第二話 転入初日1
あれから1週間経ち、ついに転入する日がやってきた。
俺は今、理事長室で理事長に挨拶をしていた。
「君が転入生の、如月 響君か。話は聞いているよ。前の学校で能力者である事が周囲に露見し、居られなくなってしまったみたいだね」
「はい、反射的に能力を使ってしまったのを見られてしまって……」
もちろん転入する為の建前だ。
しかし能力者である事が周囲に露見すると、周りから悪い目で見られる事は珍しいことではない。
実際、それらから能力者を保護する為に世界各地で、学園都市や研究都市、その他の機関が設立されている。中には良くない噂を耳に挟むが……
「だが、この学校の在籍の4割は能力者だ。故に超能力についても理解のある生徒ばかりだ。前の学校の様な事は起きないだろう」
能力者を保護している学園都市の学校にしては少しだけ、能力者の数が少ない。
それは恐らく、この学校の入学緩和基準に問題があるからだろう。
能力者の大半はC〜E+の能力しか持たない。
そして、この学校の基準であるC+以上の能力を持たない人は、難しい筆記試験を受けなければならないからだろう。
「君のランクの能力は貴重だ。時々研究の協力を頼まれる事もあるだろう。研究は強制しないが、もし研究に参加するならば相手に気をつけたまえ。でないと……酷い目に会うかもしれんぞ?」
最後の方はとても怖い顔で忠告された。まるで悪の組織の幹部みたいな顔だ
でも、この忠告は素直に受け入れた方が良いな。
それに、もしかしたらその研究者が護衛対象を狙ってるかもしれない。
「ありがとうございます。気をつけます」
その言葉を聞いた理事長はほんの一瞬、ホッとしたような表情を浮かべた。
「私から言いたい事はこのくらいだ。我が校は君の転入を歓迎しよう。これからよろしく頼むぞ、如月君」
「はい、よろしくお願いします」
挨拶にひと段落がついたとき、丁度よく扉がノックされた。
「二年A組担任の片岡です。転入生を迎えに来ました」
扉の向こうから女性の声が聞こえた。
転入生って俺の事だよな? ってことは片岡先生のクラスに転入するって事か。
「如月君、君は理事長室を出て片岡先生について行きなさい。私はまだ仕事があるのでね」
理事長はそう言って、わざわざ扉を開けてくれた。
って、え? そこまでするの?
「すいません。ありがとうございます」
とりあえずお礼を言って俺は理事長室を出た。
すぐ側にメガネをかけた女性教師が立っていた。
この人が片岡先生だろうか?
「遅れてすまないね。君のクラス担任の片岡だ。よろしく、如月君」
「はい、よろしくお願いします」
先生と簡単に挨拶を済ませたあと、俺は教室へ案内された。
教室の前に着くと先生は立ち止まり、俺に話しかけてきた。
「ここが私のクラスだ。このまま付いて来てくれ」
それだけ言って先生は教室の扉を開け、入っていった。
俺も、それに続く様に教室に入った。すると、みんなが俺の方を注目し、騒がしくなった。
「あいつ誰?」
「この前言ってた転校生?」
「この時期に大変だな、夏休み前じゃねーか」
「まだ三週間ぐらいはあるよ」
「でも、何でこの時期に?」
「きっと、能力者なんじゃない?」
変な時期の転入だからか、近くの人と話しだす人も少なくなかった。
それを見た先生が注意した。
「みんな静かに! 今日は転校生を紹介する!如月君」
注意した後、先生が俺の名前を呼び、自己紹介しろと合図した。
「転入生の如月 響です。前の学校で、能力者だということがバレてしまったので転校してきました。今日から皆さん、よろしくお願いします!」
こんな感じで良いのだろうか?
転校なんて初めてだからよく分からない。
日本語、変じゃないよね?
「如月君は先程言ったとうり、能力者の事が露見して転入してきた。だから、仲良くしてやれ。それで、如月君の席は、窓際の一番後ろの席だ」
そう言って、先生は俺の席を指で指した。
その横には金髪紫眼のツーサイドアップ?の女子がいた。
金髪……紫色の瞳、ツーサイドアップ?の髪型……彼女が護衛対象の神嵜さんか?
