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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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シリンダー内の日常編1

 家に帰ってきた翌日、俺はヴァレリーのメンテナンスのため、一緒に出かけることになった。ヴァレリーは数年もメンテナンスを受けていないらしく、早急に対応が必要とのことだ。メンテナンスの工房はトニーの知り合いに頼むことになった。

 またメンテナンスの時に通信モジュールを交換したいらしい。現在の通信モジュールは軍のものなので使用しないのが無難との判断だ。時間がないので通信販売は使えず、同じシリンダー内のアンドロイド用品の店が多く立ち並ぶ一角にやってきた。

 目抜き通り沿いはヴァレリーに負けないレベルの美男美女のアンドロイドがショーウィンドウを飾っており、非常に煌びやかな印象だ。だが道を一歩入ると腕だけが並べられた商店や、ヴィンテージ価値のついたアンドロイドを扱う商店など非常に雑多な印象に変わる。

「ここかな。」

 俺たちは事前に調べておいたアンドロイド用の内蔵モジュールを多数扱う店にやってきた。中に入ると箱に入った高級そうなモジュールから、簡易包装で安いモジュールなどがところ狭しと並んでた。店には店番のアンドロイドが居た。見た目はヴァレリーとは違いよく見るタイプのアンドロイドだ。

《いらっしゃいませ》

 合成音声ではあるが流暢な挨拶が返ってきた。

「W233形式の通信モジュール下さい。」

《現在の在庫はこちらになります。》

店員アンドロイドの前にあるディスプレイに品物とその値段が並ぶ。安定したメーカーの品を買うことにした。

《40ドルになります。お支払はどういたしましょうか。》

「このウォレットからの支払で。」

 俺はカードを出して購入した。今日は会社の経費で支払ってもよいとのことなので会社のカードだ。

《お品はこちらになります。》

 梱包された品を受け取り店を出た。次はヴァレリーのメンテナンスを行う店だ。トニーの伝手で紹介されたその工房はいかがわしい店が集中する風俗街の端っこにあった。俺とヴァレリーが並んでいると無遠慮な視線が飛んできた。俺が歳若いこととヴァレリーが気になるのだろう。そういった視線に耐えながら工房に辿りついた。

「すみません。」

 工房は戸が開け放たれていた。かすかに薬品の匂いが漂っている。中を除くと人が作業をしていた。こちらに気づくと手を止めてこちらにやってきた。顔は全面マスクでほとんど見えない。トニーと変わらないぐらいの身長でがっしりとした体格をしている。

「なんだ?」

「トニーに紹介されてきたんですけど。」

「あぁ、わけありガイノイドのメンテナンスか。入っていいぜ。」

 俺とヴァレリーは工房の中へ足を踏み入れた。奥の方には目のやり場に困るような裸のガイノイドが多数いた。どれも休止モードのようだ。

「トニーから話は聞いてる。そのガイノイドを診ればいいのか?」

「はい。あと通信モジュールを交換したいのでこれを。」

 先ほど購入した通信モジュールを男に手渡した。

「見積もりをするから少しここで待っていてくれ。」

 男は椅子を指差したので俺はその席に座って待つことにした。男はヴァレリーにハンディスキャナーのようなものを向けたり、皮膚の状態を見たりしていた。10分程度で見積もりは終わったようだ。

「余り状態はよくないな。明日までは掛かる。値段は3000ドルにしておいてやる。」

 正直相場はまったくわからないが、トニーの紹介なら間違いないだろう。俺は会社のウォレットから3000ドルを支払った。

「明日は何時頃に迎えにくればいいですか?」

「昼までに終わらせておく。」

「わかりました。明日の昼にまた来ます。ヴァレリー。また明日な。」

「はい。明日のお迎えをお待ちしています。」

 ヴァレリーは笑顔で手を振りながらそう応えた。俺は工房をあとにした。

 

 シリンダー内の交通はトラムと呼ばれる路面電車を使うことになる。碁盤の目状に整備されているがシリンダーは回転による人口重力を使用している関係で回転軸と垂直になる路線については回転方向と逆のものしかない。回転軸と並行の路線は縦路線、回転軸と垂直の路線は横路線と呼ばれている。

 俺は回転軸と並行の縦路線に乗り家に帰ることにした。トラムはどこまで乗っても同じ料金で乗車時に運賃を払う。乗り込み口で手をかざすと運賃が支払われた音が鳴った。ナノマシン手術の恩恵で個人の支払いはかなり楽になった。10分ほどで降車する。本来はさらに横路線に乗った方が家に近いのだが、学校用の定期が切れているので乗り換えるとさらに運賃が掛かってしまう。昨日まで無重力での旅だったのでリハビリがてら歩いて帰ることにした。

 

「ただいま。」

 1階は会社事務所となっており、養母のマーサと事務員のおばちゃんのポーラが仕事をしていた。

「おかえり。グレン。」

「はい。会社のカード。」

 俺は借りていた会社のカードを養母に返した。

「いくらだった?」

「モジュールは40ドルでメンテナンス費用は3000ドルだった。」

「あら。安いんじゃない?」

 どうやら相場より安くはしてくれていたらしい。

「今日はヴァレリーは泊まりで、明日迎えに行ってくる。」

「そう。今日このあとはどうするの?」

「昼ご飯を食べたら養父さんの手伝いに宇宙港に行ってくるよ。」

「そう。じゃあお昼にしようかしらね。ポーラしばらくお願いね。」

「はい。」

 俺は養母と2階へ上がった。2階は生活スペースになっている。リビングで養母と二人昼食を食べる。パワーバーもまずくはないが味気ない。船で食べるよりシリンダーでご飯を食べる方がいい。

 

 ご飯を食べ終わったあと再びトラムに乗り、シリンダーの軸に移動した。ここからは<サークル>内のリニアモーターカーで2番港まで移動する。


「養父さん。手伝いにきたよ。」

「グレンか。ヴァレリーはどうだった?」

「1泊掛かるって。お金は3000ドル。」

「意外に安かったな。トニーのおかげか。」

「らしいね。相場がよくわからないけど。」

「手伝いは、備品の補充を手伝ってくれ。」

「了解。」

 この日は夕方まで備品倉庫と船とを往復し、食料や水、酸素などの補充作業を行った。仕事もそこそこに皆で事務所に帰る。今日はささやかながら皆で打ち上げをするのだ。ヴァレリーが居ないは残念だけど、あれだけの事件があったので話題は尽きなかった。


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