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秘匿機関『SIA』  作者: yumigawa
第一章 それは始まりでは無かった。
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第四話 夜の学校で

 転入初日から1週間経った。

 俺は、忘れ物を取りに学校へ来ていた。

 時間は午後7時半を回っており、辺りは既に暗くなっていた。

 暗い校舎に一人の足音が響く。

 俺の音ではない。

 この雰囲気では少し怖くなり、無意識に警戒してしまう。

 足音は俺のいる教室の前で途切れ、扉が開かれた。

 それに俺はつい、身構えてしまった。

 

「誰かいるの? って、如月君?!」


 扉を開けた人は神嵜さんだった。


「何だ、神嵜さんか。びっくりしたー」


 よかった。神嵜さんだった。

 べ、別に幽霊とかが怖いとかじゃないし! 少し驚いただけだし!

 ところで何故、神嵜さんが居るのだろう?

 俺と同じで忘れ物か?


「神嵜さんは何でここに?」


 一応護衛対象だし、何か用事とかがあるなら把握しておきたい。


「私は生徒会でちょっと残って仕事してたの。でも気づいたらこんな時間でね……」


 なるほど。それで帰ろうとしたら人影が見えたから見に来たって所かな?


「如月君こそ何で学校にいるんですか?」


 神嵜さんが聞き返してきた


「俺はただの忘れ物」


 少し恥ずかしかったけど、隠す事でもないから正直に話した。


「ふーん。それで、忘れ物はもう取れましたか?」


 残念ながらまだ探しているのだ。


「まだだよ。もしかしたら理解室に置いて来たかも」


「もし良ければ、私も手伝いましょうか?」


 神嵜さんが協力を申し出てくれた。

 でも神嵜さんに悪いから、ここは断っておこう。


「ありがとう。でもすぐ見つかると思うからいいよ」


 神嵜さんは少し暗い顔をした気がした。

 いや、気のせいか?


「そう、じゃあ先帰ってますね」


 神嵜さんは先に出て行ってしまった。

 では、忘れ物探しを再開しますか。




・・・・・・・・・・


 


 忘れ物は意外とすぐに見つかった。

 これなら神嵜さんに少し待っててもらっても良かったかもしれない。

 そんな事を考えながら帰っていたとき、直感だが変な気配を感じた。

 俺は念のため聴覚を能力でギリギリまで強化した。

 意図的に足音を抑えている人が……二人……いや、三人か?

 その付近には……神嵜さん!?

 考えが甘かった! まさかこの時間に仕掛けてくるとはっ

 脚力を強化し、急いで向かった。


 現場に到着した時、神嵜さんは襲われる直前だった。


「神嵜さん! 後ろ!!」


 俺は咄嗟に叫んだ。

 けど……


「ちっ、ガキが他にいたか。だがもう遅えんだよ!」


 警備員に変装した男の言葉と同時に、他の仲間二人が神嵜さんを囲んだ。

 神嵜さんの能力はC+の瞬間移動だ。

 自分は飛ばせない。

 それでも、やりようによっては撃退は可能だか、対能力者用の手錠などを使われたら無理だ。

 そして俺との距離はまだある。

 間に合わない。

 飛び道具も持っていない。

 もう駄目だと思った矢先、驚くべき事がおきた。


「なっ」


「ガキが……消えた?!」


 そう、神嵜さんの姿が消えていたのだ。

 そして俺の後ろに、神嵜さんが現れた。


「え?」


 俺は思わずそんな声を漏らしてしまった。

 だって神嵜さんの瞬間移動はC+のはず。それなのに自分を飛ばしている。

 土壇場でランクが上がったのか?

 否、それはありえない。

 瞬間移動はランクC以上になると、極めて上がりにくくなる能力だ。

 なぜなら自分を飛ばすというのは、想像以上に難しく、Bランクの能力者でさえ苦手とする人がいる程だ。その上その難易度から、事故を起こし、大怪我……最悪の場合は死亡する事すらある。

 そんな能力を土壇場とはいえ、ランクアップ出来るとは考えにくい。

 なら能力を、偽っていたのか?

 確かに、それならば納得できる。B以上の瞬間移動は貴重だからな。

 でも、それで護衛任務が起きるのか?

 貴重と言っても、わざわざ此処に来る必要は無いはず。他にもいるのだ。

 いや、いまは考えている場合じゃない!

 男がナイフを振り上げて来た。


「神嵜さん下がって!!」


 俺は地面に座り込んでる神嵜さんに下がるように指示する。


「え……あ……」


 だが神嵜さんは動かない。

 パニックにでもなっているのか?

 神嵜さんを連れて逃げたほうが良いかもしれない。

 でも、もし相手に身体強化系の能力者がいたら追いつかれる。

 それに、こいつらの情報もほしい。

 仕方ない。このまま迎撃する!


「邪魔だ! このガキ!」


 男がナイフを振り下ろしてきた。

 すぐ後ろには神嵜さんがいるから、これ以上は退がれない。


「くっ……」


 能力で盾を作り、ナイフの軌道を阻める。

 それにより、男が仰け反たった反動でナイフが落ちた。

 硬直が解けた俺はすぐに、幻想盾を解除して身体強化を使う。

 そして鳩尾などの急所に攻撃し、意識をうばうった。

 あと二人!


「なんだこのガキ! ナイフ持った男を倒したのか!?」


「狼狽えるな! 能力は二つ同時に使えない。そして恐らく、コイツは身体強化系だ。二人で掛かればいけるぞ!」


 彼らの言うとおり、能力は複数持てても同時には使えない。

 だから能力によっては、一対多数には不利になる。

 そして俺の能力は、両方とも相性が悪い。

 それを見越したのだろう。


 残りの二人が同時に左右から迫ってきた。

 俺はは生憎と武器は何も所持していない。

 その一方で左の男はスタンガン、右からは偽警備員が警棒を持っていた。

 筋力を強化したところで片方の相手をしている間に、もう片方にやられる。

 もちろん、撤退など出来ない。

 万事休すとはこの事か……

 いや、まだ切り札が残っている!