「それと…….神嵜! 」
先生がその金髪の子を呼んだ。
「はいっ」
金髪の子が返事をした。
「如月の教科書がまだ届いていない。だから授業中には悪いが、見せてやってくれ。それと放課後は空いているか」
金髪の子……さっき、神嵜と呼ばれて返事をしたってことは、彼女が護衛対象であっているだろう。
これはラッキーだな。
教科書がまだ届いてない替わりに、護衛対象との接点がもう出来たのは幸運だ。
これを機に距離を縮める事が出来れば、護衛も楽になるだろう。
「わかりました。今日は放課後も空いているので、今朝頼まれた事も大丈夫です」
神嵜さんは受けてくれた様だ。
これなら近づきやすい……って俺、さっきから失礼な事ばっか考えてないか?
「だそうだ。如月、もういいぞ」
先生に席につけと言われた。
それに従い、俺は席に着いたとき、神嵜さんに声をかけられた。
「クラス委員のアリス・レヴェリ・神崎と言います。よろしくね、如月君」
神嵜さんが笑顔で挨拶してくれた。
っ! か……可愛いっ!
って、いかんいかん! 俺も一応挨拶せねばっ!
「き、如月 響です。こちらこそ、よろしく!」
少し噛んでしまった……
いくら可愛いからって、こんな事無かったぞ。
もしかして、俺の好みは金髪美女だったのか?
そんなどうでも良い事を考えていると、神嵜さんが俺に聞いてきた。
「ところで、今日の放課後は空いていますか?」
なんだ、そんな事か。
一応寮で荷物の整理したいけど、いつでも出来るからいっか。
「空いているけど、何かな?」
そういえば、神嵜さんは先生から何か頼まれていたのでは?
「じゃあ放課後、学校の案内するので空けておいてください」
なるほど、転入先の学校って何処に何があるのか分からないからね。有り難い。
「このまま授業を始める! 」
先生の声が教室に響いた。
みんなは教科書とかを出し始めた
俺はまだ教科書がないので、神嵜さんの机に自分机を近づけて見せてもらった。
転入初日の授業はあっという間に過ぎ、昼休みになっていた。
授業後の休み時間でクラスの人とも結構話し、友達も出来たと思う。その一人が……
「響!」
旗風 翔。さっき下の名前で呼んできた俺より背の少し高い男子だ。
翔は小走りで俺の席にやって来た。
「どうしたんだ? そんなに急いで」
そういえば4限目の授業が終わってから、教室を出るやつが多いな……
「響は今日の昼、どうすんの?」
どうするも何も、前の学校は学食というのが無くて、毎朝弁当を作ってたからなぁ。
「俺は弁当があるから……って、あれ?」
弁当を取り出そうとして、鞄を見るが入っていない。
え、マジ?……
「どうしたの 渡。なんか、焦ってるみたいだけど」
うん、弁当ない。
そういえば今日は朝早くて、作り忘れたんだったな。
「弁当作るの忘れてた……」
今日の昼飯は無しか……キツイなぁ
と思っていたら神嵜さんが話に入ってきてこう言った。
「なら、一瞬に学食に行きます?」
え? この学校には学食があるのか?!
これでもう、弁当忘れてお腹を減らす事が無くなるのか!
「え 良いの?」
神嵜さん確認をとった。
「ええ。ユイもそれで良い?」
神嵜さんがクラスの女子に確認を取った。
長月 結衣。 この茶髪の高身長の女子とも休み時間との間に会話をした。
神嵜さんの幼馴染で、フレンドリーな感じの人だ。
「いいよー。あっ旗風も行くか?」
「ああ! もちろん行くよ!」
長月が翔も誘い、翔もその誘いを、受けた。
「じゃあ、決まりだな。席が無くなる前にいくぞ!」
長月の一声で、俺達は少し急ぎめのペースで食堂へ向かった。