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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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コンスタンツの日々編3

「悪いな。手伝って貰って。」

 そう言うラウル曹長と俺は、明日からの定期物資受け取り作戦のための準備をしていた。

「やることがなくて暇だからね。むしろ仕事をくれた方がありがたいよ。」

「そう言ってくれると助かるぜ。今度『トルトゥーガ』に行った時は風俗を奢ってやろう。」

 ラウル曹長はさわやかな笑顔で下品なことを言い放った。

 俺たちはAIが運んでくる物資を受け取り、適切な場所に保管する仕事をしていた。2人ともパワーアシストの外骨格を付けて作業していた。


「まだ積み込み終わってないのか。」

 そこへ端末を持った若い青年がやってきた。

「ピッポ!お前も手伝ってくれよ。」

 若い青年に向かいラウル曹長が言った。若い青年はラウルと同じ白兵戦部隊のピッポ上等兵だ。ピッポも白兵戦部隊なだけあってラウル曹長と変わらず体格がよい。

「やだね。曹長がサボってるから悪いんだろ。」

 ピッポは端末と荷物を見比べて

「もう少しじゃないか。これなら直ぐ終わるだろ。」

と言った。

「わかったよ。」

 ラウル曹長はしぶしぶ仕事を再開した。サボっていたのは間違いないので反論できないのだ。


「そうだグレン。曹長の言うことを真に受けないほうがいいぞ。俺は手伝っても奢って貰ったことないからな。」

 ピッポ上等兵が俺につらい現実を突きつけた。まぁ風俗を奢って貰うつもりは毛頭ないが。

「おい!ピッポ!要らないことを言うな!」

 ラウル曹長はピッポ上等兵に向かって怒鳴った。

「奢る気ないじゃないですか。」

 俺が冷え切った声で言うと

「そんなことないぞ。」

とラウル曹長は取り繕うように言った。ピッポ上等兵とラウル曹長だと残念ながら前者の方が信頼度が高い。

「ドールハウスはいいぞー。匂いとかないしな。病気の心配もない。」

 そしてセックスボットによる風俗が如何に良いかを力説し始めた。ピッポ上等兵に到ってはまた始まったよと言わんばかりの表情だ。


「こら!大声で何を話してるんだ!ハラスメントで訴えるぞ!」

 そこへ威勢の良い声が割って入ってきた。妙齢の女性だ。赤毛の髪を後ろで1つにまとめている。

「うげ。リンダ曹長。」

 ラウル曹長があからさまに嫌そうな表情をした。リンダ曹長は『ロンバルディア』の操舵手だ。

「まったく未成年を捕まえて風俗の話なんかするかね。」

 リンダ曹長は男所帯に居るだけあって男っぽく姉御肌の人物だ。ラウル曹長の行動に呆れ顔だ。

「俺はグレンが成人した頃の未来の話をしてるんだよ。」

とラウル曹長は言い訳がましく答えた。次の『トルトゥーガ』行きの時の話ではなかったのか。何故か4年も先の話に変わっていた。そもそも次の『トルトゥーガ』行きは半年以上先で、俺は『コンスタンツ』には居ないだろう。やはりラウル曹長に奢る気はないらしい。

「どちらにせよ仕事中にする話じゃないだろ。さっさと荷物を運び込む。」

「はい。」

 ラウル曹長はその大きな体を縮こまらせて答えた。ラウル曹長はえらくリンダ曹長に頭が上がらないな。

「リンダ曹長はラウル曹長に強いですね。弱みでも握ってるんですか?」

 俺がリンダ曹長に尋ねるとラウル曹長は恨みがましい表情で俺を睨んできた。

「兵学校時代が一緒だったからな。色々弱みは握っているぞ。」

 兵学校とは、高卒以上が行く文字通り兵士のための学校だ。区分としては専門学校で士官学校とは違い入るハードルは低い。ここの卒業生は兵士として軍人になり、やがて下士官となる。


「リンダの弱みなら俺も知ってるぞ。同級生のベr…痛い!」

 ラウル曹長がリンダ曹長の弱みを話そうとした瞬間、リンダ曹長がラウル曹長の向こう脛を蹴り上げた。

「要らないことは言わないように。そうでないとあのことをバラすぞ。」

 リンダ曹長は全然目が笑っていない笑顔でそう言った。

「わかった…。」

 ラウル曹長は完全に無表情になった。一体どんな弱みを握られているんだ…。

「グレンもこんな奴らと付き合う必要はないぞ。」

 そう言うとリンダ曹長はブリッジの方へ移動していった。


「そんなだからベルナールに振られるんだよ。」

 ラウル曹長がぼそりと呟いた。とても聞こえ無さそうな距離だったがそれを聞いたとしか思えないタイミングでリンダ曹長は踵を返して戻ってきた。

「地獄耳・・・。」

 ラウル曹長は顔を手で覆い悪態をついた。リンダ曹長は勢いよく戻ってきた力を利用してラウル曹長の耳を引っ張った。

「痛い痛い!千切れる!」

 リンダ曹長は俺と背は変わらない。ラウル曹長から見れば小柄もいいところだが、その体には力が満ち溢れていた。

「なァ?それは言わない約束だろ?マレーナに出したラブレターを一言一句話そうか?」

 リンダ曹長の笑顔は怖すぎる。ラウル曹長はまったく目を合わせず

「すいませんでした。」

と小声で謝った。

「ではさっさと仕事の続きをやるように。」

 そう言ってリンダ曹長は再びブリッジの方へ移動していった。


「曹長。仕事を終わらせてしまいましょう。」

 俺はラウル曹長にそう声を掛けて作業の続きを行った。ラウル曹長も作業を再開した。

「じゃあ俺は他のところもチェックしてきます。」

 次の仕事に行こうとするピッポ上等兵に向かってラウル曹長は

「ピッポ。むしゃくしゃするからあとでトレーニングに付き合え。」

と言った。ピッポ上等兵は肩を竦めながら

「わかりましたよ。」

と言って去って行った。

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