プロローグ
「オットー3より、各員へ。これより突入を開始します。カウントダウンに従って下さい。」
「ユリウス4、了解」
オットー3……オペレーターの通信を受け、俺は即座に応答した。
「ユリウス3、了解」
「ユリウス7、了解」
「ユリウス9、了解」
続くように現場にいる隊員の応答が聞こえてくる。
「10、9、8、7……」
カウントダウンが開始された。今回の目標は、違法薬物の取り引きをしているマフィアの関係者3人の確保。
本来は警察の仕事だ。
しかし、能力者が関わっているとなると話は変わってくる。
警察は職務中に能力を使用する事を禁じられている。
能力の中には、証拠のねつ造を出来るものもや、低ランクでも殺傷力が極めて高いものがあるからだ。
あとは世間の目が一番だろう。
今の世間は、超能力に肯定的な勢力と否定的な勢力、そして興味のない人達の三つに分かれている。
そして肯定的な勢力が、否定派より若干優勢だ。
しかし興味の無い勢力もかなりの数だ。
だから、公共の機関が下手に能力を使ってしまえば世論が傾き、混乱を招く危険すらある。
だが、それでは能力者の犯罪に対応をとるのが難しい。
実際、このマフィアに警察が突入した時に取り逃がしている。
だからこそ、俺達の様な裏の組織が必要とされる。
「……4、3、2、1、突入開始!」
カウントダウン終了と同時にユリウス9が能力で霧を発生させ、犯人達の撹乱を誘う。
その間にユリウス7とユリウス3が退路を塞ぎにいき、俺は霧に隠れながら犯人に接近した。
「ん? なんだ?」
仲間の一人は突然の出来事に困惑していた。
だが一人だけは冷静だった。
「倉庫内で不自然な霧……能力者の仕業か!?」
リーダーらしき男が真っ先に気づいた。おそらく、彼も能力者なのだろう。
「ご名答っ」
「何? ぐぁっ……」
俺は犯人達の前に姿を現し、すぐさま仲間の一人の鳩尾を殴った。
「クルス4がやられた!」
「構うな! それよりも、コイツを何とかしろ!」
リーダーらしき男の指示を聞いた仲間が、拳銃を向けてきた。
「死ねっ!」
弾は撃たれ、俺の額に命中した。
だが……
「なんだと?!」
金属音が鳴っただけで、俺は死ななかった。
確かに、額には当たった。
ただ、そこには顔を隠す為に着けていた仮面とフードがあっただけのこと。
この仮面は一応防弾加工を施されているので、拳銃の弾数発なら耐えることが出来る。
仮面が無ければ即死だった……
「なら、胸に打ち込めばっ」
今度は、二人共撃ってきた。
残念ながら俺が着ている服、SIA戦闘服には防弾加工はされていない。
だから避けるしかないのだ。
「……っ」
俺は咄嗟に能力……『身体強化』を使って、紙一重で避けた。
しかし次の瞬間、二人の銃口は完全に俺を捉えていた。
「一人で来たのが失敗だったな」
リーダー格の人が、拳銃を突きつけて言ってきた。
どうやら俺は、一人で来たと勘違いしたみたいだ。
「その姿……只の一般人なわけないな。何処の人間だ?」
「9……」
「ナイン……聞いたことないな、そんなの」
当たり前だ。そもそも、そんな組織は存在しない。
これは“合図”なのだ。
「了解」
合図の返答と共にユリウス9が姿を現し、犯人の持っていた拳銃を叩き落とした。
「なにっ」
ユリウス9の能力は『液体操作』と『気配遮断』、『治療』の三つだ。
だから霧も出せる上、霧の中とはいえ近づいても気づかれなかった。
「また消え……ぐほっ……」
あっちはユリウス9に任せても良さそうだ。
なら、俺は能力者の方を倒すか。
「よくも俺達を、出し抜いてくれたなぁ!」
相手は能力を使用したのか、超人的な速さで殴ってきた。
恐らく、身体強化だろう。
この速さで動かれるとめんどくさい。だから、もう一つの能力を使用した。
「なっ……止めただと?」
今使った能力は『幻想盾』。
付近に、円形で青い半透明の盾の様なものを、一時的に作り衝撃や熱などから守る能力だ。
と言っても結構疲れる上に範囲は広くない。
おまけに使用後は少し硬直してしまうので、戦闘ではあまり使えないが今回は役にたった。
その証拠に、相手の腕は俺の目の前で停止している。
その代わりに自分も、能力の影響で硬直しているが……
まあ、大丈夫だろう。
信頼できる相棒がいるのだから。
「はあっ!!」
ユリウス9が犯人の背後から奇襲し、怯ませた。
「うがっ……っ」
硬直が解けた俺はその隙を逃さず、もう一度『身体強化』を使って全身の筋力を強化し犯人の鳩尾を殴り、こめかみを蹴った。
「うっ……」
犯人は気絶した。
あとは、報告だけだな……
「ユリウス4、犯人を無力化しました。」
「オットー3、了解。先程の銃声で警察が動きました。こちらが要請していない出動のため、速やかに痕跡を消して全員帰還してください。犯人の逮捕も警察に任せれば良いでしょう。」
「了解」
通信が終了した時、ユリウス9がこっちに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃんっ」
ユリウス9……本名は如月怜那。俺……如月響の妹である。いや、それはいいのだか。
「今はユリウス4だ!」
まだ任務だ。本名を口にした訳では無いとはいえ、任務中にこういう事を言うのは、あまりよろしくない。
「ごめんなさい……」
怜那が申し訳無さそうに肩を落とした。
少し言い過ぎてしまったのだろうか?
「いや、わかればいいんだ。それよりも、何か用か?」
先程はうっかり「お兄ちゃん」と呼んできたが、怜那は任務中に無駄口を叩くことは少ない。だから、大抵は何か用があるときなのだ。
「うん。さっき殴られていたでしょ?だから怪我とかしてないかな?って」
どうやら気を使ってくれていたらしい。こういう時、気とてもきくやつだと、改めて感心しつつ……
「ありがと。でも、その前に帰るのが先だ。帰ってから診てもらうよ。」
と断った。
「わかった。それじゃ早くもどろっ。」
怜那は、早く早くっと俺の手を引っ張っていく。
俺はそれを微笑みながらついていくのであった。
あ……その前に痕跡を消さなきゃ。