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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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コンスタンツの日々編6

 『コンスタンツ』破棄の準備は順調に進められた。しかし敵の動きは想定以上に早かった。敵軍が『コンスタンツ』に到達する前に脱出できるのが最善のシナリオだったのだが、戻ってから2日で準備を整えたにも関わらず敵軍は『コンスタンツ』から観測できる距離に現れた。


《現時点でプランAを破棄。プランBに移行する。総員配置に着け。繰り返す。現時点でプランAを破棄。プランBに移行する。総員配置に着け。》

 プランAは敵軍到達前に『コンスタンツ』を破壊し脱出するプランだったが、プランBは敵が展開を始めたと同時に破壊と脱出を開始するプランだ。包囲網が完成する前に敵を突破することができれば作戦成功となる。


 そして敵の展開が始まった。2隻の宇宙母艦が『コンスタンツ』を挟撃する形で近づき、スペース・トルーパーの発進を順次始めた。スペース・トルーパーで球状の包囲網を形成し、出てきた敵を逃さぬように撃墜して行くのだ。

 『コンスタンツ』側も射出に呼応し動きが始めた。

《キリキア作戦発動。》

 号令と共に宇宙港から全速力で輸送船が出航していく。これは陽動だ。敵の包囲を逃れるように2隻がそれぞれ別の方向に『コンスタンツ』を飛び出していく。

 そしてその2隻を逃すかのように『ロンバルディア』が片方に展開している宇宙母艦側の正面へ出て行った。敵のスペース・トルーパーはまだ全て出撃したわけではない。3隻を相手にするため、数的有利があまり出ない状況となった。

 3隻が出航し、十分距離が離れたところで『コンスタンツ』の爆破が開始された。外側の岩石に見せかけていた外装が破壊されていく。そして一際大きな爆破が起き、空気が外に排出される力を利用し本命である脱出船が宇宙へ飛び出した。

 その細身の船体に似合わぬ巨大なスラスターから盛大に推進剤を撒き散らし、宇宙を切り裂いて行く。先行の輸送船とはまた違う方向へグングンと加速して行った。


 脱出艇の距離が『コンスタンツ』を十分離れたところで、『コンスタンツ』の本格的な爆破破壊が始まった。『コンスタンツ』は徐々に崩壊していった。居住区や倉庫、それに植物ブロックも破壊されただろう。フリードリヒ大尉が大切に育てていた草花も宇宙の藻屑となってしまった。


 そんな状況も脱出艇が敵から逃げ切るための作戦の一環だ。俺たちが逃げ切らなければ『コンスタンツ』を破壊した甲斐がない。しかし脱出艇が敵の艦船を振り切ることはそれほど難しくない。敵の艦船は『コンスタンツ』に攻撃を仕掛けるべく減速しているからだ。

 本命はやはりスペース・トルーパーに拠る追撃となる。艦船に比べれば質量も低いため加速よいので追いつけるのだ。しかし陽動の輸送船と『ロンバルディア』のおかげで追いすがってくるスペース・トルーパーはそう多くはなかった。

 俺はコネクト状態の『ヘーニル』から追撃してくるスペース・トルーパーを狙っていた。

 『ヘーニル』は脱出艇の外装に後ろ向けの腹這い状態で固定されている。プローンと呼ばれる伏射の姿勢だ。

 脱出艇はかなりの速度で加速を続けており、相当の重力が掛かっている。船内では緩和装置が働き、マシにはなっているだろうが、それでも乗組員は歯を食いしばって耐えているであろう。コネクト状態である俺は乗務員に比べれば幾分マシではあるが、それでもかなりの重力が掛かっていることは実感できた。

 前回の追う側と違い、今回は追われる側で圧倒的に俺たちに有利だ。敵は細かく機体を振りながら近づいてくるが、俺は加速の重力の影響も感じず、止まっているかのように見えていた。

 丁寧に一機一機に狙いを定めて撃ち落として行く。

「追ってくるスペース・トルーパーはありません。」

 ヴァレリーが報告をくれた。俺は脱出艇を追いかけてきていたスペース・トルーパーを全て撃墜できたようだ。


「じゃあ次だ。」

 もう敵とはかなりの距離がある。脱出艇が捕まることはないだろう。俺は銃を巨大な物へと変えた。これはアリサ大尉がフリードリヒ大尉の生存のために用意した銃だ。

 フリードリヒ大尉は陽動の輸送船を敵から守るために最前線で戦っている。俺は今回の作戦に戦闘要員としては参加できないので歯がゆい思いをしていた。

 それはアリサ大尉も同じで、なんとかフリードリヒ大尉の助けができないかと考えていたようだ。

 脱出艇は『ロンバルディア』と違い武装がない。その為、スペース・トルーパーに取りつかれると危険であることはわかっていた。そこで考え出されたのが『ヘーニル』による固定砲台だ。それを知ったアリサ大尉が考えついたのが、逃げる脱出艇からの超遠距離射撃だった。

 アリサ大尉はそれが可能になるようにほぼ徹夜で超遠距離射撃を実現させるための銃用意した。それはスペース・トルーパー用のスナイパーライフルを改造したもので有効射程距離を更に伸ばしたものだった。弾の自壊距離も銃に合わせて長くされており、口径もかなりの大型だ。そのため弾は3発しか用意できなかった。


 俺はその大型の狙撃銃を構えた。狙うのは大物だ。

「ヴァレリー。宇宙母艦を狙う。近い方を出してくれ。」

「了解。」

 俺の目の中にあるターゲッティングサイトが宇宙母艦を映し出す。俺は迷わず引き金を引いた。

 船が更に加速するほどの反動がきた。数秒後、宇宙母艦には穴が開き、火災が発生している様子が見えた。

「よし。次の宇宙母艦だ。」

 1隻を落として気をよくした俺はもう1隻の宇宙母艦を狙おうとした。

「もう1隻は遠すぎます。」

 距離の関係でヴァレリーに止められてしまった。

「何か適当なターゲットはないか?」

 俺がヴァレリーに尋ねると、

「宇宙母艦の護衛艦をやりましょう。あれにもスペース・トルーパーが載っていたいはずです。」

と即座に返答が返ってきた。スペース・トルーパーが載っていた船を落とせれば、パイロットたちの帰る場所がなくなり、士気に大いに関係する。

「じゃあ次はそれだ。」

 俺たちが船を落とせれば、それだけフリードリヒ大尉たちの生存率があがる。俺は護衛艦をターゲットサイトに捉えると躊躇なく引き金を引いた。

 護衛艦にも穴を穿ち、火災が発生しているのが見えた。

「やった!次だ!」

 弾はもう1発残っている。しかしヴァレリーからは無常な宣告が下った。

「グレン。残念ですが砲身の温度が上がりすぎています。ここまでです。」

「糞っ!」

 テストもなく2射できたのは奇跡だったのかもしれない。俺の援護射撃もここまでのようだ。あと俺にできることは、皆の無事を祈ることしかなかった。

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