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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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コンスタンツの日々編1

 『コンスタンツ』に戻ってきてからと言うもの、気の抜けたような生活を送っている。やはり『トルトゥーガ』の生活は刺激的過ぎたのだ。ここには日常に命の危険は少ない。


 『アスク1』と『アスク2』のセッティングはほぼ完了している。『アスク1』は俺向けのセッティングで『アスク2』はクリストフ向けのセッティングになっている。俺の感覚でクリストフが好きそうな操縦性にしているので気に入るかはわからないが・・・。


 『ヘーニル』は『コンスタンツ』に帰ってくるなりアリサ大尉が改造を施している。俺の戦闘記録から着想を得たらしいが盛大にバラされており、改造と言うよりも新規に作っているのでは?と言わんばかりの様相だ。

 改造計画案を見せて貰ったが、大きく3点で軽量化と推進剤の搭載量増加、あとはライフルの改造による弾薬の増加だった。

 軽量化は当たらないなら装甲削ってもいいんじゃない?と言うパイロットの安全性を無視した改造のようだ。一応コックピット周りは逆に強化してあるとは言っていた。本当に大丈夫なんだろうか・・・。

 推進剤の搭載量が増えるのは有難い。バーニア周りも『スルト』からの知見で『アスク』で改良されたものと同じものに換装して貰えるそうだ。これも助かる。久しぶりに『へーニル』乗ったが、『アスク』に乗り慣れてしまうと物足りなさを感じていた。同じになるなら大歓迎だ。

 最後はライフルを改造し、弾数の装填数を上げてくれるらしい。これについては俺たちが『トルトゥーガ』に行っている間にこっそり作ったらしい。銃は武装なので特に承認なしに改造しても試作品と誤魔化しが利くので問題なしとのことだ。

 目下俺のやる仕事はない。本当にない。仕官学校の課題を進めているぐらいだ。

 ヴァレリーは『ヘーニル』がかなり変わるので色々とシミュレーションしているようで忙しそうだ。


 と言う事でやることがない俺はプラントブロックでフリードリヒ大尉の植物いじりを手伝っていた。

「しかしプラントブロックは暑いですね。」

「日光が当たるからな。」

 俺も大尉もタンクトップ一枚に作業ズボンと言うラフな格好だ。俺と違い大尉は忙しいはずだが、暇を見つけては植物に触れていた。

「大尉は何故そんなに植物が好きなんですか?」

 大尉はこちらに顔を向けずに答えた。

「好きではないんだがな。なんと言っていいか・・・。『コンスタンツ』や<サークル>内はあまりに生物の気配がなくてな。寂しいんだよ。」

「生物の気配がない?人はいっぱい居ますけど?」

 大尉は苦笑しながら

「そうじゃないんだ。<マンホーム>には、いたるところに虫や植物が居るからな。」

と答えた。<マンホーム>にはそこらじゅうに虫が居るのか。確かに<サークル>とは違うようだ。

「そう言うものですか。」

 俺には思い当たることがなかった。

「機会があれば<マンホーム>に降りてみるといい。」

「そうですね。一生に1度ぐらいは行ってみたいですね。伝手もコネもないから観光かな。」

 俺は宇宙生まれの宇宙育ちであるし、親族も皆宇宙に居る。行くとすれば観光で行くしかない。

「自由の女神像とか見てみたいですね。あとは金門橋とか。」

「ははっ。場所が全然違うぞ。3000マイルぐらい離れてる。」

「でも1時間ぐらいで着くじゃないですか。」

「宇宙ならそうだがな。<マンホーム>では倍以上時間が掛かるし、空港に行くにも時間かかるからな。4~5時間と言うところだな。」

「あー。別の<サークル>へ行くぐらいの大変さか。結構面倒だな。」

 俺が所要時間から想像できる距離感だとそうなる。ただ<サークル>間の距離は3000マイルも離れていない。そこは面白いところだな。やはりどこにでも酸素があるのは強みだな。


「大尉はどこに住んでたんですか?」

 大尉は地球出身だと言っていた。

「俺はニューヨークだ。」

「凄い!大都会じゃないですか。」

 首都のDCをも凌ぐと聞いたことがある。

「ニューヨーク州は広いからな。俺はマンハッタンじゃなくてもっと田舎の方だ。」

「田舎?」

「都心部じゃなくて人口が少ないところだ。」

 <シリンダー>では該当するような場所がない。住宅街と商業スペースは別れているが、どこも等しく人がいるイメージだ。俺が腑に落ちない表情をしているのを見て大尉は更に補足してくれた。

「農業用<シリンダー>に居住地を作ったようなものだ。」

「畑に囲まれていると言う事ですか?」

「環境的にはその解釈が近い。」

 農業用<シリンダー>には居住区はない。毎日他の<シリンダー>から管理施設へ出社するのだ。農業施設と住宅街が一緒にあるような場所があるのか。<マンホーム>って不思議な場所だな。

「大尉は家に帰らなくていいんですか。」

 しばらく待ったが大尉からの返事がなかった。大尉の方を見ると手が止まり、何かを考え込んでいるかのようだ。

「大尉?」

 俺が再び声を掛けると、はっと顔を上げ俺を見た。

「大丈夫ですか?」

 俺は様子がおかしい大尉に尋ねた。

「すまん。俺は親父と折り合いが悪くてな。もう20年以上も実家に帰ってないよ。」

「そうですか。」

 実の親子でも仲が良くないことなんてあるんだな。まぁ、ダニーも自分の親のことをよくクソ親父と言っていたな。ふと旧友のことを思い出した。だがあれは仲が悪かったわけじゃあなさそうだった。

「俺はスペース・トルーパーに乗りたくてな。空軍の士官学校付属高校から宇宙軍の士官学校に入ったんだよ。親には何も告げずにな。それ以来音信不通さ。死亡通知は行っていないから死んでないとは知っているだろうがな。」

「そうでしたか・・・。」

 いかん。完全に地雷を踏んだぞ。話の方向を変えよう。

「空軍の付属高校から宇宙軍の士官学校なんて行けるんですか?」

「俺はこう見えて主席で卒業したからな。宇宙軍は割とすんなり受けれてくれたよ。空軍にはかなり怒られたがな。」

 大尉は少し得意げだった。主席も凄いが主席だからって行けるものなんだな。それに宇宙軍の士官学校に行ってからも大変だっただろう。なにしろ地球育ちの人間だと無重力での生活など勝手が全然わからないだろう。その時アラームが鳴った。

「おっと、もうこんな時間か。すまんが俺は仕事に戻る。」

 どうやら大尉の端末から鳴ったアラームだったようだ。

「はい。では俺が後片付けをしておきます。」

「そうか。すまないな。ではよろしく頼む。」

 そう言うと大尉は出口に向かって移動して行った。俺は手を加えるため開かれていた<キューブ>を元に戻すと、道具類を出入り口にある倉庫に片付けて居住区へ戻った。

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