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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編16

「待ちなさい。」

 帰ろうとしたところをウルズラに止められた。

「まだ何かあるのか?」

 俺の気は急いている。早く帰りたいのだ。

「帰る前にここに寄りなさい。」

 端末から地図座標を渡された。

「これは?」

「精神科医よ。『トルトゥーガ』にはもう何日も居ないでしょう。船に戻る前に行っておきなさい。」

「わかった。ありがとう。」

 確かに『コンスタンツ』に帰っても専門科医は居ない。厚意として受け取っておこう。

「あとこれをヴァレリーと一緒に見ておいて。」

 ウルズラは端末にもう1つファイルを転送してきた。動画ファイルのようだ。

「わかった。帰ったら見るよ。」

「えぇ。それではごきげんよう。」

 ウルズラは満面の笑みで見送ってくれた。


 俺たちはリースマン商会をあとにし、紹介された精神科医に行くことにした。精神科医に連絡するとリースマン商会から紹介がきているので優先的に診てもらえることになった。ウルズラが手を回してくれたのだろう。エレカーに乗り目的地を入力する。10分ほどでビルの地下停車場に到着した。

 そこからエレベーターホールに向かう。各階案内が出ており目的の精神科医は6階のようだ。他の階も医者ばかりなので医療関係ばかりが入る建物のようだ。

 エレベーターで6階に到着するとそこには受付モニタがあった。受付AIを呼び出してリースマン商会の紹介者であることを告げる。すると入り口が開いた。入り口に入り、廊下を歩くと個室に通された。どうやらこの個室が待合室のようだ。そう広くないところでラウル曹長と2人で待つ。

 しばらくすると呼び出しメッセージで診察室へ入るように案内が入った。ラウル曹長は待合室で待っているとのことで、俺だけが診察室行くことになった。


 診察室に入るそこには50歳ぐらいの壮年の男性が座っていた。

「どうぞ。お掛け下さい。」

 俺は言われるがままに席についた。

「ヘルメットを取って貰ってもいいですか。」

 気は進まないが仕方ないだろう。

「他言無用に願います。」

「患者のプライバシーは守りますとも。」

 その言葉を聞いて俺はヘルメットを脱いだ。

「お伺いしている通り、お若いですね。」

「伺っているとは?」

 壮年の男性はにこやかに答えた。

「ウルズラ様より貴方の事情を含めて伺っております。」

 正直どう話そうか困っていたのだが、ウルズラが手配してくれていたらしい。あの3姉妹は全部優秀だな。


「単刀直入に申し上げると短期間で治療しようと思うなら、薬と催眠療法が効果的です。ただ完全ではありません。催眠が解けることもあります。」

 戦闘中に解けたら目も当てられないが、戦闘中に症状がでることもあるよなぁ。それでやられてしまう人間も居るだろう。

「お勧めは緩めの催眠で現状を打破して、徐々に正常な状態に戻していくことですね。成功体験を増やすことで前向きな気持ちになり、精神が安定します。」

「なるほど。」

 ポジティブシンキングは重要なようだ。

「あとはできるだけ多面的に物事を考える癖をつけて下さい。両親が亡くなられてのは悲しいことですが、それでよかったこともあったでしょう? そういう事を見つけていくことも大切です。」

 確かに精神衛生上その方が良さそうだ。

「ではあちらの部屋で催眠の施術をします。」

 俺たちは診察室の隣にある小さな部屋に移動した。その暗い部屋には1台の機械があり、機械の光信号で催眠を掛けるようだ。なんだかヴァレリーがナノマシンへコマンドを送る方式に似ているな。俺はチカチカする機械を見ながらそう思った。

 無事施術が終わり、薬を渡された。酷い時に飲んでくださいとのことだ。受付で診療料金を支払って建物の外に出た。結構な金額だったが、ジャックポット分からしても雀の涙程度だ。

 これでやっと帰れる。俺たちは停車場でエレカーに乗り込み、リースマン商会の専用港に帰ってきた。

 俺は急いで食堂へと向かった。食堂には出かける前と寸分変わらぬ格好でヴァレリーが眠っていた。俺はヴァレリーの目の前に立った。俺の気配を感じたのか、スリープモードを解除してヴァレリーは目を開けた。

「グレン・・・。」

 俺はヴァレリーがスリープモードから復帰したことを確認すると、その場で膝を折って座った。先ほどまではヴァレリーが俺を見上げていたが、今は俺がヴァレリーを見上げている。

 きっと俺はヴァレリーに対して傲慢になっていたのだ。その結果がヴァレリーに甘え、両親が亡くなった苛立ちをヴァレリーにぶつけていた。本来の俺とヴァレリーの関係はそんなものではなかったはずだ。俺はヴァレリーに敬意を持って接し、パートナーとしていたはずだ。『へーニル』を操縦できなくなったのは、俺がその初心を忘れてしまったが為の罰だったのいだ。

「ヴァレリー。ヴァレリーには非がないのに、こんなことになってすまなかった。俺は俺のためにこれからもパイロットを続けたい。引き続き俺のパートーナーを務めて欲しい。」

 養父さんが謝罪の時は相手の目線より下からするものだと言っていた。

「グレン!立って下さい!グレンが悪いわけじゃないんです・・・。パイロットにはよくある症例ですし・・・。」

 ヴァレリーは慌てて立ち上がり、そして俺の前にしゃがみこんだ。俺たちの目線は再び同じ高さになった。

「それに私はグレンのパートナーを止める気はありませんよ。今まで一緒に頑張ってきたじゃないですか。」

 ヴァレリーは俺の手を握りそう言ってくれた。俺は感極まってヴァレリーを抱きしめた。

「ありがとう。ヴァレリー。これからもよろしく頼むよ。」

「グ、グレン?」

 ヴァレリーは戸惑っているようだ。ヴァレリーの体からほのかな暖かさを感じた。手先と違いヴァレリーの体には電池がある。その熱がヴァレリーに体温を与えているのだ。


「おいおい、やるなぁ。」

「いいぞ!グレン。」

 俺たちの周りには人が集まってきていた。指笛などで囃し立てられる。あまりにヴァレリーへの謝罪を急いだ俺は公共のスペースである食堂でヴァレリーを抱きしめている姿を皆に見られる羽目になってしまった。

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