 危険だけど、これしかない!


 俺は腹を括り、もう一度身体強化をかけ直した。

 ただ、今度は筋力や骨などではない。

 “脳”に使ったのだ。


 俺が前に聴覚を強化した様に、身体強化は筋力や骨だけを強化するものでは無い。

 感覚や処理速度を強化する事が出来るのだ。

 ただ先程言った様に、これは極めて危険な使い方だ。

 筋力を上げたり、骨を硬くする事自体は簡単だ。しかし脳を強化するとなると話は違ってくる。

 脳は未だに謎の多い器官だ。しかも我々人間を含めた動物にとって、無くてはならない存在だ。

 そんなものに手を出してしまえば、どんなリスクがあるかも予測が難しい。

 実際、過去にはそれで障害をおったり、植物状態や死亡する人が多発し、注意喚起をされた程だ。

 幸いな事に、なんとなくだが俺はコツの様な感覚は掴めたが、それでも怖いので中々使わなかった。

 けど今はそんな事を言っている場合では無い。


 脳の強化は成功した。

 直後、世界が変わった。

 一秒がとても長い。

 音がしているのに認識は出来ない、必要ない

 左の男が、俺の首筋をスタンガンで狙っている。

 右の偽警備員は、警棒で俺の右の脇腹を狙っている。

 下手に体を伏せれば、警棒が頭に直撃するだろう。かと言って脳を強化している今、跳んで避ける事は出来ないし、そんな事をすれば神嵜さんが無防備になってしまう。

 だから俺は左手を首の近くに構えた。


 まず右から迫ってくる警棒との相対速度を右手と合わせ、掴む。そのまま俺に当たらない様に逸らす。

 それと同時に、左からきたスタンガンを予め構えておいた左手で男の手を力強く叩き、スタンガンを飛ばす。

 左の男が叩かれた勢いで、右手が無防備になったのを確認した俺は一度強化を解除し、右手は警棒を手放して男の襟を掴み、左手で右の袖を掴んだ。

 前に崩しながら、回転し、釣り手(右手)の肘を相手の脇の下に入れ、体を沈め、引き手(左手)で引いて投げた。


「ヤアァァァッ!!」


 みんな大好き、背負投だ。

 いや、好きかは知らんけど有名だよね。


 ※受け身が出来ない人に使うのはやめましょう。頭などを打ち、大怪我をする恐れがあります。同じ理由で、柔道未経験者が見よう見まねでするのも危険です。興味がある方は、ちゃんとした人に教わろうね!


「隙あり!」


 偽警備員が警棒を思いっきり振り下ろしてきた。

 俺は男から咄嗟に離れて避けた。そしてその警棒は、さっき投げた男の鳩尾に直撃した。


「ゴフッッ……」


 男は気絶した。

 痛そう……

 仲間を誤って殴ったせいか、偽警備員の動きが止まった。

 チャンス!

 俺は偽警備員の警棒を蹴り飛ばし、そのまま能力で脚を強化して踵落としをした。

 

「がっ……うぅっ」


 全員倒した。

 神嵜さんも無事だ。

 俺は神嵜さんの前で片膝をつき、念のため確認した。


「神嵜さん、大丈夫?」


 まだ少し、怯えている様だった。


「うん……ありが……とう……如月君」


 とりあえず喋れるみたいだ。

 あとは落ち着くのを待てば良いかな……

 ふと、胸の辺りに体重がかかった。


「ありがとう……わ、私……私っ……怖くて何も……出来なかったっ……ごめんなさい……ごめんなさいっ」


 神嵜さんが泣き付いてきた。

 まあ襲われたんだから仕方ないよ……ね?

 いやいや、何で“ごめんなさい”が出てくるの?


「神嵜さんは何も悪く無いって。何も出来なくたって仕方ないよ」


 襲われるというのは想像以上に怖いものだ。

 俺は仕事上慣れているけど、それでも怖いと感じる事があるくらいだ。

 一般人が何も出来ないのは、むしろ当然だ。

 だから俺は慰めた。

 けれど神嵜さんはまだ()()()()()


「君達! 大丈夫か?!」


 先生と警備員の人が来て懐中電灯で照らして来た。

 恐らく、監視カメラにでも写っていたのだろう。

 先生と警備員の人が駆けつけてくれた。

 遅えよ。

 それよりも報告……しないと……


「ここで倒れているのは……もしかして君達が不審者を倒してくれたのか? 怪我は無いか?」


 遅れた事に申し訳ないと思っているのだろう。

 心配してくれた。

 

「はい。怪我はありま……つっっ!?」


 突如吐き気と目眩に襲われる。

 脳を強化した反動のようなものだ。


「どうした?! やっぱり怪我をしているのか。おい!! 誰か救急車を!!」


 怪我じゃないです。

 でも、脳を強化した反動にしてはデカイ。

 もしかして何かミスった?

 可能性はある。

 だって普段は吐き気と目眩だけなのに、今は眠気も凄いもん。

 

「え? 如月君?! しっかりして!! 如月君!!」


 ごめん……なんか凄い眠い。

 だから……寝かせて……


 そこで俺の意識は途切れた。

 

初めて評価が付きました!

評価してくださった方、ありがとうございます!

とても嬉しかったです。

他の方も、ここまで読んで頂きありがとうございます。

これからも更新頑張りますので、よろしくお願います!

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