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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編12

 『トルトゥーガ』の最上位層からの直々の情報でME軍の来襲を知った俺たちだったが、出港ができないことが発覚した。アナウンスの前に出港の停止が通知されたからだ。

 ME軍との全面対決のための措置だと思われるが、脱出すると言う選択肢を1つ失ってしまった。

 あと採れる方策と言えば積極的に戦闘に参加し懸賞金を得ることか、引き篭もってME軍が撤退するのを待つかだ。

 ブリーフィングでは撤退・参加・静観で検討され、撤退に傾きかけていたのだが、結局出港が停止となったため参加か静観で再度検討されることになった。

 最終的には静観が余りにも消極的すぎて、『トルトゥーガ』が負けた場合のリスクが高すぎるため参加する運びとなった。

 翌日『トルトゥーガ』は正式にME軍の侵攻を発表。撃退戦への参加者募集と観戦ツアーの参加者募集が始まった。市場の取引内容は戦闘準備のための兵器と補給品の売買、スペース・トルーパーのレンタル、観戦ツアーのみが盛り上がっていた。これが『トルトゥーガ』の祭りの風景なのかもしれない。

 

 そして撃退に関して特に具体的な作戦などはないことにこちらは面食らってしまった。、組織的な行動は『トルトゥーガ』の防衛軍だけで、あとは勝手に行動してもよいとのことだ。決まっているのは戦闘宙域だけと言うアバウトさに1国の軍を撃退することが可能なのか『バルバロッサ』内でも疑問の声が上がった。

 しかし賽は投げられてしまった。翌日『ロンバルディア』は予定戦闘宙域へと出発した。他にも宙賊たちが続々と出発して行く。皆一攫千金を狙っているのだろう。『トルトゥーガ』とはそう言う場所だ。多数の船の中にヴィルヘルムたちも居るのだろうか?

 

 半日後、予定戦闘宙域に到着し布陣した『トルトゥーガ』に対してME軍側も応戦する形で戦端は開かれた。

「よし。出るぞ。」

 戦端が開かれたことを確認して待機していたフリードリヒ大尉は出撃していった。一方俺たちはコネクトはできるもののイメージ・フィードバックに多量のノイズが混じり動作に支障が出るトラブルに見舞われていた。

「ヴァレリー。もう一度『ヘーニル』の動作チェックだ。」

「了解。動作チェック開始します。」

 俺は意識を集中させ、各部を動かすよう命令を出していく。しかし動作が遅延したり、まったく動かないことがある有様だった。

「くそっ!なんで?」

 一体どう言うことなんだ?原因がさっぱりわからない。今まで経験したことがないトラブルに俺は戸惑った。色々試した結果、『ヘーニル』側に問題が検出されずスペース・トルーパー側の故障が原因ではないことまではわかった。もうどれぐらいの時間が経っただろうか。フリードリヒ大尉は1人で奮闘しているようだ。刻々入る戦況情報を見聞きする限り、五分五分の状況で進んでいるようだ。


 ME側は損耗しすぎれば『トルトゥーガ』の制圧が難しくなるだろう。かといって『トルトゥーガ』側も損耗しすぎれば、追加戦力があった場合に対応できない可能性が出てくる。五分五分であるのはMEが慎重なのに対して『トルトゥーガ』側が追加戦力はないとして踏んでか、かなり損耗しながら押しているからだと思われる。

 そしてついに『トルトゥーガ』側の恐れていた事態がやってくる。ME軍の追加戦力が投入されたのだ。この時点でかなり『トルトゥーガ』は不利となった。

 しかし『トルトゥーガ』側も対抗するべく追加戦力を投入した。それはたった1機のスペース・トルーパーだった。その追加戦力は驚くほどの戦闘力でME軍の追加戦力のみならず、初期に投入されていた戦力すらも粉砕してしまった。

 戦況をモニタしていたが、敵が恐るべきスピードで数を減らしていった。フリードリヒ大尉の通信に拠ると『オーディン』が投入されたようだ。その働きはまさしく一騎当千と呼ぶに相応しい働きだ。

 『トルトゥーガ』側の余裕の態度も納得の強さだ。お互いの戦力を考えればME軍はかなりのスピードで撃退されてしまったことになる。

 『オーディン』が活躍し、ME軍を駆逐している間も俺はあらゆる手段を試してみたが、『ヘーニル』を動かすことはできなかった。


 フリードリヒ大尉は2機を撃墜しており、流石の貫禄である。一方の俺は貢献どころか戦闘にすら出られなかった。

 戦闘に参加できなかったことが少しショックで食堂でぼーっとしていると、フリードリヒ大尉がやってきた。

「『ヘーニル』が動かなかったらしいな。」

 フリードリヒ大尉の表情は暗く沈んでいる。2機も落したと言うのにどうしたのだろうか。

「はい。『ヘーニル』側にも問題がなくて、原因が不明なんですよ。」

 しかしフリードリヒ大尉はあっさりと答えた。

「いや。原因はわかっている。原因はグレンお前だ。」

「はい?」

 フリードリヒ大尉の声のトーンは至ってまじめだ。いつもより少しトーン低いため暗い印象を受ける。一体どういうことなのだろう?

「俺が原因ってどういうことですか?」

「俺は戦場で何人かそう言う奴を見てきた。大抵の奴は撃墜されたり死にそうな目にあった奴らだ。そう言う奴らは心が拒否するんだよ。スペース・トルーパーに乗りたくなくなって、そしてそれが操縦に支障をきたす。」

「そんな!でも俺は撃墜なんてされてませんよ!」

 俺はそれが信じられなくてムキになって反論した。

「言っただろう。お前の心の問題だ。撃墜されてなくても『ヘーニル』に乗りたくない理由があるんだよ。」

 俺が『ヘーニル』に乗りたくない理由?そんな事があるのだろうか…。考えたが答えは見つからなかった。2人の間に沈黙が流れる。フリードリヒ大尉は溜息を1つ吐いてから話し始めた。

「俺は原因がわかっている。」

「なんですって?」

 なんで俺がわからないことをフリードリヒ大尉がわかるんだ?

「教えて下さい!」

 俺は大尉に食い下がった。大尉は一呼吸置いた後、意を決して話してくれた。

「グレン。お前はヴァレリーと戦場に出たくないんだよ。」

 そう大尉に言われた時、俺は反論できず、むしろその答えにあっさりと納得してしまった。


 あぁ、そう言うことかと。

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