「ええ、これだったら私、一日程度の距離だったら毎日でも通いそうですわ!

特にこのメロンパンとかいうパン!

これは毎日食べてみたいくらいですわ!

その店がこの村に出来るだなんて!」

「ああ、こりゃ楽しみだぜ!」

「うむ、私も何も文句は無いな」

「全くじゃ」

「それではこれに角食パンを加えた6種類のパンをここの店の主力としましょう」

「ええ、是非お願いします」

「承知しました。

それでは御好評のようですので、この方向で店を運営して行く事にしていきます。

そうそう、トムさんが作ったあのパン屋の建物は、うちで買い取らせていただき、通常のパンと魔法パンの専用工房兼販売所とさせていただきます。

買取金額は金貨80枚でいかがでしょう?」

「え?それは村長様の方にお支払いください」


しかしここで村長様とジャックが俺に話す。


「いやいや、トムよ!

それは御主が取っておいてくれ!

あれは御主が建てた物だし、御主にはこれまでも散々世話になっているのだからな!」

「そうそう!これから診療所も作ってもらわなきゃならないんだからな!

苦労代の前払いみたいなもんだよ!」

「やれやれ、そうなのか?

ジャック?」

「そういう事さ!」

「では買い取り金はトムさんの方へお渡しという事でよろしいですね?」

「どうもそういう事らしいです」


こうしてサクラ軽食堂の販売品も決まり、工事も順調に進んだ。

俺たちはそれを楽しみにしながらも薬草畑や、診療所作りにいそしんだ。

俺たちは試食したパンの話をアオキンたちに話していた。


「へえ?それじゃ今度出来るその新しいパン屋のパンってのはそんなにうまいんですかい?」

「ああ、アオキンたちも店が出来て食べたらきっと驚くぞ!」

「そりゃ楽しみですな」

「あっしもです」


キーロとアカーラも楽しみにしているようだ。

 

 そして1ヶ月ほどが経ち、いよいよその日がやってきた!

当日はうちの村だけでなく、近隣の町村でも宣伝をしたので、結構な人出だ。

いや、これほど人がこの村に来たのはおそらく村でも初めてだろう。

俺がその人数に感心していると、思いがけない人物が挨拶をして来た。


「やあ!トム!君の結婚式以来だね!」


それはホウジョウ先生だった!


「ホウジョウ先生!それにグリーンリーフ先生やペロンたちまで!」


そこには青き薔薇ブルア・ローゾの面々がそろい踏みだ!

ホウジョウ先生が笑いながら話す。


「何しろうちの初めての軽食堂開店だからね。

みんなで様子を見に来たよ」

「ありがとう!

うちの村長様もこんな田舎の村で、こんな立派なパン屋を出せて大喜びだよ。

これからはいつでもうまいパンを食べられるってね」

「いやいや、感謝するのはこっちさ。

広い場所を無償で提供してもらって、その上で試験店の運営に協力してもらってね」


全く今や立派な貴族様だというのに、相変わらずこの人は腰が低い。


「まあ、とにかく助かったよ」

「で、どうだい?あんパンとかメロンパンは食べてみたんだろう?」

「ああ、実にうまかったよ!

あんなパンがあるとは想像もしなかった!

相変わらずホウジョウ先生の考える物は凄いな!」

「ははは、アレはみんな私の故郷では人気のパンなんでね。

こっちでも人気は出ると思うよ」

「ああ、全くだな!」


ここでホウジョウ先生がふと思い出したように俺に尋ねる。


「そういや、トムは何か大捕り物をやったんだって?」

「ああ、ちょっと成り行きで引き受けざるを得なくなってね」

「へえ?どういう事なんだい?」

「ああ、それは・・・おい!アオキン!キーロ!アカーラ!

ちょっとこっちへ来い!」


俺に呼ばれて三人組がやってくる。


「へい、旦那、何でしょう?」

「こちらの方がお前の本物だ!

よく覚えておけよ!」

「へ?本物って?」

「こちらの方がホウジョウ子爵閣下だ!」


それを聞いてアオキンは仰天する!


「はっ?こちらの方が?

へへ~っ!もう二度とあんなマネはいたしませんので、どうかお許しを!」

「本物って?どういう事?」


ホウジョウ先生が不思議そうに聞いてくるので、俺は三人組とホワイトウィーゼルとの事の顛末を青き薔薇ブルア・ローゾの面々に話した。

話し終わると、やはりホウジョウ先生は俺の予想通り面白がっていた。


「ははっ!なるほど!

それでトムがその俺の偽者を暴いて、そのついでに盗賊団を退治したって訳か!」

「そうなんだよ。

ホラッ!お前ら!この方がシノブ・ホウジョウ子爵閣下で、こちらの皆様がトリプルスターの中核とも言える「青き薔薇ブルア・ローゾ」の皆さんだ!

