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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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シリンダー内の日常編2

 午前中は養父と2人で船庫にある備品倉庫の片づけをした。今日は休日なので仕事は休みだ。午後からヴァレリーを迎えに行って、この備品倉庫にスペース・トルーパーを移動させなければならない。明日から学校が始まるし、もう2日もすれば『エーリュシオン』はまた荷物を載せて輸送業務に就くのだ。俺は昼食を摂らずにヴァレリーを迎えに工房に向かった。リニアとトラムを乗り継ぎ工房付近の駅で降りる。休みのせいか風俗街は繁盛しているようで人は多い。風俗街の端の工房までやってきた。相変わらず工房の扉は開きっ放しで薬品の匂いがする。

「すいません。」

 中を覗くと昨日の男が昼食を食べていた。さすがに今日はマスクをしていない。彫りの深い男前の顔をしていた。年齢はトニーと同じぐらいだろう。

「少し待ってくれ。」

 男は昼食を掻き込んで食べてしまった。

「ところで明日はここに来れないか?」

「今日でなくてですか?」

「あぁ、サービスで渡すものがあるんだが、生憎在庫がなくてな。明日なら届いてるんだが。」

「学校のあとなら時間ありますけど。」

「では学校が終わったらきてくれ。一応連絡先も送っておく。」

 男は通信端末を操作して連絡先をくれた。名前はアンシュと言うらしい。アンシュは俺に席で待つように指示して奥へ行った。奥には目のやり場に困る裸のガイノイドが多数並んでいる。しばらくしてヴァレリーがやってきた。なんだか肌や髪の艶がいいような気がする。

「ヴァレリーなんだかきれいになってない?」

「フルメンテナンスして貰いましたからね。肌と髪も交換して貰いました。」

 人間型のメンテナンスだと普通らしい。肌や髪の色は前と変わらなかった。

「アンシュ。ありがとうございました。」

「あぁ。またな。」

 アンシュはそのまま工房の奥へ行ってしまった。俺とヴァレリーはトラムの駅まで歩いた。視線が突き刺さるが慣れてしまった。昼食を摂っていなかったので、トラムの駅の近くにあるファストフードでハンバーガーを食べた。このチェーンのハンバーガーは人工肉だが美味くて安いので学生に人気だ。ヴァレリーは当然昼食を食べないが俺の前に座っている。なんだかデート気分だ。しかしこの後は宇宙港に戻らなければならない。昼食を摂り終えた俺たちはトラムに乗って宇宙港に移動した。

 

 トラムからリニアを乗り継いで船庫までやってきたが養父がどこにいるかわからないので、通信端末で連絡をとることにした。

《おう、グレンか。今どこだ?》

「船庫に帰ってきたよ。もう『タロース』を移動させていいの?」

 『タロース』はスペース・トルーパーの名前だ。名前がないと不便なのとスペース・トルーパーがあることが会話から漏れないためにコードネームを付けようということになったのだ。ちなみに命名は養父だ。船の名前といい養父はギリシャ神話が好きなようだ。

《俺はブリッジにいるから、先に『タロース』を移動してくれ。》

「了解。」

 俺は通信を切ってヴァレリーに船に行くことを伝えた。リニア駅を降りたあと、通路を通って桟橋に出る。桟橋は格納口と繋がった状態になっており、そこから乗降することになる。桟橋は格納口と直結しているのでかなりの大きさがある。桟橋も通路も『タロース』が通るには十分な大きさだ。俺たちは桟橋から船の中へ入った。『タロース』は念のため貨物室の一番奥に置いてある。無重力地帯ではあるが、空気があるエリアなので船外服は着ずにコックピットへ入った。俺はパイロット席に座り壁から固定具を引っ張り出して装着した。ヴァレリーも自席に座って準備をしている。

「発進シークエンス開始します。」

 ヴァレリーの宣言により視界が暗転した。視界には次々とチェック項目の文字が浮かびあがっていき、OKの文字が並ぶ。

「発進シークエンス完了。コネクトできます。」

「コネクト開始。」

「コネクト開始します。」

 真っ暗な中、文字だけ浮かんでいた視界は貨物室の中を映し出した。

「発進する。」

 今度は俺が宣言すると、機体を膝立ちの状態から直立状態へ移した。そして床面を軽く蹴り前へと移動していく。程なく荷下ろし場へ到着した。ここからは事前の打ち合わせ通り、足跡を残さないよう桟橋を空中機動だけで移動し、リニア駅と反対側にある備品倉庫へと移動する。空中機動はシミュレーションで練習済みだ。多分大丈夫だろう。

「ゆっくりでいいですからね。」

 一旦荷下ろし場で着地。格納口側に体を向け、再び床を蹴って前に進み始めた。姿勢制御は空気がある中なので推進剤を燃やさず圧縮空気だけで行う。ゆっくりと桟橋を通り抜け廊下に出た。ここで90°左に回転し、またまっすぐ進む。備品倉庫の奥まで進みゆっくりと着地した。『タロース』を膝立ちの待機状態にし、ヴァレリーと共にコックピットから出た。あとは周りに荷物を置いて目隠しを作る。少しでも見えない状態におくためだ。船からやってきた養父とヴァレリーとの3人で作業をした。

 明日からは学校が始まるが、暇を見つけてはヴァレリーと整備しようと言う話になっている。ヴァレリーもだが『タロース』も長らくメンテナンスされていない状態なのだ。消耗している部品などで民生品で対応できるものは交換するつもりでいる。もし売ることになっても完動品の方が高く売れるはずだとは養父の言である。

 

「この辺りのパーツは使えそうですね。」

「まぁまぁな値段だな。」

 船からの帰り道、ヴァレリーがくれた交換リストの部品をネットで探しつつ、通販の注文をしておく。支払いは養父からの「無事帰ってきたご褒美」と俺の今回のバイト代をつぎ込む。通信販売で注文しておけば配達ロボットが備品倉庫の前まで配達してくれる。作業は品物が届きだしてからだ。

 帰ってきて夕飯後は学校の残っている課題を片付ける。行きの航路で大分片付けておいて助かった。事件後はほとんど課題に触れなかったのでギリギリになってしまった。学校が明日から始まる。船外作業機の実習も始まるのでそれは楽しみだ。『タロース』とはどれぐらい差があるだろうか。そう考えながら布団に入ったが疲れていたのかあっと言う間に眠りに落ちた。

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