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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編6

「お勧めしかねます。」

 俺の決意は、ヴァレリーにやんわりと拒否された。

「何故?」

 俺は不思議の思いそう尋ねた。

「ナノマシンの強化は時間を掛けて行うものです。それにレベルは上げるものでなく、進めて行く上で上がってしまうものです。無理やり上げるとどんな副作用があるかわかりません。だからお勧めしかねます。」

 ヴァレリーは少し怒ったような表情でそう説明した。

「そうか。無理やりに上げる方法があるんだな。」

 俺がそう言うとヴァレリーは悔やむような表情をして答えた。

「・・・。はい。」

「じゃあ、やろう。」

「っ!レベル3になったからと言って、爆発的に戦闘能力が上がるわけじゃありません。グレンの場合は特に今のままとそう変わりませんよ。」

 ヴァレリーは俺をじっと見つめてそう言った。

「本当に?ヴィルヘルムの乗った『オーディン』は戦況を変えられるほど強かったけど?」

 俺は挑発的な態度でヴァレリーに問うた。

「本当です。データ的にもグレンは、あの時のヴィルヘルム氏と大差ありません。やり方次第で十分に戦況を変えられます。」

 俺はじっとヴァレリーを見つめ続けた。

「そうか。ヴァレリーが言うならそうなんだろうな。」

 俺は根負けしたようにそう答えた。レベル3への引き上げに関しては俺自身も悩んだのだ。しかしその決意があっさりと覆されてしまったので、意趣返しの意味も込めて少しヴァレリーに意地悪をしたのだ。ガイノイドは嘘を吐かない。ヴァレリーが今言ったことは全て真実なのだろう。

 しかしこれで俺の思いついた方策は使えないことがわかった。こちらの被害を最小限に抑えながらどうやって人民軍を撃退すればよいだろうか。

「そんなに落ち込まないで下さい。人民軍撃退には良い案がありますから。」

「良い案?」

 俺はヴァレリーの言葉に食いついた。何しろその為に悲壮な決意までしたのだ。

「はい。シンプルかつ実現可能性が高い案です。命令違反になるとは思いますけど。」

 俺は一も二もなく飛びついた。

「やろう。営倉入りぐらいどうってことない。」


 およそ5時間後、人民軍の侵攻が開始されたとの連絡が入った。敵は情報通り3方向からの侵攻である。ルナ艦隊はそれぞれ迎撃するため発進していった。

 俺たちパイロットも艦隊の発進と共にスペース・トルーパーに搭乗し、出撃の準備を進めていた。航宙母艦には3つのカタパルトが備えられており、同時に3機の発進が可能だ。俺はかなり後ろの順番での射出になる。そしてそれは俺たちの作戦に取っては好都合であった。

 いよいよカタパルトからの射出が始まった。次々に射出されている僚機を見守りながら自分の番を待っていた。

 そろそろ俺の番だ。俺は薬を飲み込むとヴァレリーに向かって

「それじゃあ、よろしく頼むよ。」

と言った。

 ヴァレリーは微笑みながら

「お任せ下さい。」

と頼もしく答えた。

「コネクト開始。」

 俺はスペース・トルーパーとのコネクト状態になるとカタパルトの射出位置まで移動した。機体が射出板に固定され、あとは射出を待つだけだ。

 出撃用の信号が出撃を告げる。しかし機体を押し出す射出板は動かなかった。

「ヴァレリー。発進オペレーターと通信を。」

 俺はカタパルトの担当者に状況の確認を行うため連絡を入れた。

「了解。・・・。繋がりました。」

 ヴァレリーが発進オペレーターへの通信回線を開いてくれる。

「こちらベアータ5。カタパルトが動作しない。状況を教えてくれ。」

《ト、トラブルのようです。こちらも現在状況を確認中。し、しばらくお待ち下さい。》

 オペレーターは慌てた様子だ。しかしこれは予定通りの動きだった。オペレーターには可哀想だが仕方がない。

「了解。通信を切る。」

 発進オペレーターとの通信が切れたことを確認し、俺はヴァレリーに尋ねた。

「ヴァレリー。状況は。」

「あと10秒、8、7、6、5、4、3、2、1。発進します。」

 ヴァレリーのカウントダウンが終わると同時に、射出板が勢いよく動き出し『ヘーニル』を通常の発進速度を遥かに上回る速度で射出した。

 カタパルトのトラブルはヴァレリーが仕組んだものだった。詳細は教えてくれなかったが、カタパルトの発進を遅延させることでエネルギーを溜め、予定速度以上のスピードで発進させることができるらしい。どんな裏技だ。※貯めは財産やお金などの時のみに使います


「こちらベアータ5。カタパルトのトラブルにより制御不能!」

 俺は状況の言い訳をしながら機体の加速を進める。『ヘーニル』は他のスペース・トルーパーを次々と追い越して行った。

「3分34秒で会敵します。現在敵は展開中のようです。」

 ヴァレリーが敵の位置を掴んだようだ。

「了解。」

 時間的には微妙だ。理想は敵が展開を終わる前に突っ込むことだったが仕方がない。

「射撃きます。」

 息つく暇もなくヴァレリーから警告が飛ぶ。俺の目には弾の予想進路が表示されている。当たるコースは2発。他の弾に当たらないように俺は体を捻って避ける。

 すぐに敵の第2射が来た。しかしそれも難無く避ける。第3射目を避けた時点で敵機が見える。ざっと見たところ『スルト』しか居なかった。俺は射撃による減速を避けるため反撃を行わず加速を続けた。


 そしてそのまま『ヘーニル』は敵スペース・トルーパー集団の中へ突っ込んだ。進路上に居る敵は最小限のコースで避け、寄ってくる敵はプラズマ・ブレードを振るって打ち落とす。

「撃ってきます。」

 敵は同士討ちも辞さずに集団内に向かって撃ってきたようだ。弾が四方八方から押し寄せる。しかしそれも苦にはならない。止まったかと錯覚するほどゆっくりと流れる時間の中、俺は悠々とその全ての弾を避けてなお先に進んだ。


 ゆっくりと進んでいた時間が急に忙しなく流れ出した。

「敵攻撃圏を抜けました。敵艦隊の会敵まで1分23秒。」

 俺たちはスペース・トルーパーの集団から抜け出たようだ。そして目標である敵艦隊の目の前に出た。

「背後のスペース・トルーパーの動きは?」

「一部追ってきます。数は5。」

 もう少し引き離したかったが、5機でも御の字だろう。戦力比的には大分楽になったはずだ。

「艦隊の護衛部隊は?」

「『玄武』中心と思われます。数は10。」

 護衛部隊まではさすがに『スルト』が回らなかったか。なら物の数ではない。

「じゃあ護衛部隊を削りながら、予定通り艦船を全て落とす。」

「了解。」

 俺たちは目標である敵艦隊に向かい更に加速して向かった。

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