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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編14

 俺は呆気に取られているラウル曹長を置いてエレカーの停車場へと向かった。

「おい!待てって!」

 我に返ったラウル曹長が慌てて追いかけてきた。横に並んだ曹長が俺を説得にしようとしてきた。

「なぁ、店に行ってからでいいじゃないか。な?」

 俺は無視して停車場へ急いだ。ラウル曹長は未練がましく店を見つめていたが、最終的には諦めたようで俺の後を付いてきた。

 俺とラウル曹長はエレカーに乗り込むと行き先にリースマン商会の本社を入力した。程なく到着した停車場は以前に来た建物で間違いなかった。

 俺は入口まで行き受付口であるモニタに向かって話しかけた。

「ウルズラに会いたい。」

《そのような社員は居りません》

 受付AIが素気無い回答を返す。秘書のようなものなだけで社員ではないのか。あとは会頭しか知らないぞ。

「ヴィルヘルムと繋いで欲しい。」

《本日は外に出ております》

 出かけているのか。さて困ったぞ。どうしようか。俺が入り口で考え込んでいると扉が唐突に開いた。誰かが出てきたのかと扉のほうを見ると誰も居なかった。

《入ってきなさい》

 先ほどの受付AIと違う声が俺に建物に入るように促してきた。この声はウルズラだ。俺はその声に従い建物へ入った。遅れて入ってきたラウル曹長は、内部の調度品を見て目を剥いていた。あんな大きな陶器の壺とかいくらするんだろうな。俺には価値はわからないが高いであろうことはわかった。きっと曹長も同じようなものだろう。

 俺は奥のエレベーターホールまで歩いて行った。エレベーター前にやってくると自動で扉が開いた。エレベーターの中にはウルズラが居た。

「ようこそ。私に御用?」

 黒いドレスに身を包み、その笑顔は男女問わず誰もが魅了されるだろう。すぐ隣にもすでに魂を抜かれたかのように口をあんぐりと開けたラウル曹長が立っていた。この間曹長吹っ飛ばされてたけどな。

 俺はエレベーターに乗り込んだ。一瞬遅れて気づいた曹長も慌ててエレベーターに乗りこんだ。扉が音もなく閉まると、上の階へと上がっていく。

 エレベーターが止まった階で俺たちは順にエレベーターから降りた。そこは前回のオフィス然としたところではなく、高級カジノ『ニューベガス』のVIPルームのような部屋だった。応接室と要ったところだろうか。

「飲み物はいかが?」

「じゃあカフェ・オ・レを。」

「じゃあビールで。」

 風俗に行きそびれたのだ。酒ぐらいはいいだろう。俺は目をつぶることにした。俺は薦められた席に座るとヘルメットを脱いだ。

「おい。いいのか?」

 曹長に咎められるが、

「前回素顔で会ってるよ。」

と答えた。

「そうか。ならいいか。」

 変わった服装のガイノイドが部屋に入ってきて飲み物を置いて下がって行った。

「メイド服・・・。」

 何やら聞き慣れない言葉を曹長が言っている。服装のことか?


「さて私に何が聞きたいのかしら。」

 ウルズラは飲み物がきたのを見計らって話を切り出した。

「ルナ・ラグランジュ・ポイント4襲撃事件について、ウルズラ側からの話を聞かせて欲しい。」

「別に構わないけれど、理由を聞かせて貰っていいかしら?」

 ウルズラはにこやかな笑顔で理由を聞いてきた。その綺麗過ぎる笑顔は俺の全てを見透かしているように思えた。俺がスペース・トルーパーに乗れないことも知っているのではないか。そう思わせる笑顔だ。

「以前にも言ったがクスタヴィ特任大尉は俺の仇だ。俺はルナ・ラグランジュ・ポイント4襲撃事件で両親を亡くしている。」

 俺は一旦ここで話を切り、呼吸を整えた。その少しの時間で俺の今抱えている問題をウルズラに話すかどうかを考えた。

「俺はルナ・ラグランジュ・ポイント4襲撃事件に関わった人間を憎んでいる。その中にアーシュラとヴァレリーも居る。」

 ウルズラはふんふんと頷くと笑みを絶やさず答えた。

「なるほど。大体わかったわ。貴方はそのトラウマのせいでスペース・トルーパーに乗れなくなったのね。」

 ウルズラは気づいたようだ。

「そうだ。俺の中で決着をつけるため、ルナ・ラグランジュ・ポイント4襲撃事件について教えて欲しい。」

 ウルズラは形のよい顎に人差し指を当てて考え込むような仕草をした。

「そう言うことならわかったわ。そこに至るまでの背景も教えてあげましょう。」

「背景?」

「えぇ。クスタヴィ様の最終目標はナノマシンによる人類の人工進化よ。」

「は?」

 きっと今の俺の表情は間の抜けたものだろう。話が大きすぎてよくわからなくなってしまった。

「クスタヴィ様は技術の進化に人類の肉体が付いていっていないことを嘆かれていたわ。宇宙に進出したのに宇宙に適合するのに何世代掛かるかわらない。そこでナノマシン技術に人類の未来を託して人工進化でジャンプアップを目指そうと考えられたのよ。」

「それを本気で考えていたのか?」

「えぇ、理論は構築できたので実践に持ち込んだのが『セイズ』プロジェクトよ。『セイズ』プロジェクトは人工進化のほんの入り口だったから成功は約束されていたわ。」

「その割には成果が出ていなかったようだけど。」

「いえ、慎重に進めていただけよ。個人差はあるけれどフリードリヒもキムも一般のパイロットよりは腕利きでしょ。効果は出ていたわ。」

 言われてみれば2人の腕はエースと呼ばれるに値する腕前だ。

「確かに心当たりはある。」

「でしょ?レベル2に進むことも慎重に考えていたわ。ヴァレリーとサンドラには、担当パイロットにレベル2の兆候が出た場合は報告するように伝えていたしね。」

「その話はヴァレリーから聞いている。」

 確かにヴァレリーもそのようなことを言っていた。ウルズラはうなずいて話を進めた。

「人工進化計画と『セイズ』計画は最終着地点が違うのでどこかでUS軍と認識の齟齬が現れるはずだと考えていたの。最初から予算が切られた場合は、より予算を割り振ってくれる仮想敵国に売り込むことを考えて計画は立案されていたわ。」

「そんな…。祖国を裏切ってまでなんて…。」

「それだけクスタヴィ様は人類の人工進化に賭けていたのよ。」

 やはり目的の為には手段を選ばないタイプだったようだ。

「さてじゃあ本題よ。」

 そう言うとウルズラは手元の端末を操作した。部屋が薄暗くなり俺たちの目の前に立体映像が映し出された。前にヴァレリーが見せてくれた第3者視点の戦闘記録と同じものだ。

 そこには『ヘーニル』と『オーディン』が映し出されていた。

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