キャロル・マーカス 02 御姉様との出会い
中等魔法学校に入学してから3週間経った。
この3週間、私はミルキィとポリーナにべったりだ!
3週目の自由日が近づいた日に、また私は二人に予定を聞いてみた。
「御二人とも、次の自由日は何か予定がありますの?」
「ええ、私たちは少々御師匠様と御主人様のお手伝いをする事になっています」
「そうです」
「え?御師匠様のお手伝い?
何をするんですの?」
流石に3週間連続で自由日を誘うのは無理があったようだ。
しかし興味があった私は二人に予定を聞いてみた。
「迷宮での訓練です」
「迷宮での?」
「はい、もっとわかりやすく言えば、レベル上げの訓練ですね?」
「ええ、他の生徒の皆さんと一緒に迷宮へ行くんです」
「え?レベル上げ・・・しかも他の生徒の皆さんと・・・?
それは私もついていってよろしいのかしら?」
迷宮でのレベル上げとはありがたい!
出来れば私も一緒に行ってみたいところだ。
私の質問に二人は顔を見合わせて話し合う。
「別に構わないんじゃないでしょうか?」
「ええ、先生もうちの学生でしたら誰でも構わないとおっしゃってましたからね?」
「では是非お願いします!」
この3週間というもの、私は二人からミルキィの主人のシノブ・ホウジョウとやら言う先輩の事を聞いて、とても興味を持っていた。
それに二人の師匠と、妹弟子の奴隷の魔人とやらにもだ!
これを機会にその三人に会えるのなら会ってみたい!
そして自由日当日、私はその三人と会う事が出来た!
実際にシノブ・ホウジョウという御主人様とやらと会って私は驚いた!
正直、私はミルキィたちの話しから、御主人様と言うのはもっと年上で、威厳のある人だと思っていたのだ!
しかしこれはどうだ!
見た目には私とさほど変わらない年齢に見える。
しかも一見はまるで少女のようだ。
しかし聞いた話では年齢は16歳で、私より3つ年上だそうだ。
「初めまして!私はキャロル・マーカスと申します」
「ああ、君が話に聞いたキャロルさんか?
うちのミルキィやポリーナが世話になっているそうだね?」
「とんでもない!
お世話になっているのはこちらの方です!」
「はは・・・まあ、とにかく今日は頑張ってね?」
「はい!頑張るので宜しく御願いします!」
「そういえば君は魔人なんだってね?」
どうやら二人が私の事を多少は話しているようだ。
私は力を入れて自己紹介をする。
「はい、父は帝国男爵で平人ですが、母は魔人です」
「へえ?御父さんが男爵か?
それじゃ君も男爵令嬢って訳か?」
私が男爵令嬢と知ってもこの人はさほど驚きもしない。
もっともミルキィたちの話しによれば、メディシナー侯爵様や他にもあちこちの貴族と友好関係であるだけでなく、あろう事かロナバール総督閣下やローレンツ皇子様とも懇意の仲だと聞いている。
男爵令嬢ごときに驚く訳もないか?
そう納得して、私もむしろ魔人の部分を強調する。
「はい、そうなんですが、私はどちらかと言えば、魔法使いで魔人の方を誇りに思っています!」
「そうか?じゃあ今回は君と同じ魔人の班に入った方が良いかな?
それともミルキィやポリーナの班の方が良いかな?」
ミルキィやポリーナとも捨てがたいが、ここはその魔人とやらと知り合いになって話してみたい!
そう思った私はホウジョウ先輩に申し出る。
「はい、ホウジョウ先輩の奴隷には魔人がいると聞きました。
その班で御願いします!」
「わかった、じゃあエレノア先生?この子はアンジュの班でよろしくお願いします」
「はい、承知しました」
その御師匠様とやらを見て、これまた私は驚いた!
何とエルフだ!
高等魔法学校の教師で、凄い魔法使いとは聞いていたが、まさか、あの二人の師匠がエルフだとは思わなかった!
