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秘匿機関『SIA』  作者: yumigawa
第一章 それは始まりでは無かった。
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第一話 司令部からの出頭命令


 任務から戻った翌日、俺と怜那は司令部から出頭命令をうけた。


 “特別情報捜査機関SIA(シア)

 超能力関係の犯罪で警察が対処しきれない、若くは世間に露見させたくない場合に対抗するために、政府が設立した組織である。

 その為、組織の存在は秘匿されており、政府や警察の上層部の中でも限られた者しか知らされていない。


「失礼します。如月 響、如月 怜那を連れて参りました」


「うむ、ご苦労。君達は下がっていなさい」


「「はっ」」


 ここまで俺達を案内してきた人が敬礼をした後、部屋を出て行った。

 俺達は総司令と向き合い、敬礼をした。


「久しぶりだね。響君、怜那君、よく来てくれた」


 総司令は近所のおじさんの様な雰囲気で話しかけてきた。


「こちらこそご無沙汰しております。大淀(オオヨド)総司令。それで、本日のご用件とは……」


「ああ、それなんだが……大介(ダイスケ)君、入って来なさい」


 総司令が通信機器で呼び出した。

 ……ん?大介ってまさか……

 司令室の扉が開かれ、そこに居たのは……


「よ! 元気か? 響、怜那」


「え? 大介さん!?」


 そこに居たのは俺達兄妹の義理の父だった。

 如月 大介(キサラギ ダイスケ)……十年前、とある事件で両親を殺され、俺と怜那も命の危機だったところを助けてくれた命の恩人だ。

 そして、父はSIAの中で超能力犯罪対策局の局長として司令部へ参加している。


「響、以前説明した任務のこと覚えているか?」


「護衛任務のこと?」


 忘れる筈が無い。

 護衛なんて前代未聞と言っても良いくらい事例が少ない。

 SIAは厳重に秘匿されている組織だ。その為、少しでも存在を匂わせる様な任務は、まず無い。

 しかし今回は例外だ。

 理由はまだ不明だが“能力規制派”の政治家やテログループ、マフィアが関与しており、世間に露見させたくない様だ。

 

「護衛対象は、私立六花東寮学園高等部二年生の“アリス・神崎・レヴェリ”だ。響にはアリスと同じクラスに編入し、任務を遂行してもらう」


 “六花東寮(リッカトウリョウ)学園”

 超能力者の保護と研究を目的に造られた学園都市にある全寮制の学校だ。

 入学条件は、C+以上の能力を一つ以上保有していること。若くは、学力が指定以上の者。無能力者にとっては難関校とされるが、能力の研究がしたい人には人気のある学校だ。

 怜那も今年からその学園に入学した筈だ。

 ……ん? なら怜那に任せれば良くね?


「怜那は既に別の任務、諜報任務に就いている。だからお前を呼んだんだ。」


 諜報や潜入は情報漏洩のリスクを下げるために味方にも秘密で行われる。それが家族であっても。


「ゴメンね?お兄ちゃん」


「いや、規則だから仕方ないよ」


 とはいったが、やはりちょっと寂しいな……


「入学の手続きは完了している。来週の月曜から入学してもらうから準備しておけよ」


「了解」


 ……って編入試験は?

 幻想盾が、確かB-だから入学基準は満たしてるけど、それでも一応筆記試験あったよな?

 まさか、免除か?


「ああ、そうだ。筆記試験は免除してもらった」


 え?良いのかそれで。


「能力の基準値は超えているし、C以上の幻想盾の能力を持ってる時点で珍しいからな。それに、今の学校の成績も悪く無い」


 なるほど。じゃあ赤点とか取らない様にすれば良いってことかな?


「良い機会だ。学園生活を存分に楽しんで来い!」


 父が最後にそういい、俺達を部屋から出した。



 司令部から出るときに黒いケースを持った老人に呼び止められた。

 この人は、たしか総司令の執事だっけ?

  名前は何故か教えてくれない。

 聞いても、『爺とお呼びください』だもんなぁ。

 それと人見知りの怜那が珍しく、仲良く?話す数少ない人だったりする。


「総司令より護衛用の装備を預かっております。どうぞお受け取り下さい」


 老人から黒いケースを手渡された。

 支給品にしては少し大きい気がするなぁ……


「中に、単発型のワイヤー針式と携帯電話に擬装したスタンガンが一つづつ。発信機2、催涙スプレー、発煙弾、発光発音筒が各二つづつ入っております」


 おい、最後のなんだ? 発光発音筒ってスタングレネードの事だよね? ハイジャック事件に突入でもするの?

 

「あっ、この前頼んだやつ用意できてる?」


 怜那が今思い出したかのように、その老人に聞いた。

 前に頼んだやつ?

 そういえば、怜那は潜入任務だっけ。

 一体、何を頼んだのだろう?


「はい。こちらです」


 怜那が受け取ったのは一枚のカードだった。


「怜那、それは何?」


 興味本意で聞いてみたら、とんでもない回答が返ってきた。


「これ? お兄ちゃんの部屋のスペアキー」


「はい?!」


 何を真顔で言っているんだ! この妹はっ!


「ごめん、嘘。本当は、とある研究室の鍵。そこだけオフラインだからクラック出来なくて……」


 良かった。冗談だった……

 怜那が寮に入るまでは、週二ぐらいのペースで夜中にベッドに侵入され何度抱きつかれた事か……おかげで、寝たのに疲れが取れなかった日も結構あった……


「あっ、でもお兄ちゃんの部屋の鍵も作って貰おうかなー。そうすれば前みたいに……ふふっ」


 やめてください。ホントに勘弁して下さい。俺の安眠を取らないで!


「さすがに私的な用途で作ることは出来ませんぞ」


 爺ちゃんナイス!良く言った!


「私的じゃないです。相棒の身に万が一の事態が起きた場合、いち早く対応する為に必要な事なので」


 なんかまだ言ってるし……


「流石にそんな理由が通る訳……」


 そんな期待はすぐに砕かれた。


「そういう事なら仕方ありませんな。すぐに手配しましょう」



 ……結局、冗談で済んだがとても心臓に悪いやりとりだった。














 響と怜那が出て行った後、司令室には大淀と大介は残っていた。


「本当に良かったのかね? あの事を言わなくても」


 大淀が大介を睨め付ける様にして口にした。

 それに対して大介は


「知らない方が幸せなこともあると思います」


 と哀しそうな顔で答えた。


「そうか…… それで? “例の調査”はどうなっている?」


 大淀は気怠そうに葉巻に火をつけた。

 葉巻の煙が部屋を充満する。


「依然として進展がありません」


 大介は悔しそうに答えた。

 それを聞いた大淀は、机の上に置いてある写真を見ながら大介に尋ねた。


「何年経った?」


()()()です」


「そうか……もう二十年か」


 大淀はとても疲れた様な顔を浮かべ、天井を見上げた。

 その顔にどんな意味があったのかは当事者しか知り得なかった。



 

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