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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編4

 無事基地に帰投した俺たちは、スペース・トルーパーを巡宙艦から降ろし、基地ハンガーへ格納した時点で解散となった。ベアータ隊の損耗は、ほぼ無くイレネオ少尉の機体に弾が掠めて装甲が外れた程度だった。新ベアータ隊としては上々の滑り出しだろう。

 しかしルナ艦隊はそうは行かなかった。かなりのスペース・トルーパーが損耗してしまったようだ。衛星軌道上のルナ艦隊にはまだかなりの数のスペース・トルーパーはあるが、相手はあの『スルト』である。整備班はルナ艦隊のスペース・トルーパーの修理に掛かりきりになるだろう。そうなると俺たちのスペース・トルーパーの整備も後回しとなる。下手すれば数日出撃はないかもしれない。


 とりあえず休息を取ることが先決だ。俺たちは自室に帰ってきた。

「グレン。こちらへ。」

 俺はヴァレリーに誘われて、ヴァレリーの正面に座った。ヴァレリーは立ったまま俺の手を握り締める。

「目を見て下さい。」

 ヴァレリーのひんやりとした手の温度を感じながら、ヴァレリーを見上げるような形で見つめる。ヴァレリーは見下ろすように俺の瞳を覗き込んだ。

 スペース・トルーパーに乗った後は、こうやって必ずヴァレリーがナノマシンの調整を行ってくれている。ヴァレリーを見つめていると少し表情が曇った。

「どうかした?」

 ヒューマンタイプの顔を持つガイノイドは、顔が良いのと人間に比べれば表情が少ないため、得てして冷たい印象を受けるものだ。しかしヴァレリーはガイノイドにしては表情が豊か過ぎるため、冷たい印象をまるで受けない。そしてまるで人間のように考えていることがすぐ顔に出てしまうのだ。

「ナノマシンの状態は良好です。むしろ状態が良すぎます。恐らくレベル3になる兆候かと思われます。」

 レベル3となるとヴィルヘルムと同じレベルか。

「16歳の俺が若返るとどうなると思う?」

「グレンの場合は老けると思います。」

 ヴァレリーはノータイムで答えを返してきた。

「ふ、老ける? どう言う事?」

 若返るのではなかったのか。

「見た目にまで影響が出るかはわかりませんが、人類の神経が最高潮に発達するのが20歳前後と言われています。」

 その話は昔から言われており、すでに実証もされている話だ。

「ヴィルヘルム氏の場合は、すでにピークを過ぎた年齢だったので、ピーク時まで若返ったものと思われます。」

「なるほど。本人の神経の成長のピークの状態を維持すると考えた方がいいのか。」

 なんとなくわかった気がする。ただ神経だけなら容姿が若返った理由は何か別の理由なのだろうか?

「はい。しかしあくまで仮定です。サンプルがヴィルヘルム氏しか居ませんからね。グレンのピークはまだ先なので、そう言う意味では成長してしまう可能性があると言うだけです。」

 それが老けると言うことか・・・。大人になると言った方が聞こえはいいな。

 そしてヴィルヘルムが何故俺のことを重要視していたかわかってきた。ことナノマシンの強化のことについてはお互いが重要なサンプルであり、今後の指針と成り得るのだ。

 ヴィルヘルムと何か連絡を取れる手段を持っておいた方がいいかもしれないなと思ったが『トルトゥーガ』に居る彼とどう連絡をつければいいか手段は思いつきもしなかった。

 『トルトゥーガ』のことを思い出したことで『ロンバルディア』のことも思い出した。皆無事で居て欲しい。難しいことだとは分かっているが、もう一度皆と再会したい。

 そう言えばアリサ大尉はどうしているだろうか。明日出撃がないのなら尋ねてみようか。

 一通りのルーティーンを終えると俺たちは休むことにした。


 翌日はやはりスペース・トルーパーの整備が終わっておらず非番となった。整備班は大方の予想通りルナ艦隊のスペース・トルーパーの整備で手一杯だったようだ。キム少尉も衛星軌道上に帰ってしまったようで、話ができるのはまた今度となりそうだ。


 軍端末でアリサ大尉の所属を調べると技術研究所の所属となっていた。月面基地での部屋を探して尋ねてみることにした。場所は基地の端にあり、宇宙港側ではなく街側にあるようだった。

 技術研究所が入っていると言う部屋の前に到着し、受付AIに向かってアリサ大尉を呼び出して貰った。

 数分後、部屋から出てきたアリサ大尉は目に涙を浮かべて今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「だ、大丈夫ですか? アリサ大尉。」

 俺は動揺しながらアリサ大尉に聞くと

「大丈夫じゃない。」

と泣きながら答えられた。原因は色々と考えられるが、往来で泣かれると体裁が悪い。

「とりあえず休憩室にでも行きましょう。」

 俺は慌てて移動を提案した。どこか人目がないところへ行きたい。

「ミーティングブースを取ってあるわ。こっちよ。」

 そう言うとアリサ大尉は廊下を歩き出した。準備が良くて助かった。俺とヴァレリーもそれに続いた。

 ミーティングブースはそれほど広くない個室だった。4人ぐらいで使用する会議室なのだろう。休憩室よりも人目が気にならないので本当に助かった。

「飲み物を取ってきます。アリサ大尉は何が良いですか?」

「コーヒー。・・・砂糖多めで・・・。」

 アリサ大尉は完全に泣き出していた。

「ヴァレリー。アリサ大尉を頼む。」

「わかりました。」

 俺がそう言うとヴァレリーは力強く頷いた。俺は部屋を出て休憩室にある飲み物ベンダーへ飲み物を取りに行った。

 俺がコーヒーとカフェ・オ・レを持って帰る頃にはアリサ大尉は大分落ち着いていた。さすがはヴァレリーだ。

「落ち着きましたか。」

 俺はアリサ大尉の砂糖多めのコーヒーを差し出しながら聞いた。

「いきなり泣き出してごめんね。会いに着てくれたのがうれしくて・・・。」

 アリサ大尉は俺たちが会いに来た事に感動して泣いていたようだ。

「ここの人たち知らない人ばかりだから心細くて・・・。」

 そう言えばアリサ大尉は人見知りが激しい人だったな。俺も大層な扱いを受けていたことを思い出した。『コンスタンツ』のことを思い出し少し胸が痛んだ。


 アリサ大尉は俺たちと話すことで幾分か気が紛れたようだ。フリードリヒ大尉の生死は依然として判明しておらず、更に極度の人見知りが知人が居ない環境で働かねばならず、きっと精神的に相当参っているだろう。

「また顔を出しますよ。」

 俺はアリサ大尉との別れ際にそう言うと

「絶対よ。」

と強く念を押されたのだった。

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