トム・サテナ 17 村の防衛強化とパン屋
無事に大幅にレベルを上げて村に戻った俺たちは村の防衛策を考えた。
いつあのホワイトウィーゼルのような盗賊が来ても村を守れるようにしなければならない。
しかし残念ながら、うちの村ではホウジョウ先生の所やハーベイ村のように資金が湯水のように使える訳ではないので、贅沢な防衛策は出来ない。
だが幸いな事にタロスは数千体も使う事が可能なので、数に頼る防衛策を考えた。
まずは村の周囲に空堀を掘ってその土で土塁を積み上げる。
現在うちの村は昔の部分と俺が開発した部分の2箇所に分かれるので、昔の村の部分は集落が集中しているその中心部分を、俺が新規開拓した部分はまだどれほど広がるかわからないので、家の周囲をパン屋や診療所を建てる場合なども考慮してその周囲を空堀を掘って土塁で囲んでいった。
本来ならば、その土塁を煉瓦などで覆いたい所だったが、悲しいかなそれほどの資金はないので、土塁を硬く固める事にした。
せめて村の中や周辺からタロスで石を集めてきて、多少は石垣で土塁を固めた。
もっとも足りない部分は村の近くの川から石を運んで来たので、結局は土塁のほとんどは石垣で囲む事は出来た。
堀も水を入れてしまうと崩れてしまうので、当分は空堀のままだ。
こっちも気長に川からタロスで石を運んで敷き詰めようと考えている。
ある程度、指示をすると、3人組とジャベックたちが作り方を覚えたので、俺はアオキンたち3人組を監督にして、ジャベックたちの半分に土塁と空堀の構築を任せる事にした。
そして良い機会なので、俺はこの際にパン屋の建物を作るついでに、3人組の家も作る事にした。
「え?あっしらの家を?」
「ああ、だってお前らはもうこの村に定住する気でいるんだろ?
それだったらいつまでも俺の家に居候という訳にはいくまい」
「いや、あっしらはそれで全く構わないんですが?」
「そうそう、俺たちじゃメシは作れないし、奥方様の作るメシはうまいし、風呂はあるし」
「ええ、根無し草の俺たちじゃ今までこんな良い生活をした事はないんで、別に家を作っていただく必要もねえんですが・・」
「いや、食事はうちで食べていいから自分の家があった方が良いだろう?
ちゃんと家には水道を通して、トイレも風呂も作ってやるから。
それにお前たちにはそれぞれ一体ずつ専用ラボロもつけてやるよ。
そのラボロはこの村にいる限り、お前たちの好きにしていい」
「え?ラボロまで?」
「へえ、それならお願いしやす」
ラボロはホウジョウ先生から結婚祝いにもらったレベル50の汎用ジャベックだ。
俺はそれを10体ももらっていた。
だからこの3人に一体ずつ貸し出しをしてやっても構わない。
話に聞いた所、このラボロはホウジョウ先生の運営する予定のジャベック店で売り出す主力商品で、汎用性の高さが売りだそうだ。
魔法こそ使えないが、生活全般の事をそつなくこなす便利なジャベックなので、家一軒に一体あれば十分だろう。
こうして村の防衛施設の建造と平行して3人組の家を作る事になった。
そして3人の家が完成すると、俺はさらに家の近くにパン屋を作り始めた。
俺はハーベイ村で見学した食堂などを参考にして、ジェリーの意見を聞きながらパン屋の建物を作った。
パン屋には厨房に売り場、倉庫など、俺が知っている限りのパン屋に必要な設備を作った。
さらに何かで必要となるかもしれないので、予備の大きな部屋も3つほど作っておいた。
一応、後で修正も出来るように、各所には余裕を持って作っておいた。
そしてその家屋が完成すると、俺はまたもや留守を師匠に頼み、ジェリーとマイクとナンシーを連れてロナバールへと向かった。
サクラ魔法食堂のパンの調合粉を大量に仕入れるとなると、そこしかないからだ。
俺たちはロナバールへ着くと、まずは宿屋を探した。
良さそうな宿を見つけると、次の日はマジェストンと同じように4人で町を見て回った。
初めて見るアムダール帝国第2の都市は中々荘厳だった。
さすが古都と言われるだけの事はある。
一応、ホウジョウ先生の屋敷も訪ねてみたが、折悪しく留守だったようだ。
そして噂のサクラ魔法食堂で食事をしてみた。
しかしそこで実際の値段表を見て俺とジェリーは驚いた!
「うわ!話には聞いていたけど、こりゃ高いなあ!」
「ええ、大銀貨1枚の料理がいくらでもあるわね。
特にこのフルーツパフェというのは凄いわね?
大銀貨5枚ですって!
