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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編14

 『ヘーニル』は、ゆっくりとだが確実に<ルナ>の引力に引かれて高度を下げていた。それは敵の目から見ても明らかだっただろう。先ほどまで自由自在に動き回っていた敵が急に動きを止めたのだ。機体の故障かもしくは推進剤が切れたこととしか考えられないだろう。

 推進剤の切れたスペース・トルーパーは、その利点である高機動力が使えず、脅威度は大幅に低下する。宇宙空間であれば、まったく動けず固定砲台としても働けるか怪しい。それが月面であったとしても、Dドライブのおかげで推進剤がなくとも歩ける分幾分マシとは言え、戦闘力は皆無と見てよいだろう。捨て置かれてもおかしくない存在だ。

「攻撃来ます。」

 ヴァレリーの報告はそんな『ヘーニル』に向かって2機の『ジラント』が攻撃を仕掛けてきたことを伝えていた。それが上官からの命令だったのか、仲間を多数やられたパイロットたちの敵討ちの感情からだったかはわからない。

 ただ相手に脅威と認識させてカルロ隊への攻撃から2機引き剥がせたと言う事実は、満足するには十分な成果だった。

 勿論やられる気は毛頭ない。まだ銃には弾が残っている。

 敵が弾を撃ったのを確認した瞬間に俺も1機に向けて弾を放った。敵の弾は正確に『ヘーニル』に向かって撃ち出されたが、俺は射撃の反動のせいでかなり移動している。そのおかげで弾は労せず避けられた。一方俺の放った弾は敵機の腕を確実に吹き飛ばした。

 通常スペース・トルーパーが射撃を行う場合、反動で狙いが外れないように推進剤を使い機体をその場に留めるように制御される。止まっている方が命中率が上がるからだ。しかし停止していると言うことは隙にもなり得る。俺が相手を撃墜するのに使っているのは、大体この射撃のための停止する瞬間を隙として利用している。

 残されたもう1機の敵が怯んだことがわかった。死に体だと思われた機体に反撃の反動で攻撃を躱された上、その反撃で味方1機が落とされたのだ。ショックも受けるだろう。

 さてこれで敵がどう出てくるだろうか。今の方法は弾がある場合にしか使えない。敵はこちらの弾切れまで攻撃をし続ける方法や、攻撃に参加する機体を増やして時間差で攻撃を行う方法がある。銃は連射はできないからだ。

 あとは射撃の反動で逃げ切れない距離を面で攻撃されることだ。それには多数のスペース・トルーパーか艦船が必要となる。この宙域には艦船は居ない。となるとカルロ隊への攻撃圧力を下げながら俺に攻撃するしかない。俺は大変だがカルロ隊は助かる。逆に俺を無視すると言う手もある。その場合はカルロ隊には悪いが俺の生存はほぼ保証された状態だ。

なんなら月面上から弾が続く限り援護だって出来る。


 そして敵の選択はどうしても俺を生かさない方向らしかった。手を拱いていた1機に4機が合流した。敵機はゆっくりと降下している『ヘーニル』の頭上に居る状態だ。そこから5機が時間差で攻撃してくるのだろう。先ほどの射撃の反動は使えない。使った瞬間に避けた先に弾が撃ち込まれるだろう。

 敵の攻撃が始まった。最初の1機の射撃は正確に『ヘーニル』に目掛けて飛んできた。俺は『ヘーニル』の腕を振るうとその弾をプラズマ・ブレードで切り裂いた。

 一瞬の間があり2つに分かれた弾が頭上で爆発する。規模はかなり減殺できたが爆発の余波は受けてしまい、落下スピードが上がってしまった。これはあまり良い方法ではないな。俺はプラズマ・ブレードを格納場所へと戻した。

 次の1機の攻撃は頭を狙ってきた。俺はその弾を空いた手で掴むと機体に当たらない方向へと受け流した。弾は月面に当たり爆発した。こちらの方法の方が被害を受けずに済む。

 しかし敵は攻撃の手を止めてしまった。あんな非常識な躱され方をすれば致し方ないのかもしれない。

 未だかつてスペース・トルーパーが撃った弾を切断したり、掴んで受け流す機体とは交戦したことがないだろう。俺が『ヘーニル』に乗っているからこそできる芸当だ。

 次の機体はこちらに距離を詰めてきた。少しでも近い距離から撃とうとしているのだろう。しかし『ヘーニル』はまだ弾が1発残っていた。射撃体勢に入った瞬間にこちらからの射撃で撃墜した。これで弾も尽きたが、迂闊には近づいて来ないだろう。

 今度は残った4機が『ヘーニル』を包囲し始めた。正面には来ず横と背後と言った位置関係なので半包囲と言うべきだろうか。推進剤のない今の状況で背後に付かれるのは最悪に近い。


「潮時だな。」

 俺は撃墜を覚悟した。

 その時だった。上方からの攻撃で『ヘーニル』を取り囲んでいた『ジラント』たちが次々に落とされて行った。

《間に合ったようだね。》

 上方には『クロウ』を引き連れたクリストフの乗る『アスク』の姿があった。

「助かったよ。クリストフ。」

 俺は助けてくれた『アスク』を見上げながらそう答えた。

《礼には及ばないよ。あとは僕たちに任せてくれ。》

 そう言うとクリストフたちは別の敵に向かっていった。

 俺はなんとか生き延びることができたようだ。

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