コンスタンツの日々編2
今日はヴァレリーと工作室にやってきた。俺は『ヘーニル』改造の進捗状況を確認に、ヴァレリーはシミュレーションのための推定スペックの確認のためだ。
「アリサ大尉。進捗はどうですか。」
俺は工作室に入るなり開口一番、進捗を聞いた。部屋の中で工作機械の様子を見ていたアリサ大尉はこちらを向いて
「順調よ。組み上がりにはもう少し時間が掛かるだろうけど。」
と答えた。
「アリサ大尉。スペック表を確認して頂けませんか。」
ヴァレリーが持ってきた端末をアリサ大尉に手渡した。アリサ大尉は端末を受け取り中身を確認しながら、自分の端末の内容と見比べている。そしておもむろにヴァレリー側の端末に何か入力した。おそらく計算式だろう。ヴァレリーの端末を見せてもらったがよくわからない計算式が並んでいた。
「こんな感じだと思うわ。」
そう言ってアリサ大尉はヴァレリーに端末を返した。ヴァレリーは端末を受け取ると、先ほど修正したであろう箇所を確認した。
「なるほど。ではこちらでシミュレーションしておきます。」
ヴァレリーは弾けるような笑顔で答えた。それを見てアリサ大尉は
「『トルトゥーガ』へ行って変わったわね。」
と呟いた。『トルトゥーガ』であったほとんどの事件は報告書にまとめられている。俺も色々書かされた。職位に拠って読めるものは限られるが、大尉であり『セイズ』プロジェクトの関係者であるアリサ大尉は全ての報告書が読めたはずだ。
「ウルズラだっけ?アーシュラのクローン体と会って何か変わった?」
アリサ大尉はヴァレリーに尋ねた。
「そうですね。クスタヴィの明確な意図も判明しましたし、当時の状況も大分整理できました。本当はバーナードにこのことを伝えたいのですが・・・。」
「退役しちゃったもんね。彼なりに責任を感じていたのだろうけど、どこで何をしてるんだか。」
ヴァレリーの『セイズ』プロジェクトの時のパートナーであるバーナードが退役している話は以前も聞いたことがある。アリサ大尉の口ぶりからすると、あの事件の瞬間<シリンダー>の保護よりクスタヴィを撃墜するのを選んだことを後悔して退役したかのようだ。
「それにしてもあの変態は次から次へと問題を起こすわね。」
変態。恐らくクスタヴィのことだろうが・・・変態ねぇ。
「『セイズ』の時に何かあったんですか?」
俺がアリサ大尉に聞くと
「逆よ、逆。浮いた話が1つもなかったのよ! それでアーシュラ、ヴァレリー、サンドラを作ったのよ?もう変態でしょ。」
云わんとしていることはわかった。理不尽な気もするが、クスタヴィは常にやること成す事が常軌を逸している。逆に当時はアリサ大尉の方が理不尽な目にあっていたのではないかと思うと、むしろアリサ大尉に同情してしまった。
「それにね。少なくとも私は『セイズ』のメンバーは良いチームだと思ってたの。それなのにあんな裏切り方をするなんて・・・。」
アリサ大尉は悲しそうな表情で言った。
「そうですね。」
そしてそれにヴァレリーも同意した。良いチームだったかは、今度フリードリヒ大尉にも聞いてみよう。
フリードリヒ大尉で思い出した。
「そう言えばフリードリヒ大尉との仲はどうなんですか?」
俺たちが仲を取り持ったのである。状況ぐらい聞いてもいいだろう。
「え?」
アリサ大尉は不意打ちを食らったらしく、びっくりした表情をした後、その顔がみるみる真っ赤になった。
「じゅ、順調よ。」
アリサ大尉は30歳を超えてるはずだよなぁ。なんか俺より幼い印象なんだが・・・。
「そうですか。じゃあ結婚式には俺とヴァレリーも呼んで下さいね。」
「けっっっ!?」
アリサ大尉は固まってしまった。本当にこの人は大丈夫なのだろうか。順調と言いながらキスすらしていないのではないか。そんな気がする。
「グレン。あまりアリサ大尉をからかわないように。」
アリサ大尉が可哀相になったのか、ヴァレリーから警告を受けてしまった。
「グレン!貴方はどうなのよ!浮いた話のひとつもないじゃない!」
再起動したアリサ大尉が俺への反撃を開始した。
「俺ですか?皆さん年上ですしねぇ。俺みたいなガキは対象外でしょう。」
基地に居る人は軽く10歳は年上ばかりだ。
「ぐっ。ヴァ、ヴァレリーとはどうなのよ?」
反撃に失敗したアリサ大尉は違う方向から反撃を仕掛けてきた。
「ヴァレリーとは良いパートナーですよ。」
俺は素面で返した。俺はヴァレリーが居ないと並みのパイロットでしかないからなぁ。
「好きなの?」
アリサ大尉は必死で言質を取りにきた。完全に勘違いしているな。俺とヴァレリーはそう言う関係ではないのだ。しかし面白いので続けよう。。
「そりゃ好きですよ。」
俺は臆面もなくそう言うと、何故かアリサ大尉の顔が真っ赤になった。やはり30歳オーバーと言うのが疑わしいほど初心だ。
「あ、貴方たちどこまで行った?」
「どこまで?」
必死に追いすがるアリサ大尉に対して俺はとぼけた口調で言った。面白いなぁ。
「キ、キスはした?」
アリサ大尉の必死の攻撃に俺は
「え?する訳ないじゃないですか。パートナーですよ。相棒的な。」
と返した。アリサ大尉の顔はこれ以上赤くならないのではないかと言うほど赤くなった。パートナーの意味を伴侶と捉えていたからだろう。己の勘違いに気付き、恥ずかしさの限界を突破したようだ。
「グレン。それぐらいにしてあげて下さい。」
またヴァレリーに窘められてしまった。あまりにもアリサ大尉のリアクションが楽しいので調子に乗ってしまったな。
「じゃあ俺は行きます。アリサ大尉。『ヘーニル』をよろしくお願いします。」
アリサ大尉は何か言おうとしたが、口をパクパクさせるばかりだった。余程ダメージを受けたらしい。俺はそそくさと工作室を後にした。