そんな物、食べた事無いわ」
「ああ、そう言えば、見た目と味に自信はあるが、色々と珍しい食材を使っているんで、値段がとんでもない金額になったってホウジョウ先生が嘆いていたな。
じゃあ、それも頼んでみるか?」
「え?いいの?
こんな高い物を?」
「初めてだからね。
次はいつここに来るかわからないし、せっかくだから食べてみようよ。
我々もここの所、結構苦労して働いたんだ。
盗賊団を退治して村を一つ守ったんだしね。
二人で金貨2枚分くらい食べても罰は当たらないだろうさ。
それに今後の何かの参考にもなるだろう」
「そうね?では頼んでみましょう」
「ああ、では他の食事をした後で、このフルーツパフェとプリンアラモードというのを頼んでみよう」
俺たちはここの食堂で一番のお勧めのサクラプレートという物を頼んでそれを食べると感心した。
「これは凄いね?」
「ええ、ここの自慢の料理が少しずつのっていて、色々と楽しめる料理と書いてあったけど、その通りだわ!」
「うん、確かにここに初めて来たらこれを頼むのが正解だね」
「私もそう思うわ」
「それじゃ次はいよいよフルーツパフェとプリンアラモードだ。
腹具合はまだ大丈夫かい?」
「ええ、もちろんよ!」
運ばれてきたフルーツパフェを見た俺たちは驚いた。
まずは見た目からして凄いのだ!
「凄い・・・!
こんな食べ物があるなんて!」
「ああ、こりゃ凄いな。
あのホウジョウ先生が自慢するだけの事はある!」
そして実際にそれを食べた俺とジェリーは恍惚とする。
「これは・・・」
「ええ・・・」
それは本当にこの世界の食べ物ではないようだった。
「本当に驚きです・・・
こんな食べ物があるなんて・・・」
「全くだな。
こりゃ確かに大銀貨5枚の価値はあるよ」
「ええ、そうね。
材料も見た事がない物か、見た事があっても今まで食べた物とは全然味の程度が違うわ!」
そして俺とジェリーは食堂で食べ終わると、そこに併設されている魔法食堂の販売部へ行き、調合粉を買う事になった。
「いらっしゃいませ。
何をお求めですか?」
「ええと、パンの調合粉が欲しいのですが」
「はい、パンの調合粉は3種類の重さがあって、それぞれ1カルガルン、5カルガルン、最大の物は10カルガルンの物がございますが、どれになさいますか?」
「ええと、それでは10カルガルンの者を100袋ください」
これからパン屋をやるのだし、それ位は買っておいた方が良いだろうと思って、少々多めに言ったのだが、相手は驚いたようだ。
「え?10カルガルンを100袋ですか?」
「はい、そうです」
「失礼ですが、どういった事に使うのですか?」
「ええ、今度うちの村でパン屋を開こうかと考えていて、それに使うのです」
「なるほど・・・申し訳ございませんが少々お待ちください。お客様」
「はあ・・・」
販売員が奥へ引っ込むと俺はジェリーと話した。
「俺、何か変な事を言ったかな?」
「いいえ、別にそんな事はないと思いますが・・・」
ほどなく、販売員はもう一人の女性を連れて戻ってくる。
その女性はどこかで見た記憶がある人だ。
「お待たせしました。
私、販売部門の責任者でマルセル・ポキューズと申します」
思い出した!
この人は俺が中等魔法学校の1年生だった時に6年生で部長だった人だ!
確か魔法学園祭で俺に綿菓子を作ってくれたのを覚えている!
「あ、お久しぶりです・・・」
思わず俺はそう言ってしまった。
その俺の言葉に相手も軽く驚いて話す。
「え?そう言えばあなたはどこかで見た記憶がありますが・・・」
「はい、先日までマジェストンの中等魔法学校に在籍しておりました。
3年前の魔法学園祭にはポキューズ部長に綿菓子を作っていただきました」
俺の説明で相手は納得したようだ。
「まあ、どおりで!
・・・でも他の事でもお会いしておりませんか?」
「はい、私はホウジョウ先生、いえホウジョウ子爵の短期初等魔法学校時代の同級生でトム・サテナと申します」
「トム・サテナ?
ひょっとしてトリプルスターの方ですか?」
「はい、そうです!
よくご存知ですね」
「ええ、ホウジョウ様からお話を伺った事がございます。
それで覚えていたのですね。
私もトリプルスターの人たちの集まりには何回か仕事で顔を出しておりますので。
確か先日同じトリプルスターのモーゼスさんのお孫さんと御結婚されたと伺ってますが・・」
「ええ、こちらにいるのが、そのモーゼスさんの孫で、私の嫁のジェリーです」
「初めまして、ジェリー・サテナと申します。
よろしくお願いいたします」
「まあ、こちらこそよろしくお願いいたします。
それで今回は10カルガルンの調合粉を100袋もお求めだとか?
