月面大戦編2
ベアータ小隊は紹介を終え、早速哨戒に出るとのことだ。5人小隊となったので慣熟飛行も兼ねるとのことで俺も参加することになった。
「俺のスペース・トルーパーは使えるんですか?」
俺専用機はなんと2機もあるのだ。しかし両方勝手に使うわけにも行かない代物だ。
「新型はまだ出してはいけないらしい。『ヘーニル』が我が小隊に編入された。」
ベアータ中尉が教えてくれた。『ヘーニル』もアリサ大尉がかなり改造しているからなぁ。一応見た目は『クロウ』に偽装してあるが、銃の形状も違えばスラスターの形状も違うのでよく見れば違う機種であることは一目瞭然だ。
「では着替えて15分後にブリーフィングルームに集合だ。」
ベアータ中尉がそう言うと一旦解散となった。俺たちは直ぐに更衣室へ向かった。着替えるのに15分はあっと言う間だ。
コンラド少尉とイレネオ少尉の3人で更衣室に入った。入り口で目をかざすと虹彩認識で自分のロッカーが点灯した。ロッカーを開けると新品のパイロットスーツが用意されていた。
『バルバロッサ』時代はEU軍製の物を着ていたので、US軍の物は久しぶりだ。
「グレン准尉は若いな。いくつだ?」
コンラド少尉が興味津々で聞いてきた。
「16歳です。」
「マジか!?」
イレネオ少尉は年齢に驚いていた。士官学校の高校も卒業してない年齢だから当然だ。
「それで専用機があるとは・・・。」
コンラド少尉も絶句している。隠してもしょうがない、どうせすぐにバレる。
「前は何をしていたんだ?」
コンラド少尉は俺の経歴も気になるようだ。そりゃ気になるよね。
「直前は機密なので言えませんが、その前は月面基地でベアータ中尉を教官としてスペース・トルーパーの性能テストをしていました。」
正確には俺の性能テストだが、それもホイホイしゃべっていいものでもない。
「機密・・・。」
今度はイレネオ少尉が引いている。
「テストパイロットのようなものか。」
コンラド少尉はフォローを入れてくれた。
「そうですね。」
2人とも顔を見合わせて黙ってしまった。10代のテストパイロットなんて普通居ないからな。でも嘘ではない。
着替え終わった俺たちは微妙な空気のままブリーフィングルームに移動した。ブリーフィングルームには既にベアータ中尉とルフィナ少尉が居た。それとヴァレリーも待っていた。紹介の時は俺だけ小隊メンバーの所へ連れて行かれたのだが、きっとビアータ中尉が連れてきてくれたのだろう。
コンラド少尉とイレネオ少尉はブリーフィングルームに入るなり固まっていた。
「よし来たね。じゃあブリーフィングを始めよう。」
ベアータ中尉は特に気にする様子もなくブリーフィングを始めようとした。
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
イレネオ少尉が待ったを掛けた。
「そこの美人を紹介して貰えませんか?」
イレネオ少尉の顔は少し赤かった。
「あぁ、すまない。彼女はヴァレリー。グレン准尉の戦術AIだ。」
ビアータ中尉は簡潔にヴァレリーを紹介した。
「ただいま紹介に預かりましたヴァレリーです。よろしくお願いします。」
ヴァレリーが笑顔で答えた。イレネオ少尉は顔がますます赤くなりボーっとしている。
「戦術AI・・・。」
コンラド少尉は別の面で衝撃を受けているようだ。月面基地ではそれなりに有名人だったんだけどな。2人はこの数ヶ月の間に他の基地からやってきたのだろう。
ルフィナ少尉は平静なようだし、前から月面基地に居てヴァレリーを知っている様子だった。
「こっちがイレネオ少尉でこっちがコンラド少尉だ。」
ビアータ中尉は2人をヴァレリーに紹介した。そしてそのまま中尉はブリーフィングルームの前の方に行ってしまった。俺とヴァレリー、ルフィナ少尉はそれを見て席に着いた。ブリーフィングを始めるのだろう。
「席に着いてくれ。」
ビアータ中尉がそう言うと我を失っていたコンラド少尉とイレネオ少尉の2人は慌てて席に着いた。席に着いたのを見てビアータ中尉は立体映像の<ルナ>を出した。
<ルナ>は2色で色分けされていた。青がUS軍で赤が人民軍だろう。赤の方が面積が多いように見える。
「今日は東方面の哨戒だ。」
東側は西側ほどではないが高低差がある。立体図は拡大され、今日の哨戒コースが表示された。南側から勢力境界線まで行き北上、ぐるりと回って帰投するコースだ。
「編隊構成はこれだ。」
5機が並んだ図が表示され、左からコンラド少尉、ルフィナ少尉、真ん中がビアータ中尉、俺が居てその隣がイレネオ少尉だ。
「慣熟飛行も兼ねているとは言え、敵勢力圏の手前まで行く。十分気を引き締めるように。」
「「「「了解。」」」」
俺たちは揃って返事をした。
ブリーフィングルームをあとにし出撃するため格納庫までやってきた。そこには青い『クロウ』が鎮座していた。ビアータ中尉の愛機だ。初めて見た時はピカピカの新品だったが、ここ数か月の戦闘のせいか、かなり汚れてくすんでいた。
そしてそれぞれが担当のスペース・トルーパーに乗り込んでいった。俺以外は全員『クロウ』だ。
「起動チェック開始します。」
ヴァレリーの涼やかな声がコックピットに響く。俺は錠剤を一粒飲み込んだ。哨戒の距離的に途中でも服用する必要がありそうだ。
「チェック。オールグリーンです。」
ヴァレリーが発進準備が整ったことを告げる。
「了解。コネクト開始。」
久しぶりの月面だ。せいぜい失敗しないようにしよう。




