ポリーナ・パーシモン 05 高祖父アルマンの話
アルマンは古い過去を思い出すように話し始める。
「そうじゃのう・・・このゴブリン退治が終わったら話すつもりだったのじゃが・・・まあ、先に話しても変わりはないか・・・
実はのう、わしの息子、つまりお前のひい爺さんじゃが、そいつは40年ほど前にゴブリンに殺されたのじゃ」
「え?ゴブリンに?」
「ああ、わしは息子の仇を取りたいと思ったが、その頃のわしはクロンハイム家の執事をしておったからな。
私情に駆られて勝手にゴブリン退治に行く訳にもいかなかったのじゃ。
しかしいつか敵を討とうと、ゴブリンに関する情報を集め、退治の仕方を研究しておったのじゃ。
そして10年ほど前に当主のシモン様から特別な命令を受けての、このヴェルダを託されたのじゃ。
そしてその時にマギーラやラッシュなど、他のジャベックたちも貰い受けて好きなように使って良いと言われたのじゃ。
わしは感謝してクロンハイム家を出て、それ以来ゴブリン退治に専念するようになった。
そしてゴブリンの研究を重ねたのじゃ。
なぜなら本来の仇である、あのゴブリンの森の主を倒そうと考えたのじゃが、あそこの奥深くに巣食っているのはおそらく恐ろしく高位のゴブリンという事がわかったからじゃ」
「高位のゴブリン?」
「ああ、おそらくはウイザード以上のな」
そのアルマンの言葉にエルネストが驚く。
「ウイザード以上?まさかそれはキングですか?」
「さよう、あの森の奥深くには恐らくゴブリンキングがいると見積もっておる」
ゴブリンキング!
それはゴブリンの頂点に立つ者とも言われ、あらゆるゴブリンを統率する者と言われている。
歴史上数回しか確認されておらず、その組織と戦闘力は、魔物にも関わらず、まさに一国に匹敵するとも言われているほどだった。
そしてその討伐には国軍を繰り出し、多大な犠牲を払って、ようやく倒せたと、どの記録にも書かれているほどだった。
小さな国や町などは、滅ぼされた例すらいくつもあるほどだった。
そのような相手では簡単に討伐できよう筈もない。
「それゆえに迂闊には近づけない。
下手に攻め入って、わしの命だけならともかく、ヴェルダを失ってしまえば、シモン様に申し訳がたたない上に犬死にじゃ。
だからわしは徹底的にゴブリンの性格や攻撃の仕方、長所・短所を全て知った上で、確実に勝てると踏んでから、奴を倒す事にしたのじゃ」
「なるほど・・・」
「そうだったのですか・・・」
アルマンの説明にポリーナもエルネストも納得をする。
「そのためにわしはあらゆる種類のゴブリンを倒したし、今回もそうじゃ。
滅多にいないゴブリンウイザードならば、良い情報も手に入る可能性も高いし、キングの前の訓練にもなる。
そう考えて引き受ける事にしたのじゃ」
「そういう事だったのですね・・・」
「ああ、だがお前は危ない橋を渡る事はない。
今回はおとなしく待っていなさい」
しかしそんなアルマンにポリーナはきっぱりと宣言する。
「いえ、是非連れて行ってください!」
「しかしのう・・・」
渋るアルマンにポリーナが説明する。
「大御爺様がそのような事情でゴブリンを倒していたのならば身内の私が黙って見ていられるとお思いですか?
私も連れて行ってください!
決して足手まといにはなりません!」
ポリーナの決意を見て取ると、アルマンも諦めたようにうなずく。
「わかった、だが無理はせぬようにな?
危ないと思ったらヴェルダと共に逃げるのじゃ。良いな?」
「はい」
その話を聞いてエルネストも話を切り出す。
「及ばずながら私も御一緒させていただきます」
「おお、支部長自ら?」
「いえ、支部長と言っても、ゴブリキラーたるアルマンさんに比べれば、ロクに経験のない若輩者です。
今回の事は私も勉強させていただきます」
「よろしくお願いしますぞ。
しかし相手がゴブリンウイザードともなると、それなりに用意が必要ですな。
前回もずいぶんと準備をしていった。
これから町に出て、色々とその準備をする事にいたしましょう。
今日と明日はその準備に当てるとして、明後日討伐ではいかがでしょう?」
アルマンの言葉にエルネストもうなずく。
「承知いたしました。
もちろん当方としても、それで構いません。
こちらでもそのように準備をしておきましょう。
その間の逗留宿の方はこちらで手配させていただきます。
うちの支部の宿ですが、御二人は別の部屋の方がよろしいですか?」
「いえ、私は大御爺様と一緒の部屋で構いません」
「そうじゃのう、討伐の前に色々と話す事もあるし、その方が良いのう」
「承知しました。
他にこちらで何か用意しておく事はないでしょうか?」
「そうですな。
もしできれば手勢を少々と、油の良く染みた松明を大量に用意していただきたい」
「もちろん手勢は用意するつもりでしたが、松明ですか?」
「さよう、できればそちらの手勢で運べる限り、用意していただきたい。
出来れば千本でも2千本でも。