何か特別な事にでもお使いになるのでしょうか?」
「はい、実は私の村でこちらの調合粉でパンを焼いて食べさせた所、村長以下村人に是非ここの調合粉でパン屋をやって欲しいと頼まれまして、それでまずは100袋ほど買い付けに来た次第です」
「なるほど・・・そういう事ですか・・・」
しばらくの間、マルセルさんは考えていたが、やがて再び話し始める。
「いくつか伺いたい点があるのですが、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「そちらの村の規模と主な産業は?」
「村民は全部で200人ほどですね。
産業というほどの物はなくて、ほぼ農業だけです。
何しろ村にあるのは村長の家と農家以外は鍛冶屋が一軒と万屋が一軒ある程度ですからね。
パン屋だって今回初めて村に作るほどですから」
「村の位置はどの辺ですか?」
「マジェストンから北東へ200カルメルほどの場所ですね」
「ではマジェストン自治領の中ですね」
「はい、かなり辺境になりますが、そうです」
「すると、土地などはかなり空いておりますね?」
「ええ、土地ならばいくらでも空いていますよ」
「周辺の村や町の様子は?」
「まあ、一番近い村でも10カルメルほどはありますね。
他に小さな町や村が15カルメルから30カルメルほどの位置にチラホラとあります」
「近くに大きな町はありますか?」
「そうですね、近いといえるかどうかはわかりませんが、歩いて一日ほどの位置にアジャスタの町があります。
距離にして35カルメル位でしょうか?
小さいですが、魔法協会の分所と組合支部もありますね。
そこならそこそこ大きな町だと思います」
「ああ、アジャスタならわかります。
なるほど、あの辺りなのですね」
そう言ってまたしばらく考え込むと、再びマルセルさんが話し出す。
「それではどうでしょう。
いっその事、トムさんの村にうちの支店を作るのはいかがでしょう?」
「え?支店?サクラ魔法食堂のですか?」
「はい、支店と言っても基本的にはパン屋です。
実は最近あちこちでうちのパンが評判で、パンだけでも良いから店を開いて欲しいという要望がございまして、ホウジョウ様からもいくつか試案が出されていて、それを試す場所を探していたのです。
それにはロナバールから遠い場所で広い土地が空いていて、今までパン屋や食堂の類がなく、比較的近くに大きな町があって、出来ればうちの信用できる関係者がそこにいる場所が望ましいと考えていたのです。
トムさんの村はその全ての条件に合致しますので、宜しければ試験的にうちのパン屋を開いてみたいと思います」
そういう事か!
それならばおそらくこちらとしては問題はないと思うが・・・
「そうですね、おそらく大丈夫だと思いますが、私の一存では決められませんので、村長様の意見を伺ってきます」
「では私が一緒に行って説明をしたいと思いますので、よろしくお願いします」
「はい」
「では色々と用意もございますので、明日出発という事でよろしいですか?」
「はい、それで構いません」
翌日になると俺たちは一旦、マルセルさんと店長予定と紹介されたメロディールさんと一緒に小型魔法飛行艇で村に帰り、村長様や師匠に相談をする。
「村長様、ロバート師匠、
こちらはサクラ魔法食堂のポキューズ販売部長と、魔道士のメロディールさんです」
「ほう?サクラ魔法食堂?あのホウジョウ子爵様が経営していらっしゃるお店かな?」
「はい、その通りです。
実は今回・・・」
マルセルさんとメロディールさんが店の内容を村長様と師匠に説明をした。
店の規模や販売品の種類、村への貢献など村長様たちはその話を食い入るように聞いていた。
大丈夫だとは思っていたが、村長様も師匠もホウジョウ子爵関係の店だと知って大乗り気だった。
「・・・こういった条件なのですが、いかがでしょうか?」
サクラ魔法食堂の出店計画を聞いた村長様は大感激だった!
「素晴らしい!
あの高名なサクラ魔法食堂の支店がこの村に出来るのであれば何よりの事です!
土地など、うちの村にはいくらでも空いておりますからな!
それでよろしいのでしたら無償で提供させていただきます!
いくらでもお使いください」
「ありがとうございます。
ところでうちのパン屋を開店するに当たって、こちらの村に正式名称を作っていただきたいのですが」
「え?正式名称?」
「ええ、うちで支店名を名乗るに当たって、その村の名前が必要ですので」
「なるほど、それでは何と言う名前にしようかのう・・・」
ここで突然声が別の方向から上がった。
「そいつはサテナ村で決まりだな!」
「え?」
驚く俺たちが声のした方向を向くとそこには一人の青年がいた!
思わず俺はその人物の名前を呼んだ!
「ジャック!?」
それは俺のよく知っている人物だった!




