表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
93/171

帰郷編4

「ここは?」

 左右を見回すとそこは見慣れた『ヘーニル』のコックピットだった。

「これは一体・・・。」

 ヴァレリーに声を掛けようと定位置である座席を見ると、そこにヴァレリーの姿はなかった。

「ヴァレリー?」

 俺はヴァレリーを探そうと席から立とうとした。しかし固定ベルトに阻まれて立ち上がることが出来なかった。

 固定ベルトを外そうとするが焦っているのか、なかなか外すことができなかった。やっとベルトが外れた瞬間に俺はコックピットのハッチを開けて外へ飛び出した。


「ヴァレリー!」

 目の前に広がる光景はコックピットの中ではなく、艦船や基地の中でもなかった。

「ここは?」

「病院だよ。」

 声のした方を向くとそこには白衣を着た青年が立っていた。

「病院?」

 何故病院に居るかが咄嗟に思い当たらず、必死に何があったかを思い出した。そして公園で狙撃されたことを思い出した。さっきのコックピットの中は夢だったのか。

「名前は?」

 青年は手元の端末を見ながら俺に質問してきた。

「グレン。」

「年齢は?」

「17歳。」

 青年は端末に何かを入力し、こちらを向いた。

「意識ははっきりしているようだね。」

「はぁ。」

 大分と意識がはっきりしてきた。グレック軍曹と会話した後、俺は倒れたのだった。

 腕にはチューブが接続させれており、その先には何か液体状の物が繋がっていた。

「これは?」

 俺が液体を指差しながら青年に聞くと

「それは人工血液と医療用のナノマシンだ。」

との答えが返ってきた。

「ここは病院で俺は医師だが、この病院の医師ではなく連れてこられた軍医だ。」

 そう言うと彼は俺の上に被せられていたシートを取り払った。俺の上半身は血に染まったシャツが張り付いていたが、撃たれた脇腹の傷のところは服が切り取られて肌が見えていた。

 しかしそこには傷口がなく、周囲とは明らかに違う肌の色になっていた。

「傷口がない…。」

「ナノマシンのおかげでこの通り傷口は塞がっている。君の今の状況は単なる貧血だ。」

 血はヴァレリーがナノマシンで止めてくれていたが、かなり出血をしていたのは間違いない。追加で投与されたナノマシンが傷口を埋めてしまったようだ。

「俺は軍医だから軍のことはあまり悪く言いたくないが、これは違法な人体実験じゃないのか?」

 軍医の顔は真剣だ。

「いやこれは合法なナノマシン実験の副作用さ。」

 そう言いながら病室にグレック軍曹が入ってきた。

「…そうですか。」

 青年軍医は何か言いたそうであったが、言葉を飲み込んだように思えた。

「気分はどうだ?」

 グレック軍曹は青年軍医から視線をこちらに移して聞いた。

「貧血だそうですよ。傷はこの通り。」

 俺が指差した傷口を一瞥してグレック軍曹はうなずきながら

「ちょっと見ない間に大分成長したようだな。」

とよくわからない事を言った。諜報部では俺の状態も把握しているのだろうか。

「そんなことより悪いニュースだ。」

 この場合の悪いニュースはヴァレリーと工作員を見失ったのだろう。

「ヴァレリーの件ですね。」

「あぁ、見失ってしまった。」

 グレック軍曹の表情は悔しそうだ。先ほどの夢がそのことを暗示しているような気がして頭を振った。

「現状は?」

「目下警察も動員して探しているが手掛かりがない。恐らく建物に潜伏していると思われる。」

 俺は少し考えて

「俺ならわかるかもしれません。」

と答えた。

「何!? どうやって?」

「俺とヴァレリーは最近繋がっているんですよ。」

 俺が真顔で答えるとグレック軍曹は一瞬ぽかんとした表情をしたあと、

「よくわからんのだが…。」

と答えた。

「感覚的な事なので何とも説明し難いのですけど、端的に言うと俺はヴァレリーの居場所がわかります。」

「ほう。」

 グレック軍曹は興味深そうな顔で俺の前に端末で開いた地図を出してきた。

「これで示せるか。」

 俺は地図を見ると現在地を表示させた。そこから俺がヴァレリーを感じる位置を割り出して示す。

「この範囲ですかね。」

 グレック軍曹はそれを見て少し間を置き、

「なるほど。」

と呟いた。そして俺を見て

「見失った場所に近い。君を信じるよ。」

と言った。

「近づけばもう少し詳しくわかるかもしれません。」

「わかった現場に行こう。少し待ってくれ。」

 そう言うとグレッグ軍曹は部屋から出て行った。

 ふと部屋の時計を見て俺は通信端末を取り出すと家に連絡を入れた。

「母さんごめん。少し遅くなるけど、ヴァレリーと一緒に帰るから。」

 夕飯の時間には帰れそうもないので家に連絡を入れた。しばらくするとグレック軍曹が着替えを持って戻ってきた。

「着替えを持ってきたぞ。退院の手続きも終わったから着替えたら出発するぞ。」


 俺はグレック軍曹が用意した服に着替えて、先ほど地図で示した辺りにやってきた。住宅街と倉庫街が混ざり合った地域で、俺はあまり詳しくない場所だった。

 俺は目を閉じるとヴァレリーの気配を探る。<ルナ>戦争以来ヴァレリーと繋がっているような感覚に陥ることが何度かあった。

 離れている時に何かの拍子でどこに居るのかがわかるのだ。近くにヴァレリーの存在を確かに感じた。

「君が場所を絞ってくれたおかげで、潜伏先が特定できた。」

 どうやら諜報部は先んじて場所の特定していてくれたようだ。

「この後はどうするんです?」

「制圧部隊が突入予定だ。少しここで待機する。」


 暫くすると少し離れた倉庫から喧騒が聞こえた。どうやら突入が始まったらしい。グレック軍曹は耳に付けた通信端末で状況を確認しているようだ。

「制圧完了だ。工作員は2名死亡で、2名確保したようだ。」

 それで全員かはわからないが、俺の目の前に出てきた3名と狙撃した1名の4名とは数が合っている。

「ヴァレリーを迎えに行けますか?」

 俺がグレック軍曹に聞くと、軍曹は通信端末と何かやりとりをして

「大丈夫だ。」

と答えた。


 俺たちが現場に着くとヴァレリーが現場の警官に囲まれて立っていた。

「ヴァレリー!」

 俺がそう叫ぶとヴァレリーは手を振ってこちらにやってきた。 

「グレン!よかった。無事だったんですね。」

「ヴァレリーのおかげだよ。ありがとう。」

「いえ。私は当然のことをしたまでです。」

 ヴァレリーは頭を振って答えた。しかしヴァレリーの行動のおかげで命が助かったことは間違いない。

「さぁ家に帰ろう。」

 俺が帰ろうとするとグレック軍曹に止められた。

「残念だけど、家に帰すわけには行かない。」

「何故ですか?」

「今日の事件でわかっただろう?君は暗殺すら狙われる立場なんだ。ご両親を危険な目に合わせたくないだろう。」

 そう言われて二の句が繋げなかった。グレック軍曹の悲しそうな顔がその事実を補強する。

「わかりました。両親に連絡をお願いできますか。」

 俺たちは軍の基地へ護送されることとなった。俺は養母さんたちとの約束を果たすことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