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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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月面大戦編3

 エレベーターにより月面に出た俺たちだったが、緊急通信が入った。

「なんだ?」

 電文には東の危機の海付近で友軍と敵艦隊と交戦中との内容だった。東はこれから哨戒に行く予定だった方面だ。

《隊長。どうします?》

 コンラド少尉がベアータ中尉に問うた。

《基地司令の回答待ちだ。このまま待機。》

《了解。》

 ベアータ中尉は基地司令にこれからの指示を仰いだようだ。増援は現在<ルナ>の衛星軌道上に常駐しているルナ艦隊が行う。俺たちはこのまま基地待機だろうと思っていた。

《増援に向かう。》

 ベアータ中尉からの命令は意外なものだった。<スルト>には数で対抗するしかないとされているが、衛星軌道に待機している艦隊には相当数のスペース・トルーパーが居ると聞いている。

 月面基地の部隊が大打撃を受けた後、各<サークル>の守備隊からかなりの数のスペース・トルーパーとパイロットを引き抜いて、ルナ艦隊として有事の際の新規迎撃部隊としたと先ほど聞いた。

 <バルバロッサ>に居ると外の情報はほとんど入ってこないので、過去の人間が急に未来にきたかのような驚きが多々ある。


 各機はスペース・トルーパー用の電磁カタパルトに乗り、次々と射出された。これで危機の海まで約15分で到着する。

 戦場に到着した時、敵艦隊とルナ艦隊は激しい戦闘を繰り広げていた。敵機の主力は<スルト>である。その禍々しい黒い機体は、中のパイロットの奇態な改造を思い出させた。戦線は友軍が若干押されている状況のようだ。

《まずは戦線を押し返す。》

「了解。」

《了解。》

 俺たちはミーティング通りの編成で相手の側面に回り込んで攻撃を開始した。最初のターゲットは、いきなり現れた増援に対応できず撃墜された。

《次!》

 ベアータ中尉が次の獲物に向かう。

「狙われています。」

 ヴァレリーからの警告が入る。ベアータ中尉を狙って射撃しようとしている敵機が俺の視界でターゲッティングされ、さらに拡大された。俺はそれに向かい射撃を行う。

 しかし敵機には命中したが、致命傷には至らなかったようだ。敵機は一目散に後退を始めた。

「仕留め損なったか。」

 俺が回避行動を取ると弾が近くを通り過ぎていった。一応敵戦力は落ちたはずだからよしとしよう。俺はライフルで敵機を射撃すると回避行動を取って次の獲物を探した。俺の撃った弾は狙い通り敵を沈黙させた。敵の距離が近い。どうやら俺たちの部隊も乱戦に飲み込まれたようだ。

 正直乱戦に巻き込まれた方が俺は動きやすい。乱戦になれば個人の裁量での戦闘が可能になるからだ。

「ヴァレリー。戦場の敵の数は?」

 俺は敵の攻撃を避けながら、ヴァレリーに尋ねた。

「27機の稼動を確認。」

「数が多いな。」

 俺は<クロウ>と撃ち合っている<スルト>に狙いを付けると横合いから狙い撃った。敵機はその場に崩れ落ちた。

「ヴァレリー。プラズマブレードだ。弾を温存する。」

「了解。」

 俺はブレードを抜き放つと、回避行動を取りながら手近な<スルト>に接近した。敵機は後退しながら射撃してくる。俺はその弾を避けながら射撃体勢を取った。<スルト>が回避行動を取ろうとしたその時、横からの射撃でその<スルト>は沈黙した。

 ちらりとそちらを見ると青い<クロウ>が撃ったものだった。ビアータ中尉だ。俺は弾を避けつつ青い<クロウ>にサムズアップをすると、弾の出所へ向かい移動した。


「敵機後退していきます。」

 数十分の戦闘で戦線は完全にこちらが押している状況となった。敵艦隊は撤退を選択したようだ。<スルト>たちも引いて行く。

《追撃はなしよ。》

 ビアータ中尉から通信が入った。追い討ちを掛けて敵戦力を削りたいところだが、罠の可能性もあるため、軍司令は慎重なようだ。

《僚機と敵機の回収が始まるので周囲の警戒を。》

「了解。」

 ルナ艦隊は動けなくったスペース・トルーパーの回収を始めた。俺たちは少し前に出て回収作業が邪魔されないように警戒網を敷いた。

 回収作業も無事終わりビアータ隊は巡宙艦に便乗させて貰い基地への帰途についた。艦艇に乗った時点で少し左半身の動作に遅延が出始めていたのでスペース・トルーパよりも、俺の稼動時間の方が先に尽きそうだったようだ。


「グレン君?」

 巡宙艦の廊下を歩いているとパイロットの一人に呼び止められた。

「キム少尉?」

 そこにはルナ・ラグランジュ・ポイント2で学校の先生をしながら俺を監視していたキム少尉が居た。

「お久しぶりです。キム少尉。」

 俺の後ろにいたヴァレリーが前に来て挨拶した。

「2人とも元気そうね。貴方たちは何故ルナ艦隊に?」

「俺は今は月面基地所属なんです。」

 今はたまたま便乗させて貰っている旨を説明した。

「あの動きがおかしいスペース・トルーパーは貴方だったのね。」

 キム少尉は少し呆れ気味だ。動きがおかしいとはどう言う意味だろう。

「キム少尉こそ何故ルナ艦隊に?ルナ・ラグランジュ・ポイント2に居たんじゃないですか。」

 キム少尉は俺の監視のため急遽諜報部に引っ張られて学校の先生をさせられていたが、その実態はルナ・ラグランジュ・ポイント2の守備隊所属だ。

「月面基地が壊滅的な打撃を受けてスペース・トルーパーの転属があったのよ。」 話に聞いていた四方八方からパイロットをかき集めた中にキム少尉は入っていたようだ。

「なるほど。それで話は変わりますが、今度非番の時に月面基地か都市で会えませんか。」

 キム少尉はキョロキョロと周りを見渡してから

「私?いいわよ。別に。」

とすんなりOKが出た。

「助かります。キム少尉にも聞きたかったんですよ。」

「何を?」

 キム少尉は心当たりがないと言った表情だ。俺はそんなキム少尉に向かってこう言った。

「『セイズ』プロジェクトについてです。」

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