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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編4

《天頂左後方から3機!》

「見えてる。」

 俺はヴァレリーからの警告に冷静に応答すると機体を反転させて威嚇射撃を行った。『アスク』相手では狙いを付けたとしても避けられる距離だ。俺は距離を詰めるべく機体を加速させる。

 3機はお互いの距離を取って散って行き、『ヘーニル』との距離を一定に保とうとする。包囲の基本だ。

 こちらは加速して敵機に追いすがるが、それは推進剤を消費する。如何に効率よく追いすがれるかが勝利の鍵だ。

 俺は1機にターゲットを絞り、攻撃を仕掛ける。ターゲットにされた機体は回避しながら距離を保とうとする。俺は更にターゲットに近づこうと加速する。

 しかしその時不用意に近づきながら攻撃を仕掛けてくる機体があった。俺は即座にそちらにターゲットを移し攻撃を開始した。完全に虚を突かれたターゲットは射撃体勢であったこともあり被弾した。

《どこに目がついてるんだ!》

 被弾した機体から罵声が飛ぶ。俺はすかさず被弾したターゲットを撃墜すべく追い打ちを掛けた。

《やらすかよ!》

 他の機体が被弾した機体を援護するため、こちらに近づいてきた。数が減れば不利になる。そこに焦りが生まれたのか、やはり距離を詰めすぎていた。俺はそれを見逃さず、そちらに一気に加速すると攻撃目標を変えた。。

《畜生!》

 機体を回避させようと反応はしたが距離が近すぎた。そのまま被弾したところへ俺は更に距離を詰めて止めをさす。

 俺は被弾した方には目もくれず、無事な1機に対して攻撃を仕掛け続けた。なんとか回避を続けたが4回目の攻撃で撃墜することができた。


《そこまでだ。》

 スヴェン隊長の声でシミュレーションが終了した。コネクト状態が解除され、視界はコックピット内を映している。コックピット内には次々と今戦っていたパイロットたちの顔が映し出された。

《糞!今日もダメだった。》

《一昨日は行けたのにね。》

「こっちだってやられっ放しじゃ済みませんよ。」

《それはこっちの台詞だ!》

 シミュレーションが終われば隊員間で反省会が行われる。今回は隊長除いた隊員4名による1対3だ。

《アーヴィンが油断しすぎたな。あとシェリルの積極性が以前より足りなかった。》

 参加していなかった隊長から講評があり各人のスコアが表示される。それを元に次回のシミュレーション時に行動の修正を行っていくのだ。

《しかし相変わらずグレンはよく避ける。》

《あぁ、絶対当たったと思ったんだがな。》

「一昨日みたいな展開だと厳しいですよ。」

《あれは特攻みたいなもんだ。》

 一昨日やられた時は4機が密集しすぎたため、俺も避けられなかった。一歩間違えば同士討ちになり不利になる状況だったので、選択すべき戦法ではないだろう。

《実際グレンはあれぐらいやらないと落とせないからな。あれに近いシチュエーションをどれだけ味方が安全に作り出せるかだな。》

《隊長~。それができりゃ苦労はないって。》

《じゃあアーヴィンの次回の宿題だな。おっと時間だ。本日は終了する。》

《了解。》

「了解。」


 通信が切れて次々と表示されていた顔が消えていった。コックピットの中は俺とヴァレリーだけになった。

「グレン。この後はどうしますか。」

 ヴァレリーがこの後の予定を聞いてきた。ジムは終わらせてきたので、あとは単位の課題か、映像作品を見るぐらいだ。この間他の隊員にジムとシミュレーション以外の時間に何をしているか聞いて回ったら、映像作品を見ている人が多数いた。どうやら『リオ・グランデ』のライブラリーは映像作品が異常に充実していると評判らしい。俺もラリーに教えて貰った連続ドラマを視聴始めたが、なかなか面白かった。だが俺は。

「もう少し個人練習をしようと思う。ヴァレリー付き合ってくれ。」

 もう少しヴァレリーと過ごそうと考えていた。

「わかりました。状況はどうしますか?」

「最新スヴェン隊に俺の代わりにクリストフを入れて欲しい。相手は艦船防衛で。」

「了解しました。シナリオを作成します。」

 自主練習を行っているのは、<ルナ>戦争時の感覚を未だに取り戻せていないからだ。肉体面では、ナノマシンの状態はかなり良いとヴァレリーが言っていた。そうなると精神面であるように思える。一体あの時と何が違うのか。様々なシミュレーションを試しているが回復の兆しはなかった。

 あの時は時間さえ止まって見えるような、そんな不思議な感覚だった。何が来ても負けない。そんな万能感に包まれていたのだ。それが今はない。

 あのクサヴェリーが何の準備もなく俺たちを迎え撃つと言うことはないだろうと言う予感がある。むしろ確信と言ってもいい。そんな相手に対して最高の状態ではない自分が勝てるだろうかと言う不安が常に付きまとっていた。

「準備完了です。」

「了解。コネクト開始。」

「コネクト開始します。」

 こうして今日も感覚を取り戻す自主練習が始まった。



「惜しかったですね。」

「あぁ…。」

 シミュレーションは艦船を落とす前に上手く撃墜されてしまった。やはり手練れの『アスク』5機相手は厳しい。しかし以前であれば勝てたのでは?と言う感覚がある。それが酷くもどかしい。

「今日はこれぐらいにしておきましょう。根の詰めすぎも良くないですよ。」

「わかった…。」

 焦っても仕方がないのはわかっているが、この3か月で快気の兆しはない。迫りくる時間は確実に俺にプレッシャーを与えていた。

「それではグローブとヘルメットを外して下さい。」

 俺はヴァレリーに言われた通り、ヘルメットとグローブを外した。ヴァレリーは俺の手を握るとじっと目を見つめてきた。俺もヴァレリーの目を見つめ返す。

 ヴァレリーはいつ見ても美しい。ガイノイドなので当然なのだが、出会って3年になるが見飽きることすらない。ヴァレリーを見ることで少し心が落ち着いた。

 3分ほど見つめあっていただろうか、

「終わりました。ナノマシンの状態は良いですよ。」

とヴァレリーは笑顔で教えてくれた。

「<ルナ>戦争の時と比べても?」

 もう何回も繰り返している質問だ。

「はい。順調に成長しています。」

 そして答えもいつもと同じ。では一体何が問題なのだろうか。年齢か、当時の精神状態か、はたまたナノマシンが成長してしまったせいか…。

「ヴァレリー。」

「なんですか?」

 俺は一息ついてからこう告げた。

「俺の肉体を<ルナ>戦争当時まで戻せるか?」

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