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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編13

《敵の数は『スルト』が10機。『ジラント』が32機。》

 カルロ隊側は『アスク』5機と『クロウ』27機の計32機だ。数の上で負けている上に『スルト』が10機もいる。戦力差的にはかなり厳しい状況だ。

《どこにそんな戦力を隠してやがったんだ!》

 誰かが毒づいたが、それはスペース・トルーパー隊の誰も思ったことを代弁していた。

《2分持ち堪えろ!そちらにスヴェン5を送った!》

 スヴェン隊長からカルロ隊へ檄が飛ぶ。ここで士気が落ちるのはまずい。

《スヴェン5は5分保たせてくれ。こちらを落として直ぐに向かう。》

「了解。」


 俺が敵部隊を射程距離の捕らえた時には、戦場は大分後ろへ押し込まれていた。敵の圧力に負けて後退したのだろう。味方の『クロウ』の数も減っていた。しかし俺が攻撃すれば挟撃の形になる。

 射程距離ギリギリから俺は一番手前に居た『ジラント』の背部バーニア目掛けて一斉射した。敵機は想定外からの攻撃に対応できず、背面バーニアを破壊され月面へと落ちていった。まずは1機。

 こちらに気づいた敵機が攻撃を仕掛けてくる。しかし散発的な射撃は隙を作るばかりだ。俺はその隙に距離を一気に詰めて行く。

 俺たちは敵部隊の後方側面と言った位置から攻撃を仕掛けていることになる。そして手近な位置には『スルト』が居なかった。

「まずは『ジラント』を落として数を減らしましょう。」

 ヴァレリーがそう助言してきた。

「それが良さそうだ。」

 俺はそう答えると敵部隊の全ての攻撃を避けきって敵部隊の中へ切り込んだ。

「プラズマ・ブレード!」

 俺の命令に答えてヴァレリーは『ヘーニル』にブレードを抜かせた。振るったブレードは狙い過たず敵機のコックピットを抉る。

 そのまま敵機を盾にして肩越しに別の敵機を打ち抜く。弾は銃に当たり、弾薬を誘爆させられた敵機はそのまま吹き飛んでいった。

 ブレードを引き抜いて敵機を蹴って向きを変える。そこへ別々の方向の3機から弾が飛んできたが、全てを避けて反撃の射撃を行った。

 敵機は回避行動を取ったが間に合わず左脚を失った。俺はその敵機に近づきながら別の機体に向かって射撃を行う。狙い通り銃を持つ腕を吹き飛ばしてその機体の戦闘能力を奪い去った。そして近づいた左脚を失った機体のコックピットにブレードを突き立てた。左脚を失ったせいで機体のコントロールもままならず、特に抵抗も出来ずに撃墜することができた。

 少しだけ罪悪感を感じたが、その思いを振り払い次の目標を探す。戦場では迷った方から死んでいく。

 目の端に先ほど腕を吹き飛ばされた機体が、もう一方の手にプラズマ・ブレードを構えてこちらに向かって突っ込んで来るのが見えた。

 俺はその攻撃を後ろに下がりながら避けて、相手が突き出した武器を軸に1回転しその勢いのまま通り過ぎた機体の背部バーニアにプラズマ・ブレードを突き立てた。バーニアを破壊された機体は力なく月面へと落ちていった。

 立て続けに4機を失い、『ジラント』部隊に動揺が見られた。俺がここで暴れ続けることでカルロ隊側への攻撃圧力を減らすことができそうだ。しかし無常にも推進剤の残りは刻一刻と減っている。俺は次の獲物になる『ジラント』に向けて攻撃を再開した。


 《『カルロ3』中破。》

 俺が5機目の『ジラント』を落とした時点で入った来たこの情報は、カルロ隊が『スルト』を抑えられていないことの証左であった。カルロ隊の『アスク』は『スルト』と交戦状態になった時点で、基地攻撃用武器を破棄してスペース・トルーパー戦に参加している。司令部は『スルト』は出てこないと踏んでいたが、出てきた場合は対抗できる『アスク』の戦闘参加を優先させることを決めていた。

 今、俺が10機ほどの『ジラント』を相手にすることで、戦力はかなり均衡した状況になっていたはずだ。このまま上手く行けばスヴェン隊の援軍は間に合い、なんとか押し返すことも可能だった。

 しかし今、状況が変わってしまった。『アスク』が1機減るのは、『スルト』を相手にしている状況ではかなりの痛手だ。カルロ隊は『ジラント』は着実に減らしていたが、『スルト』の10機は未だ健在であった。

 攻撃圧力が強い今の状況を考えると、手を打たなければ総崩れとなり全滅の危険性もある。

「ヴァレリー。このまま『ジラント』を減らすのと『スルト』を狙うのならどちらが良い?」

 俺はこの状況についてヴァレリーに助言を求めた。

「残り稼動時間を考えると『スルト』を1機でも落とす方が良いと思います。」

「そうか。」

 『スルト』を落とす方が価値が高いのは想定通りだ。しかし間髪入れずにヴァレリーは

「ただ現状の状態での『スルト』との戦闘は推奨しません。生存確率が著しく低くなります。」

とも助言をしてきた。残弾と残推進剤量では逃げ切れないと言うことか。先ほどから推進剤の残量が少ないことを示す警告は出続けている。残弾もほとんどない。

 俺は6機目の『ジラント』にプラズマ・ブレードで止めを刺しながら考えた。そして

「『スルト』を減らす。」

「…了解です。」

 俺は残った推進剤を目一杯使い、『スルト』が居るカルロ隊の元へと向かった。


 『ジラント』たちの合間を縫って『スルト』部隊の背後に出た俺はそのまま機体をぶつけるかのように『スルト』の背後からプラズマ・ブレードを突き立てた。

 完璧な不意打ちで俺が突き刺したプラズマ・ブレードは『スルト』のコックピットを貫き、その刃は『スルト』の前面からも見えていた。

「よし!離脱する!」

 俺は踵を返すと宙域から脱出を試みた。このタイミングなら逃げ切れる。俺はそう思ったが、けたたましい警告音と共に『ヘーニル』は推進剤を失い、月面へと落下を始めた。

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