そしてホウジョウ先輩が誰かを呼ぶ。
「お~い、アンジュ!」
そして呼ばれて側に来た少女が返事をする。
「はい、何でしょう?」
「この子は魔人で君の班に入りたいんだってさ!」
「わかりました」
え?この子、本当に16歳なの?
ミルキィさんたちに私より3歳年上とは聞いていたけど、見た目はあまり私と変わらない・・・
でもつややかな黒髪ですっごく可愛くて、何だか惚れちゃいそうだわ!
そのアンジュさんとやらが私に挨拶をする。
「今回の5班を指揮する班長のアンジュです。
よろしく」
「はい、お、お願いします」
「で?あなたは魔人なのですね?」
「はい、正確には父は平人ですが、母が魔人です」
「御母様が?どちらの出身ですか?」
「あ、あのサフィール族です」
「おや?うちの出身ですか?」
「え?ではアンジュさんも?」
驚いた事に、この少女も私と同じサフィール族らしい!
こんな所で同族に出会うとは本当に驚きだ!
「ええ、そうです。
御母様はどちらの家の方ですか?」
ここで私は少々胸を張って答える。
「はい、ラピス家です」
うちはサフィール族の中では結構な名家だ。
しかも我がサフィール族は魔人の中でも1・2位を争うほどの有名な一族だ!
彼女も同じサフィール族ならうちを知っている可能性は高い!
ここは少々自慢げに言っておこう!
「ああ、ラピスさんの所でしたか!
ではあなたはカイヤさんの娘さんですか?」
やはりこの少女はうちを知っていたようだ。
しかし母の名前まで知っているとは驚いた!
「ええ、そうです。カイヤは私の母です。
よく御存知ですね?」
「まあ、そんなに広くもない村ですしね。
それに父からも主な村の人々は覚えておけと言われていましたからね。
ラピスさんの所は結構な名家ですから覚えていました」
「え?ではアンジュさんは?」
「ああ、私の名前はアンジュ・サフィールです」
それを聞いて私は驚いた!
サフィール家と言えば、里長の家と母から聞いている!
サフィール族と言う名前だって、そこから来ているのだ!
しかも村長のサフィール家は、里長であるだけでなく、あまたの魔人の中でも1・2位を争う相当な名家だと聞いている。
その関係者が魔法学校に来ていて、しかも奴隷とは驚いた!
「え?サフィール?ではひょっとしてアンジュさんは里長様の関係者なのですか?」
「ああ、私の父があそこの里長です」
「さっ、里長様の御嬢様?
あ、あのっ!よろしくお願いします!
アンジュ様!」
「ええ、よろしく」
驚いた私は思わずこの少女を「様付け」で呼んでしまった!
しかしそれも当然だ!
まさかサフィール族の里長の御嬢様がこんな場所にいるとは思わなかった!
しかも魔法学校の生徒であるのはともかく、奴隷とは一体どういう事だ?
私は混乱して色々と聞いてみたかったが、アンジュ様が私達に話す。
「さあ、では5班も出発しますよ!」
「は、はい!」
迷宮に入ったアンジュ様は強かった!
どんな魔物が相手でも一発だ!
魔物に対して凛々しく魔法を放ち、倒す。
レベルが100を越えているキマイラやグリフォンですら魔法一発だ!
こんな事は魔法学士である私の父や、魔道士級の魔人でもある母にすら出来ない!
強い!強すぎる!絶対に強い!
アンジュ・サフィール!
何でこの人はこんなにも強いのだろうか?
しかも嬉々として魔物を倒している!
そして魔法を放つ時は、サフィール族特有の青い目が爛々と光っている!
あの魔物を倒す時の嬉しそうな顔はどうだ!
それを見て、他の班員たちは少々引き気味だ。
だが同じ魔人である私にはわかる!
ああ、やっぱり血なのね?
