月面大戦編12
俺たちが次の敵防衛拠点に移動していたところ、カルロ隊側も担当していた敵防衛拠点を攻略したとの報が入ってきた。
ここまで『アポロ作戦』は順調に推移しているが、次の拠点は更に人民軍の月面基地に近くなり、まさしく最後の砦となる場所だ。先ほどの拠点には『スルト』が居なかったが、こちらの方が居る可能性が高い。
しかし迎撃として出てきたのは人民軍の『ジラント』ばかりであった。『ジラント』は『クロウ』と同世代機であり、性能も『ジャール・プチーツァ』に比べればかなり高い。人民軍も先ほどの拠点を捨て石にしてもこの拠点を死守しようとしていることが伺えた。
「前に出ます。」
俺はスヴェン隊にそう宣言して迎撃に出てきた『ジラント』の群れに突っ込んでいった。『クロウ』隊と交戦する前にできるだけ隊列を崩しておきたい。
しかし32機からの一斉射は敵部隊の練度の高さを証明する一撃だった。ほぼ面での攻撃に俺は大きく迂回して弾を避けさせられた。
「やるなぁ。」
俺は称賛を独り言で呟くと置き土産として反撃の射撃を行った。その一撃は狙い通り敵1機の腕を銃ごと破壊し戦闘不能に追い込んだ。
まず1機。二回目の斉射はばらつきがあった。いきなり一機を落されたことで動揺が生まれたのだろう。俺は機体を弾と弾の間に滑り込ませると、残り31機に接近していく。
「プラズマ・ブレード準備。」
俺はヴァレリーに指示を飛ばすと、左手にプラズマ・ブレードを握った。
三回目の斉射を避けた時点で、敵は目の前に居た。俺は無造作に左腕を振るい敵のコックピットを貫いた。
パイロットを失ったスペース・トルーパーはコネクト解除状態となり、力なく月面へ墜落していった。
『ジラント』編隊の中に入り込んだことで、敵は迂闊な射撃ができなくなった。同士討ちになってしまうからだ。俺はそこに隙を見出し、更に手近な敵に近づいた。
敵機は咄嗟に接近戦用の武器に切り替えようとしたが俺はそれを許さず、腕とコックピットを貫いた。
その瞬間を狙い済ましたかのように弾が『ヘーニル』に向かって撃ち込まれた。やはりこの部隊は練度が高い。シビアなタイミングで反撃を仕掛けてくるからだ。
俺はプラズマ・ブレードから手を離し回避行動を取った。そして一斉射する。敵機は回避行動を取ろうとして吸い込まれるように弾に当たりにいった。敵はヴァレリーの予測通りの回避行動を取ったのだ。狙い通り敵機の頭は吹き飛んだ。カメラが切り替わるその隙に敵機から外れたプラズマ・ブレードを回収する。
頭を吹き飛ばしたスペース・トルーパーにもう一度射撃を加えて、銃ごと左腕を吹き飛ばした。
「頃合です。」
ヴァレリーがそう告げたのを聞いて、防衛拠点に向かって進路を取る。迎撃部隊は慌てて俺を追いかけようとした。注意は完全に『ヘーニル』に向かっている。
直後に友軍である『クロウ』部隊からの射撃が始まった。隊列を崩すと言う当初の目的は達成された。あとはひたすら、敵と味方の弾を避け続けた。
俺にはもう弾を節約するために攻撃する意思がなかったが、敵機からは攻撃する気がないことを悟られないように銃を構えたりもしていた。『ヘーニル』に気を取られることで『クロウ』隊からの攻撃圧力に耐えられず、最終的に敵の『ジラント』隊は全滅した。
《スヴェン隊出るぞ。》
スヴェン中尉の号令の元、『アスク』が防衛拠点攻略のために前に出てきた。スヴェン隊は、再び携行型ミサイルポッドで防衛拠点への攻撃を開始した。これでこちらのチームのスペース・トルーパーはお役御免だ。カルロ隊が防衛拠点をもう1つ落せば、艦船が人民軍の月面基地を射程距離圏内に収める。あとは艦隊の仕事となる。
拠点を2つ陥落させたことで、こちらのチームでは楽勝ムードが漂いだした。しかし人民軍はそうは問屋が卸さなかった。
《カルロ隊が『スルト』の部隊と交戦中とのことだ。》
その通信で弛緩していた雰囲気が一気に緊張感があるものへと変わった。敵の防衛拠点を落とせないことはすなわち『アポロ作戦』の失敗を意味する。
「ヴァレリー。推進剤の残量から防衛拠点へ救援へ向かった場合の戦闘時間を出してくれ。」
俺は救援に向かうべきだと判断していた。しかしここまで2回の戦闘を行い補給を行っていないことから、かなり厳しい判断になるであろうことにも気づいていた。
「5分戦えるかどうかですね。どうしますか?」
思ったよりは戦えるが、『スルト』が何機居るかも判明していない。ヴァレリーはどうするかを聞いているが、きっと答えを知っているだろう。
「スヴェン5よりスヴェン・リーダーへ。」
《どうした?》
「カルロ隊への救援に向かいたいので許可を下さい。」
スヴェン中尉は迷っているのだろう。数秒の沈黙が流れた。
《許可する。スヴェン1と2はスヴェン5を押し出せ。推進剤の節約になる。》
《了解。》
さすが隊長だな。推進剤が残り少ないことに気付いていたようだ。『ヘーニル』に2体の『アスク』が取りついた。そしてそのまま防衛拠点方向へ押し始めた。
《カルロたちを頼む。》
「了解。」
2機の『アスク』によって押し出された『ヘーニル』はカルロ隊救援のため、目標の人民軍防衛拠点に向かった。