それとそのウイザードの巣食っている場所はどういった場所ですかな?」
アルマンの質問にエルネストが簡潔に答える。
「古城です」
「では攻城用の盾も多少持って行っていただきたい」
「承知いたしました。
それではそのように手配しておきますので、そちらも準備の方が終えたらこの建物の横にある宿舎の受付に行ってください。
名前を言っていただければ大丈夫なように、受付の者に話は通しておきますので」
「よろしくお願いします。
ではポリーナ、行くぞ?」
「はい、大御爺様」
二人は組合の建物を出ると、ウイザード討伐に備えて道具や装備を整えるために、あちこちの店をめぐった。
元々アルマンはある程度の装備は整えてあったので、基本はポリーナの装備探しだった。
ポリーナは基本治療魔法使いなので、装備は防具が中心となる。
「ほう?これは中々良い品物のようじゃのう」
ある道具屋で見つけた外套をアルマンは感心してみていた。
「はい、それはうちでも珍しく入手した魔法外套の一品でございます。
中級程度の魔法でしたらかなり弾き飛ばしますし、上級攻撃魔法でも三回は弾く事は保証させていただきます」
「なるほど、これはいくらかな?」
「金貨120枚でございます」
「ふむ、ま、その程度の金ならあるが・・・」
しばし考えたアルマンが様々な道具を取り出す。
「ここでは買い取りも行っておるかの?」
「はい、大丈夫でございますよ」
「ではこれを買い取って欲しい」
そう言ってアルマンはいくつかの品物を出して見せる。
「これは中々良い品物をお持ちで・・・・これならばしめて金貨250枚でいかがでございましょう?」
「ふむ、まあ、そんな所かの?では売値は金貨100で構わないので、その代わりにこの魔法外套と、そちらの対魔胸飾りをつけてくれぬか?」
「よろしいでしょう。それでこちらも手を打ちましょう」
道具屋で購入した魔法外套と、対魔ブローチをアルマンはポリーナに渡す。
「さあ、ポリーナ、明日からはこれを身につけておけ」
「こんな高価な物を・・・よろしいのですか?大御爺様?」
「何、命より高い物などない。
ましてやそれが大切な玄孫の命なら尚更じゃ。
今度のゴブリンウイザードは恐ろしい魔法の使い手じゃ。
用心に越した事はない」
「はい、わかりました」
無事にポリーナの装備を整えると、二人は組合の宿へと向かった。
「すまんがわしはアルマン・パーシモンという者じゃが・・・」
アルマンの名を聞くと受付係は嬉しそうに返事をする。
「はい、ゴブリンキラー様でいらっしゃいますね!
支部長から話は伺っております。
ただいま御部屋へ案内させていただきます!」
案内された部屋は極上だった。
部屋に入った二人は驚いた。
「大御爺様、私こんな豪華な部屋、初めて見ました!
部屋にお風呂までありますよ?」
「ふむ、どうやらエルネスト殿は一番良い部屋を取ってくれたようじゃの?
まあ、せっかくだからここは好意に甘えて戦いに備えてしっかりと休むとするか。
とりあえずポリーナは先に風呂にお入り」
「はい、わかりました」
二人は風呂に入った後で、豪華なベッドで眠った。
翌日になると、アルマンはポリーナにゴブリンウイザード戦の予習を行う。
「良いかな、ポリーナ?
ゴブリン戦では基本的に数が物を言う。
とにかく、ゴブリン戦に関しては数が力じゃ。
この事をよく覚えておくのじゃ。
だから本来は奴らの数を上回る人数を揃えるのが理想的じゃ。
しかし、実際にはそんな戦力が集まる事はそうそうない。
だから我々はそれをタロスで補うのじゃ。
わしは今レベル145じゃが、これほどレベルを上げたのも、ゴブリンと戦う時にタロスを大量に作り出す必要があったからじゃ。
これだけのレベルであれば、魔力量の多い者ならば、タロスを一気に1000体は出せるからな。
そして奴らは火や明かりを嫌う。
じゃからまず大量の松明に火をつけてタロスに持たせて相手の巣窟に突入させるのだ。
これで奴らは混乱し、まず大半の戦力を失う。
しかる後に中へ乗り込んで残っている大物を倒す。
これが基本じゃ」
「はい、大御爺様」
「これがゴブリンソーサラーやゴブリンドルイド辺りならばそれで決着がつくのだが、ウイザードともなると桁が違う。
あやつとゴブリンマーシャル、そしてゴブリンキングは別格のゴブリンだと思ってよい。
だから油断は出来ぬ」
「わかりました」
「その三体は特に気をつけねばならぬ。
ゴブリンウイザードは強大な攻撃魔法を使い、ゴブリンマーシャルは大量の戦闘タロスを出し、攻撃力も強い。
そしてゴブリンキングは魔法こそ使わないものの、恐ろしいほどの統率力と、悪知恵が働くのじゃ、油断してはならぬ」
「はい」
こうしてしばらくポリーナに対ゴブリン戦の基本を教えると、アルマンも満足する。
「ま、それではこれ位にしておくか。
いきなり色々と頭に詰め込んでも混乱するじゃろうし、明日はいよいよウイザードとの実践だしの」
「はい」
そして二人はそれぞれ再び豪華なベッドで眠って翌日に備えた。