魔人であるサフィール族の血なのですね?アンジュ様!
そのお気持ち、お察ししますわ!
だって私も迷宮で魔物を倒すのが大好きなんですもの!
ウフフフ・・・
私はすっかりそのアンジュ様の姿に惚れ込んでしまった。
そんな私はアンジュ様に恐る恐る聞いてみた。
「あ、あのアンジュ様の今のレベルはおいくつなのですか?」
「191です!」
「レ、レベル191?」
「そうですよ?」
「ではミルキィさんやポリーナさんと拮抗しているのですね?」
「まあ、そうですね」
「そんな!それじゃほとんど無敵じゃないですか!」
私は驚いて思わず叫ぶが、逆にアンジュ様は突然気が抜けたように答える。
「無敵?はは・・・冗談でしょ?」
「え?だってそんなレベルなら無敵でしょう?」
「私なんて大した事はないですよ・・・」
この反応・・・ポリーナさんやミルキィさんと同じだ!
これほどのレベルで何故そんなに卑下するのだろうか?
「何故そんな事を・・・あ、わかりました!
アンジュ様の御父様はもっと凄いのですね?
サフィール族の里長様ですものね?」
「ああ、確かにまだ父には及びませんが・・・正直それほど差はないと思います。
今の父は確かレベル250位のはずですから、シルビアさんと同じ位ですね?」
「え?シルビアさん?」
「ええ、私と同じく御主人様の奴隷で、今日の3班の班長をしている人ですよ」
「そんな方が・・・なるほど、それで御自分を卑下なさっていらっしゃるのですね?」
「まあ、そうなんですが・・・正直、父やシルビアさんは私が努力すれば、いつかは超せるんじゃないかと思うんですよね?
でもあっちの二人は絶望的です。
とても勝てる気にはなれません。
あの人たちと比較してしまうとね・・・」
そう言ってアンジュ様がため息をつく。
「え?あの人たちって?」
「ミルキィさんやポリーナさんから聞いていませんか?
御主人様とエレノア先生ですよ」
「え?ええ、御二人とも、とてもお強いとは伺っておりますが・・・」
私のその言葉を聞いてアンジュ様は苦笑いをする。
「そんな言葉じゃ、あの二人の事を半分も伝えてないですよ。
まあ、あの二人もどう伝えて良いのか表現に困ったのでしょうが・・・」
「え?ではあの御二人のレベルはいくつなんですか?」
「御主人様はレベル370で、エレノア先生に至ってはレベル691です」
「ええ~~~っ!!!」
そんな冗談のような人間がいるのか?
しかもグリーンリーフ先生は長命なエルフだからまだわかるとしても、ホウジョウ先輩はまだ16歳の平人だ!
そんな人がレベル300を越えているとは信じがたい!
なるほど、ミルキィさんとポリーナさんが自分たちなど大した事などないと言っていた理由がよくわかった!
周囲にそんな人たちがゴロゴロいるのであれば、あの反応もうなずける。
驚く私にアンジュ様が力なく笑って答える。
「ね?信じられないでしょう?」
「た、確かに・・・」
「でもね、私はあの御二人の御役に立つためにこうして修行をしているのです。
あの方々に恩をお返しするために・・・」
「恩を?」
「ええ、実は私はつい最近まで「魔力欠乏症」という病気で全く魔法を使えなかったのです。
しかしあのお二人やシルビアさん、ミルキィさんたちが私の事を励まして、そして私の魔力欠乏症を治してくれたのです。
特に御主人様には一生かかっても、その御恩をお返ししなくては・・・
あの方がいらっしゃらなければ、私は未だに魔法など全く使えなかったでしょうからね」
「そうだったのですか・・・」
「ええ、ですから私は自ら奴隷として御主人様に仕えているのです。
あの方にはとても敵わないし、これほどの恩をどうしたら返せるかもわかりません」
そう言ってアンジュ様は何か決意をしたように迷宮の先を見つめる・・・
ああっ!
