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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編15

 『ヘーニル』はゆっくりと月面へと降下していった。そして着地直前で緊急用の圧縮空気を推進剤代わりに吹かし、無事月面へと着地した。

「コネクト解除」

 音声認識によりコネクト状態は解除され、今まで月面を見ていた視界はコックピットの中へと戻ってきた。目の前にはヴァレリーが微笑んでいる。

「お疲れさまでした。グレン。」

 俺はその笑顔に癒されながら

「お疲れ様。ヴァレリー。」

とヴァレリーに労いの言葉を掛けた。かなりの長時間の作戦だった。他にもまだ頑張っているパイロットは居るが、推進剤のなくなった『ヘーニル』はお役御免だ。

 出来るだけ早く回収に来て欲しいが、それも時間の問題だろう。

 レーダーと通信による戦況を見る限り、スヴェン隊が合流したことで戦力は逆転し、先ほどまでの劣勢が嘘のように押していた。防衛拠点を落とすのも時間の問題だろう。

「優勢ですね。」

 ヴァレリーも状況を確認してそう結論付けたらしい。

「クリストフが任せておけと言ったんだ。それぐらいはやって貰わないとな。」

 俺は戦闘が終わった解放感からか、ヴァレリーにそんな軽口を叩いた。実際クリストフが来たタイミングはかなり良かった。もしもう少し遅かったら俺の命は勿論、戦況もかなり不味い状況になっていただろう。今回ばかりはクリストフに感謝だ。


 俺はメットを脱ぐとヴァレリーへと渡した。ヴァレリーはメットを受け取りながら

「何か飲みますか?」

と聞いてきた。何か甘いものが摂りたいと思ったので、

「じゃあ甘いのを。」

と答えた。連戦の疲れからか脳が糖分を欲していた。ヴァレリーは自分の脇にある収納庫を開き、サバイバルキットの中から糖分が補給できる飲み物を渡してくれた。

 コックピット内には今のようにスペース・トルーパーが擱座し、助けを待つのが何日も掛かる場合もある。その為飲み物の他にもパワーバーと言った食べ物もストックされているのだ。

 特にコネクト状態のパイロットは、かなりのカロリーを消費するので、少量で高カロリーが摂取されるものが格納されている。甘い飲み物もその1つだ。

 俺は飲み物をストローから吸い出して飲んだ。無重力化でも飲めるように流出防止弁が付いているので吸い出す必要がある。飲み物はさわやかで甘い味がした。


 体がガクッと前に倒れて目が覚めた。どうやら俺は眠っていたようだ。体をコックピットに固定するベルトのおかげで席からは落ちなくて済んだようだ。

 そんなに長い時間寝ていたわけではないが、敵機の反応はほとんど無くなっていた。この防衛拠点もほぼ制圧したと言っていいだろう。カルロ隊の『アスク』たちは基地攻撃用の武器を回収し、攻撃を開始していた。

「本当にお疲れのようですね。」

 ヴァレリーが向かいの席から声を掛けてきた。

「あぁ、そのようだ。」

 俺の想像以上に疲労が蓄積しているのだろう。

「少し眠りますか?」

 ヴァレリーが睡眠を提案してきた。バイタルサインを見て睡眠を摂った方がよいと判断したようだ。推進剤が切れている状態の今は特にやることもなく暇だ。

「そうだな。少し眠るとするよ。」

 俺がそう答えると

「コックピット席だと眠り難いでしょう。床に座った方がいいですよ。」

と提案してきた。確かにコックピット席は立った状態に近いため安定しない。

「わかったよ。」

 俺は固定ベルトを外すと床へ降りようとした。しかし身体が上手く動かず、席から落ちるような格好になってしまった。

 向かいに座っていたヴァレリーはそんな俺を上手く抱き留めてくれた。顔が胸辺りに収まりほんのりとヴァレリーの温かさを感じた。

「グレン。大丈夫ですか。」

 ヴァレリーが心配そうに声を掛けてきた。俺はヴァレリーの胸の中で

「大丈夫だけど、このままの体勢で寝ていいかな?」

と聞いた。

「はい。大丈夫ですよ。おやすみなさい。グレン。」

 俺はヴァレリーの優しい声色の返事を聞いて深い眠りについた。


 その後、俺たちは無事回収部隊によって回収された。そして人民軍の基地攻略戦ではスペース・トルーパーによる迎撃はほぼなく、俺たちは出撃することはなかった。

 人民軍基地はUS軍の攻撃により陥落し、接収されることとなった。

 こうして<ルナ>は全てUSが統治することとなった。両方の基地を維持することは大変であろうことが予想されるので、今後の外交取引次第ではEUや日本と言った同盟国に有償で貸し出されることになるのではないかと言われている。

 とりあえずは戦後処理で月面のUS軍は忙殺された。俺のような下っ端であってもかなりの仕事量があり、目まぐるしく日々が過ぎていった。

 そんな中、俺はシルバースター勲章を叙勲された。今回の作戦中の俺の活躍は宇宙軍内では目覚ましいものであったらしい。各隊長からも様々な場面で礼を言われた。本来ならば階級が上がるほどの功績であったらしいが、俺の准尉と言う士官学校も卒業していない特殊な身分であったことから階級を上げられず、勲章による救済となったらしかった。

 今後、無事士官学校を卒業して任官されれば、少尉から即中尉に上がれるとチャールズ少佐は言っていた。

 しかしほっとしたのも束の間であった。人民軍が火星のラグランジュ・ポイント1に<サークル>を完成させたと言うニュースは俺たちの心を冷やすには十分な内容であった。

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