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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編10

 『ウィリアム・タフト』への着艦許可はすぐに下りて、移動はスムーズに終わった。ただ左半身の反応はやはり鈍かった。移動だけなら何とかなるが、戦闘となれば不安しかない。今しばらくは薬に頼ることになるだろう。

 着艦しオペレーターから案内された係留ポイントに向かう。周りは全て『アスク』が係留されていた。10機もの『アスク』が並んでいる様は壮観だ。俺は空いているポイントに『ヘーニル』を接舷させた。そしてそこにはクリストフとサンドラが待ち構えていた。

 敬礼するクリストフに返礼をすると

《時間がないから付いてきて欲しい。》

とクリストフは急ぎ足で艦内に入って行った。

 俺たちはクリストフのあとを付いて行きエアロックを抜けて着いた場所は、ブリーフィングルームだった。

 そこに待っていたのは、先ほど通信で見たスヴェン中尉とあと3人のパイロットたち、そして4体のガイノイド達だった。

 クリストフを入れた5名がスヴェン隊でガイノイドは戦術AIたちだろう。顔が同じで髪色や髪形だけが違うもの、顔が違うもの、体形についてはカスタマイズしている者は居ないようだが、少しずつ使用者の好みや個性が反映されている。

 ここにはカルロ隊は居ないようだ。別部隊なので別の任務なのだろうか。俺はスヴェン中尉に敬礼を行いながら自己紹介をした。

「グレン准尉です。」

「スヴェン中尉だ。スヴェン隊への編入を改めて歓迎する。」

 スヴェン中尉は返礼しながら形式通りの返答をする。他のパイロットたちも返礼している。

「あまり時間がないので今回の作戦について君の役割を説明したい。」

「了解です。」

 スヴェン中尉は早速話を切り出した。確かに作戦開始まで30分を切っている。突然決行することが決まった作戦とは言え、編成も行き当たりばったりに過ぎる。作戦についても不安になるが、腹を括るしかない。失敗した場合、もし俺が生きていれば司令部については糾弾しよう。

「今回『アスク』部隊は基地攻撃用装備で出撃する。その為、グレン准尉には『スルト』の相手を全て任せたい。それほど機体は残っていないと言うのが作戦司令部の見解だ。」

「了解しました。」


 宇宙で使用される武器は、条約によって一定距離まで発射された後は自壊するように取り決められている。宇宙空間では弾が永久に飛び続けてしまい、戦闘宙域から遠く離れたラグランジュ・ポイントにある<サークル>や<シリンダー>を傷つける可能性があるからだ。一応殺傷能力はかなり抑えられているが、当たり所が悪ければ<シリンダー>内部の人間が全滅するといったことも有り得る。そのためそう言った事故が起こらないよう条約内で締結されているのだ。

 通常のスペース・トルーパーの武器では、基地などを破壊するためには相当数の弾薬が必要となり現実的ではない。その為に基地破壊のために攻撃能力を上げた弾頭も当然存在する。しかしそう言ったものは弾速は早くなく数も撃てるわけではない。高機動を誇るスペース・トルーパー相手には当たらないし、何なら武器がデットウェイトとして足かせとなり、基地破壊部隊が敵のスペース・トルーパー部隊に鴨として狩られる可能性すらあるのだ。


 月面基地には防衛拠点が存在し、防衛拠点は対艦隊用に特化されている。それは基地を落とされるとすれば艦隊が持つ砲撃やミサイル艦など高火力に拠るためだ。

 敵としては防衛拠点が健在であれば、艦隊は近づけないので防衛拠点を死守しようとする。

 対して攻撃側は如何に防衛拠点を沈黙させるかに基地攻略の成否が掛かっていると言っても過言ではない。結局はスペース・トルーパーで制空権を把握し、スペース・トルーパーに拠る打撃で防衛拠点を沈黙させることがセオリーとして広く理解されている。

 US軍は先ほどの戦闘で『スルト』は出し尽くしたと考えているとのことだ。つまり制空権を争う相手は、『スルト』ではなく『玄武』や『ジャール・プチーツァ』と言った人民軍の旧来のスペース・トルーパーであり、『クロウ』で対抗可能であると想定しているのだろう。

 そうであるならば、『アスク』であればデットウェイトとなる基地攻撃用装備を持っていたとしても十二分に対抗可能であるだろうし、保険として露払いの『ヘーニル』を連れていくことで『スルト』にまで対応すると言うのは理に適っているように思えた。


「質問はあるかね?」

「スヴェン隊に付いて行って露払いすればよいと言う認識でよいでしょうか。」

 スヴェンはうなずきながら

「そう考えて貰って構わない。」

と答えた。

「了解しました。質問は以上です。」

 俺に異存はない。スヴェン隊から離れないように露払いをすればよいのだ。

「では各自スペース・トルーパーの搭乗して待機せよ。解散。」

 スヴェン中尉の号令で皆急ぎでエアロックへ入った。その後はそれぞれのスペース・トルーパーへ搭乗して行く。

 並んでいる姿も壮観だったが、パイロットが乗って灯が入って行く様は調整とは言え開発に携わっただけに感無量だ。

「『コンスタンツ』の皆も嬉しいだろうな。」

 きっと『コンスタンツ』の皆もこの光景を見ればそう思うに違いない。俺がぽつりと漏らすと

「はい。きっと誇りに思うと思います。」

 とヴァレリーも答えた。

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