尊い!尊いですわ!アンジュ様!
このような強く可愛らしい方に、そのような過去があったとは!
そんな御恩を返すために、最強の魔人一族、サフィール族の里長の娘でありながら、奴隷にまでなって仕えていらっしゃるとは!
尊い!
美しすぎます!
まるで何かの物語のようですわっ!
私もそんなアンジュ様をお助けしたいです!
そう決意をした私は、アンジュ様に話しかける!
「アンジュ御姉様!」
「え?御姉様?」
「はい、私はそんなアンジュ御姉様をお助けしたいです!
これからはこのキャロル・マーカスを頼ってくださいませ!」
「え?あなたを?」
「はい!」
こうして私、キャロル・マーカスは、アンジュ様の僕として仕える事を心に決めた!
そして課外授業が終わり、地上に戻って来ると、私はアンジュ御姉様に聞いた。
「あ、あのアンジュ御姉様?」
「何ですか?キャロルさん?」
「そんな・・・キャロルさんだなんて・・・
どうかキャロルと呼んでください」
「では、キャロル、どうしたのですか?」
「また来週も来て良いですか?」
「ええ、構いませんよ?
ところで迷宮の時から疑問に思っていたのですが、何で私が御姉様なのですか?」
「いけませんか?」
「いえ、実際に私の方が年上ですし、同じサフィール族なので、別に構いませんが・・・
それではまた来週に」
「ええ、必ず!」
家に帰ると私は夕食時に家族に報告をした。
「御父様、御母様、ジョミー、私、今日とても素敵な方に御会いしましたのよ?」
「ほほう?誰かね?」
「ええ、高等魔法学校の先輩で、アンジュ・サフィールとおっしゃる方ですわ」
その私の言葉に父が驚く。
「え?サフィールって、まさかその人はサフィール族の魔人なのかね?」
「ええ、そうですわ、御父様」
もちろん父は平人でも、魔人の母と結婚しただけあって、サフィール族の事は知っている。
そして母はさらに驚く。
「アンジュ・サフィールって・・・まさか里長様の御息女様ですか?」
「ええ、その通りですわ。
御母様も御存知ですの?」
「ええ、でも確かあの方は「魔力欠乏症」で魔法が使えないとか・・・」
ここで私は力を入れて答える!
「それなんですのよ!御母様!」
「え?」
軽く驚く両親に私は力強く説明をする。
「何でもアンジュ様は現在仕えていらっしゃる御主人様にその魔力欠乏症とやらを治していただいたらしくて、その御恩に報いるために仕えていらっしゃるそうですの!
しかも誇り高い魔人であるサフィール族の里長の娘でありながら、自ら奴隷として仕えてらっしゃるのですよ!
私、それにいたく感動、いえ感激してしまって、これからは私もアンジュ様のそのお手伝いをするつもりですの!」
その私の言葉に父が少々呆れたように答える。
「いや、お前、お手伝いするって・・・」
「そうですよ、却って御迷惑になるのではないですか?」
「そんな事はないわ!
私は必ずあの方の御役に立ってみせます!」
私の勢いに父も諦めたようで一言呟く。
「ま、好きにしなさい」
そしてそれまではおとなしく一緒に夕食を食べていた弟のジョミーが楽しそうに話す。
「はは・・・でもキャロル姉様がそんなに嬉しそうにしているのは初めて見るよ」
「ええ、こんなに興奮したのは私も生まれて初めてよ!
いつかあなたにもアンジュ様に会わせてあげるわ」
「うん、僕もその人に会ってみたいな」
そう、私はこれからあの人に一生仕えるつもりで生きていくのだ!
きっと私はそのためにこの世に生まれてきたのだ!
そして次の週の迷宮の訓練が終わる頃には、私はすっかりアンジュ御姉様の虜になってしまっていたのだった・・・
こうしてキャロルはアンジュに盲目的に尽くす事になったのでした。
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