第八話 突発的任務、潜入調査!
side.如月怜那
生徒会の呼び出しから戻って来たお兄ちゃんに、ちょっと気になる事を聞いた私は次の日の夜、調査する事にした。
既にお父さんには伝え、今は許可が下りるのを待っているのだ。
そのとき、SIA用の携帯に着信がきた。
相手はエイブル1……お父さんのコードネームだ!
「こちらユリウス9」
「こちらエイブル1。先程の件だが、調査を許可する。ただし今回は、いつもの雀の涙のバックアップすら出来ない。注意して取り掛かるようにせよ……本当にやるのか?」
許可はしたものの、やはり心配なのだろう。
しかし念の為、調べておきたいのだ。
以前から北上 文という人間には不審な点が多かった。
「勿論です」
「……そうか、なら必ず帰ってこい。俺からは以上だ」
「了解」
通信が終了した。
あとは、SIA戦闘服に着替えて準備するだけだ。
私は部屋着を脱ぎ、戦闘服に着替え始める。
あ、下着も動きやすものに変えよ。
誤差かもしれないが、出来る限りの対策はしておきたかった。
数分後、私は着替え終わり、武装も殆ど整えた。
と言っても、ブーツナイフと自動拳銃の二つだけだが。
ちなみに、拳銃は組織から支給されており、ある程度は選べる。私のは確か……SIG P230JPって言ってたような気がする……
まあ良いや。
拳銃に弾倉を装着し、スライドを少し後ろに引く。その後、安全装置をかけて腰のホルスターにしまった。
とりあえず準備は完了した。
(ユリウス9、作戦を開始します!)
目指すは学園の研究棟、北上研究室!
私は目的地を確認した後、能力で気配を消して窓から飛び降りた。
戦闘服には衝撃を和らげる特殊な素材が使われており、そのおかげで五階から飛び降りても、五点着地などをすれば私でも耐えられる。
さて、次は研究棟へ行かないと!
ここで一つ問題がある。
能力の気配遮断B+で気配を消しているが、あくまで“気配”を消しただけで、姿まで消えたわけじゃない。
今の私の状態は、道端の石ころ程度と認識されるだけで、カメラや鏡などには写ってしまう。
だから、監視カメラなどを避けなければならない。
しかし私は、何度かこの学園にも侵入した事がある。だから監視カメラの位置は全て覚えている。
念の為に今日、追加されていないか確認したところだが追加された様子は無い。
このまま侵入する!
その後は順調に進み、セキュリティも上手く誤魔化して研究室への侵入は成功した。
私が持参したSIAのタブレットを研究室のPCにコードで繋ぎ、ハッキングを開始した。
以前にもこの部屋に侵入したが、その時は化学部の会計資料はそこまで調べなかった。
だが今回、お兄ちゃんから話を聞いて不審が高まった。そして……
……あれ? このファイルは何だろう……
会計資料の改竄の痕跡を調べていく内に、もう一つ厳重に隠されていたファイルを見つけた。
私はそれを慎重にセキュリティを解除していく。そこには……
(学園の能力者の名簿?!)
何でこんなものが……
学園の名簿はメインサーバに保存されているはず。
しかもこの学園のメインサーバは独立したネットワークを築いているから、アクセスできるコンピュータは限られている筈。
アクセス権があるコンピュータは職員室の一部のPCと理事長室、一部の研究室、旧サーバルーム。
研究棟である第五館で、アクセス権があるのは理事長室、一部の研究室、旧サーバルームだが、この研究室は残念ながらアクセス権が無かった。
まさか……旧サーバルーム?
普段人が居なくてアクセス権がある場所といったら、そこぐらいしかない。
しかし旧メインサーバは基本的に動いていない筈。
これは確定情報の筈。
だってその情報源は私の親友であると同時に、理事長である不知火時政の一人娘、不知火未佐姫ちゃんだから。
彼女が嘘をついたとは思えない。
なぜなら未佐姫ちゃんは、表では理事長との関係を否定しているが、私には親友だからと本当の事を教えてくれた。
確か未佐姫ちゃんは基本的と言っていた。
だったら、その例外があれば、もしかしたら……
後で未佐姫ちゃんに聞いておこ。
親友を利用するようで悪いけど、それはそれ、これはこれ、だ。
でもごめんね。私ばかり隠し事をしていて。
時計を見ると、かなり時間が経っていた。
これ以上の長居は危険だ。
私は痕跡を消して元通りにし、自室へ戻って行った。
この時、少し考えが一歩甘かった事を後に私は痛感することとなったが、今の私には気づけなかった……
──────────────────
「朝から気になったてたけど怜那ちゃん、昨日は寝れなかったの? 少しだけど隈ができてるよ?」
赤髪ツインテールで青い目の女の子が私に話しかけてきた。
この子が不知火未佐姫だ。
「あははは、ちょっと寝付けなくてね〜」
任務で研究棟に忍びこんだなんて、口が裂けても言えない。
未佐姫ちゃんは私の嘘をいつものように信じた。
「あーわかる。夏だと夜でも暑いよねー」
あちー、と未佐姫ちゃんは言ってリボンを緩め、一番上のボタンを外した。
はしたないよ! 未佐姫ちゃんっ。
未佐姫ちゃんはそんな事気にしている様子はない様子だけど。
「でも珍しいね。怜那ちゃんがお昼、屋上で食べよって言ってくるの。どうかしたの?」
私達は購買でパンを買い、屋上で食べていた。
大丈夫? と未佐姫は私の顔を覗き込んでくる。
そこまで言われると罪悪感にさいなまれるな……
「別に何でもないよ? 今日は、そういう気分だっただけだから」
嘘は言ってない。実際、なんとなく屋上に行きたいとは思っていたのは事実だから……
真夏の時期に屋上で食べようという物好きは、そうそう居ない。だから二人きりになるには都合が良い。
未佐姫ちゃんはふーんと答えると、話は何気ない会話になっていった。
その何気ない会話の中で、私はさり気なく旧メインサーバの話題に誘導する。
「うーん、話してもいいけど……他の人には内緒だよ?」
「勿論わかってるよ、未佐姫ちゃん」
未佐姫ちゃんは旧メインサーバについて語ってくれた。
未佐姫ちゃん曰く、旧メインサーバは定期的に少しの間は稼働する様だ。
今のメインサーバのバックアップを取るために、二週間に一度だけ繋いでいるみたい。
そのタイミングで何か仕込めば、データを盗む事もできるかもしれない。
「でもなんで旧メインサーバの事なんか聞いたの?」
それは気になるよね……なんて誤魔化そうかな。
「只の好奇心だよ。何かあるわけじゃないよ」
未佐姫ちゃんは、そっかって言って信じてくれた……罪悪感でちょっとお腹痛い……
でも、聞きたい事は全部聞けた。
近いうちに細工をしに行こう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は怜那視点で書いてみましたがどうでしたか?
次回からは今まで通り、渡の視点で書きます。
これからもよろしくお願いします。