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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編9

 俺たちの部隊は29機のスペース・トルーパーが戦闘可能と判断され、航宙母艦の『ジェームズ・ガーフィールド』1隻とその護衛としてアパラチア級巡宙艦2隻が人民軍基地を攻撃するための戦力として再編成された。そして現在は他の部隊との合流ポイントへと向かうべく移動を開始した。

 合流ポイントまでは30分程度と短い時間だが、俺は部屋で仮眠を摂ることにした。基地を攻めるとなると次に休めるのはいつになるかわからない。

 どうして軍司令が人民軍の基地を攻める事を決断したのかを考えてみたが、考えが纏まる前に眠りに落ちてしまった。


「グレン。起きて下さい。時間です。」

 ヴァレリーの涼やかな声で俺は覚醒した。まだ眠いが先ほどより随分と体調が良くなったように感じた。かなり疲労が溜まっていたのだろう。

「おはよう。ヴァレリー。」

 俺が寝床から降りるとヴァレリーがパイロットスーツを持ってきてくれた。それを受け取って手早く着替える。

「命令書は来ている?」

 俺は着替えながら今後の動きを指示する命令書が来ているかを確認した。

「はい。標準時18:30にブリーフィングルーム集合です。」

 時計を見やると標準時18:25を指していた。ギリギリだがなんとか間に合いそうだ。

「ヴァレリー。急ごう。」

 パイロットスーツに着替え終わった俺はヴァレリーと共にブリーフィングルームに向かった。

 なんとか開始1分前にブリーフィングルームへと滑り込むことができた。すでに全員集まっているようで、俺たちは空いた席にそそくさと座った。

 定刻になり壁面に他の艦のブリーフィングルームの様子が映し出された。別の船に乗っている前線指揮官のチャールズ少佐が話をするようだ。


「皆よく頑張ってくれた。諸君の奮闘のおかげで月面基地は守られた。」

 確かに3部隊ともよく守りきれたものだ。事前の想定ではかなりこちらが不利だったはずだ。

「助っ人の『アスク』部隊によって、敵の侵攻を食い止めただけでなく反撃のチャンスを得ることができた。」

 ん?『アスク』部隊だって?そこでUS軍が『スルト』の攻撃を押し返せた理由がわかった。クリストフたちが迎撃に間に合ったのだ。他の2部隊の戦場に援軍として『アスク』部隊が参加したのだろう。何故うちの部隊には来なかったはわからないが、『アスク』の調整は上手く行ったと自負している。それを使えるパイロットが揃ったのならばUS軍が圧勝したとしても不思議ではない。

「そしてこれより『アポロ作戦』は第二段階に入る。目標は人民軍月面基地の制圧だ。」

 チャールズ少佐の前に人民軍の基地周辺の地図が表示される。印がついている部分が攻撃目標となる迎撃施設であろう。うかつに射程に入ってしまえば艦船はたちまち落とされてしまう。スペース・トルーパーはその露払いのため迎撃施設を潰していくのだ。

 そして満を持して艦船によるミサイル攻撃に移れる。今回ミサイル艦はないが巡宙艦にも基地攻撃能力は十分にある。艦隊を無傷で基地攻略まで持って行ければ十分勝てるだろう。

「攻撃目標の割り振りは各リーダーに伝達済みだ。作戦開始は1時間後とする。それでは諸君の検討を祈る。解散。」

 全員が起立し敬礼をする。俺はモニターの向こうにクリストフの姿を認めた。半年前と変わり映えしない不敵な表情に俺は懐かしさを感じた。

 クリストフと話が出来るのも、この作戦が終わってからだ。とりあえず月面から人民軍にはご退場願おう。


 解散後、今後の話を聞くためにベアータ中尉の下へ向かった。ベアータ中尉は俺の方を見ると1つの壁面スクリーンを指さした。

 そのスクリーンにはいつの間にかクリストフが大写しになっていた。クリストフと話せと言うことだろうか?隊長が言うのであれば遠慮なく話させて貰おう。


「久しぶりだな。クリストフ。」

《久しぶりだね。グレン。》

 相変わらずの笑顔だが、心の中ではあまり笑っていないのだろうなと思った。それを感じ取れる程度には付き合いも深い。

「何か用があるのか?」

 何かなければベアータ中尉が今後の指示より先にクリストフと話せなどとは言わないだろう。

《グレンはベアータ隊から外れて貰って『アスク』隊に編入されることになる。》

 なるほど。そう言う事か。ベアータ中尉は俺の指揮官ではなくなったのだ。

「俺の『アスク』は持ってきてないぞ。」

 俺は『ヘーニル』でベアータ隊に編入されたため、『アスク』は月面基地に置きっぱなしだ。パイロットが居れば『アポロ作戦』にも投入されただろうが居ないものは致し方ない。『アスク』部隊なるものができたようなので、今後はそんなこともなくなって行くのだろう。

《『アスク』部隊は通称だよ。正式にはスヴェン隊とカルロ隊だ。君は僕と同じスヴェン隊だよ。》

 俺はスヴェン隊に編入されるらしい。スクリーンに映っている人間がクリストフから別の男性に代わった。

《隊長のスヴェン中尉だ。合流のため、こちらの航宙母艦まで来て欲しい。》

「了解しました。」

 俺はスヴェン隊長に向かい敬礼した。

《配置換えと命令書は既に『ジェームズ・ガーフィールド』に受領されている。私の名前を出してこちらに向かってくれ。それではこちらで待っている。》

 通信が切れスクリーンのスヴェンは消えた。作戦開始まで1時間しかない。

「ヴァレリー行こう。」

「はい。」

 俺たちは急いでブリーフィング・ルームを後にした。


 俺たちはそのまま格納庫までやってきた。出撃準備をしている整備班が忙しなく動き回る中、『ヘーニル』に搭乗する。

「ヴァレリー。発進オペレーターにつないでくれ。」

 俺は席に着いてベルトを装着しながらヴァレリーに依頼した。

「了解。繋ぎます。」

 ヴァレリーは席に着くなり、通信を繋いでくれた。

《こちら発進オペレーター。どうしました?》

 オペレーターに通信が繋がった。

「スヴェン隊のスヴェン中尉の命令により『ウィリアム・タフト』へ移動する。」

 『ウィリアム・タフト』はクリストフが乗っている航宙母艦だ。スヴェン隊とカルロ隊もそこに居る。

《お待ち下さい・・・。命令書を確認。2番カタパルトを使用して下さい。》

「了解。」

 オペレーターとの通信を切るとヴァレリーが

「発進前チェック完了しています。」

と時間がないことを見越して発進準備を進めてくれていたようだ。さすがヴァレリー。

 出発前に薬を飲むか逡巡したが、移動するだけなら問題ないだろうとそのまま発進することにした。

「コネクト開始。」

 俺はコネクト状態になると、2番カタパルトに向かった。

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