月面大戦編7
「艦影5。『ナロードナヤ級』1、『カルピンスキ級』2、あと2隻は該当なしです。」
ヴァレリーから敵艦隊の陣容が報告される。『ナロードナヤ級』は人民軍の航宙母艦型の艦船だ。『カルピンスキ級』は巡宙艦に当たる。
「該当なし?新規の艦艇?」
俺の疑問に対してヴァレリーからすぐに回答が返ってくる。
「類似艦影だと『バザルデュジ級』です。87.2%の類似性があります。」
『バザルデュジ級』はミサイル艦だ。ミサイル艦の改造艦と言うところだろうか。月面基地攻略のために改造を施されたと思ってよいだろう。ならばそれが本命だ。
「攻撃目標を不明艦に設定。」
俺は攻撃目標をヴァレリーに告げた。
「敵スペース・トルーパー部隊の迎撃がきます。」
『玄武』10機が迎撃のためこちらに近づいてきた。あまりモタモタしていると『スルト』と挟撃されてしまう。それだけは避けなければならない。
「手近な奴から照準を頼む。」
俺はヴァレリーに言葉少なに命令を下す。
「了解。」
応答の声と共に俺の左目は『玄武』の1機を捕らえた。『玄武』と初めて戦ってからもう1年も経つのか。なかなかに感慨深いが、俺は容赦なくロックオンした『玄武』に向かって発砲した。銃を持つ腕ごと盛大に吹き飛んで行ったのを確認し、次なる目標を見定めて発砲する。
今度の機体は右足を吹き飛ばした。ちょうど相手も射撃体勢だったがバランスを崩しあらぬ方向へ弾を放っていた。俺は止めに銃を持つ腕も吹き飛ばした。
敵の射程距離に入り反撃がきた。俺は回避行動を取りながら次の獲物に狙いを定める。
完全に無力化するのであれば胴を狙いってパイロットを殺害するのが一番よい。しかしコックピットがある胴周りは、パイロット保護のために装甲厚く一撃では逆に落とし難い。
今回のように単機で敵陣深くに切り込んだ場合は、こちらの消耗を減らすため、弾数を如何に少なく使って相手を無力化するかに掛かっている。そう言う意味では銃を持つ腕ごと吹き飛ばすのが一番効率が良い。
俺は3機目の腕を吹き飛ばした後、回避行動を取りながら敵機に近づく。敵機は至近距離で弾を撃ってくるがそれを避けると、プラズマ・ブレードで相手の胸を切り裂き、返す刀で銃を持つ腕も切り飛ばした。
これで4機が戦闘不能になったはずだ。だが時間の余裕がない。追いかけてきている『スルト』はもうそこまで迫ってきている。
短時間で4機もやられたことで『玄武』も少し距離を取ってきた。俺は好機と見て改造ミサイル艦に向かって行く。
艦船からの対宙砲火が来る。艦船は面で攻撃をしてくる。攻撃密度が高い対宙砲火の攻撃を縫って避けるのは俺でも難しい。対宙砲火を大きく迂回して回避行動を取ることになる。艦船はこの方法でスペース・トルーパーを近づけないようにするのだ。
俺は艦船の側面に流れながら前部にあるバーニア・スラスターを撃ち抜いた。
スペース・トルーパーの銃の弾では艦船の装甲を抜くのは難しいが、バーニア・スラスターだけならば破壊できなくもない。これで艦船を停めるのが難しくなったはずだ。
俺はそのまま敵艦船の対宙砲火を避けながら、側面から背面へと移動する。艦船のメイン・バーニア・スラスターを狙うためだ。こちらが破壊されれば艦船は前に進むことも難しくなる。
俺はスペース・トルーパーの銃弾で背面にある4つあるうちの2つのメイン・バーニア・スラスターの破壊に成功した。こいつは当面放っておいても大丈夫だろう。
艦船を攻撃されたことで慌てて『玄武』が前に出てくるが、俺は艦船から『玄武』へターゲットを変え銃ごと腕を吹き飛ばす。これで『玄武』はあと5機だ。
「『スルト』5機が追いつきました。」
ヴァレリーからの忠告で、厄介な奴らが戦場にやってきたことを知った。残弾と推進剤の残量を確認する。よしまだ行ける。
「先にもう1隻の改造ミサイル艦をやる。」
「了解。」
ヴァレリーの返答前に俺は改造ミサイル艦の方へ『ヘーニル』を向けた。背面からメイン・バーニア・スラスターを潰して行く。今度は3か所を破壊した。この船はもう動けないだろう。前面のスラスターを破壊しようとしたが、対宙砲火と共に『スルト』が参戦してきた。
『スルト』5機の相手は余力を残しては戦えない。敵の射撃を避けつつ、対宙砲火から逃げる。牽制の射撃を行いながら距離を潰して行く。
『スルト』との射撃の差し合いは弾の無駄だ。0距離射撃か、プラズマ・ブレードで接近戦をするのが一番効率が良い。『玄武』は無視し、『スルト』に注力する。
『スルト』を2機落としたところで、警告音が鳴り始めた。
「推進剤切れが近いです。ここまでにしましょう。」
もう推進剤の残りが少ないらしい。ヴァレリーからは撤退を進言された。確かに潮時だな。
「了解。撤退する。」
大回りしながら加速し、敵艦隊から離れた。敵のスペース・トルーパーも追いかけるには推進剤が足りないだろう。戻る途中で更に『スルト』を減らせれば御の字だ。
俺たちは迎撃ポイントまで帰ってきた。お互い泥沼の消耗戦に突入しているようだ。不利な戦力比だったが、持ちこたえられたようだ。
帰りがけの駄賃として『スルト』2機を撃墜し、航宙母艦へ帰投した。