よく覚えておけよ!」

「ひえっ!トリプルスターの主力は、あの「青き薔薇ブルア・ローゾ」だったんですかい?」

「なんだ?お前ら?青き薔薇ブルア・ローゾの事も知っていたのか?」

「そりゃ組合では色々と噂されてますからね」

「そうか?それなら話は早い。

とにかくもう二度とあんな事はするなよ!」

「もちろんでさぁ!」

「わかってまさぁ!」

「当然ですよ!」


アオキンたちがそう胸を張って答えると、その話を聞いていたグリーンリーフ先生や、シルビアさん、ミルキィたちが三人組に向かって冷たい表情で淡々と話す。


「そうですね、今後もしホウジョウ様の名など騙ったら、私が直々にあなた方を消し炭にすると覚えておいてください」

「ええ、私もです」

「いえ、エレノアさんやシルビアさんが消し炭にするまでもなく、私が細切れにいたします」

「そうですとも、私が火達磨にしますよ」

「ああ、私もね」


同じようにアンジュやライラもうなずく。

怖い!この人たち、ホウジョウ先生のためならこんな怖い事をためらい無く言う人たちだったのか!

さらにそばにいたヒンデンブルクさんやザクセンさんたち男衆も三人組をギロリと睨んで注意する。


「いえ、ミルキィ殿たちが出るまでもありません。

そのような事があれば、我らでこやつらを始末いたします。

よいな!お前ら!覚悟して置けよ!」

「ああ、ホウジョウ様が許すとも、我らがそのような行為を見過ごすと思うなよ!

今後そのようなマネをしたら最後、地の果てまで追いかけて切り刻んでやる!」

「むしろ、トムの部下でなければ、今この場で我らが切り捨てる所だ!」


そう言いながら腰にある剣に手をかける。

そして俺が見た事のない強面の兄さんもドスの聞いた声で三人組に話しかける。


「いや、ここは一番新参のそれがしが・・・」


そしてその人が今にも3人を切りそうになる!

何だ!この人!めちゃくちゃ迫力があって凄く怖いんだが?

その会話を聞いた三人組が震え上がる!


「ひいぃ!どうかご容赦を!」

「へい!もう二度とそのような愚かなマネはいたしません!」

「今はトムの旦那の下で真面目に働いておりやすので、どうかご勘弁を!」


そのやり取りを見ていたホウジョウ先生が部下たちに話す。


「ははっ!これでもう十分そいつらの肝も冷えただろう!

アレックたちもそれくらいにしておいてあげなよ!

リュウゾウもね」

「はっ!かしこまりました!」

「ホウジョウ様がそうおっしゃるならば」


どうやらホウジョウ先生のおかげで三人組も相当身にしみたようだ。

この凄い迫力の兄さん、リュウゾウって言うのか?

ホウジョウ先生の配下らしいけど、迫力が凄まじいな!

まったくこの人もどんどん配下に凄い人が増えて行くよな?

さすがは子爵様だけの事はあるよな?


 そしてそのホウジョウ先生の開店の挨拶があって、いよいよ店の開店だ!

店は大混雑をして、店員たちはあまりにも忙しくて見ていて気の毒なほどだった。

俺は店の協力者として、こっそりと全種類のパンをいくつか開店前にもらって家に持ち帰っていた。

それを食べたアオキンたちは大騒ぎだった!


「これは確かにうまい!」

「ええ、こんなパンを食べたのは生まれて初めてでさぁ!」

「あっしもです!」

「いや、旦那にうまいパンだぞとは聞いていましたが、これほどうまいとは・・・」

「このパン屋がこの村の、しかも俺たちの家のすぐ横に出来るとは・・・」

「ああ、こんな贅沢はないな」


どうやらうちの連中にもサクラ軽食堂のパンは大好評のようだ。

パンの値段は魔法パンやそれと同じ調合粉で作った魔法角食パンは普通のパンの2倍ほどの値段だが、それでも飛ぶように売れた!

その逆に普通のパンは村に利益還元だと言って、他のパン屋で売っている物よりも3割ほど安い上に、他の村や町で売っているパンよりもうまかった!

さすがにあんパンにクロワッサンやメロンパンは普通のパンの3倍以上の値段だったが、それでも大好評で初日は相当な数を用意していたにも関わらず、焼くのが間に合わなくなるほどだった。

どうやらうちの村に出来たパン屋は大成功のようだ。


 実際、サクラ軽食堂はその日以来、毎日が大繁盛だった!

初日でサクラ軽食堂のパンを食べて、土産にも買って帰った人間が、それぞれの町や村で勝手に宣伝をしてくれたために、むしろ毎日客が増えていったほどだった!

俺が最初にパン屋として作っておいた建物は、当分の間は普通のパンと魔法パンだけの専売所となったが、それでも大賑わいだったほどだ!

数日後に店長兼この地区の地区部長となったメロディールさんが疲れながらも満足そうな顔で俺に報告に来た。


「トムさんにあの建物を作っておいていただいて大助かりでしたわ!

あれが無ければ、今頃どうなっていた事やら・・・」

「ははは・・・それは良かったです。

私も自分で作った建物が無駄にならずに良かったです」

「ええ、おかげで大助かりですわ」

「こちらもパンの材料にうちの村の小麦を買ってくださって、村長も大喜びですよ」

「ええ、こちらも助かっておりますからお互い様ですわ」


無事にパン屋も出来て、俺たちはいよいよ診療所作りをする事となった。


おう!本来ならば本編で先に出すはずの主要キャラを、チラッと外伝で先に出してしまいました!


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