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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編11

 ME軍つまりミドルイーストは旧世紀はエネルギー産出国として膨大な富を得ていたらしい。しかし現代では宇宙に無限のエネルギーが存在するため、そのアドバンテージは失われて久しい。現在は昔ほどの勢力はないものの<シリンダー>を所有しているのでまだ力はあるようだ。

 各国が利権を持つため攻められる事がないと言う『トルトゥーガ』であるが、当然利権を持たない国もある。MEは筆頭で『トルトゥーガ』内の主力産業はカジノと性風俗であり、宗教上の理由からMEではどちらも参入が難しいのだそうだ。

 また『トルトゥーガ』は金を持っているため、金融市場が主な収入源であるMEとは相性が悪い。まさに目の上のたんこぶと言ったところだろう。

 そう言うわけでMEは『トルトゥーガ』に攻め込める数少ない国の一つなのだそうだ。

 そして『トルトゥーガ』の存在自体が非合法であるため、利権を持つ国でさえ大手を振って助けの手を差し伸べることはできないらしい。つまりは自力で撃退する必要があるのだ。


「しかしグレン君はレベル3ではないのか。えらく若く見えるが…。」

「はい。彼の状態はまだレベル2です。実際の年齢が16歳相当だと思われます。」

 軍がやってくると言った割には暢気な会話だ。絶対安全であると言う自信があるのだろうか。

「ME軍がやってくるのだろう?避難しなくていいのか?」

 フリードリヒ大尉は不思議そうに質問した。ヴィルヘルムの態度が解せないのだろう。

「避難?私はここから動く気はないよ。」

 ヴィルヘルムは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。

「安全が確保されていると言うことか?」

 腑に落ちない表情でフリードリヒ大尉は再び問うた。

「この世に100%安全な場所なんてないさ。3年振りの祭りだ。君たちも参加してみたらどうだい?」

「祭り?」

 俺は思わず聞き間違えたのかと思った。

「敵軍を撃退する祭りだよ。敵のスペース・トルーパーに賞金が掛けられるから落とせば一獲千金だ。『トルトゥーガ』にあるスペース・トルーパーは全てレンタルに出される。借りるには金が要るが、スペース・トルーパーを撃墜できればレンタル代を払って十分なお釣りが返ってくる。」

 『トルトゥーガ』に居る無法者を金で釣って戦力にするのか。確かに宙賊には軍人崩れも多く居る。パイロットも居るのだろう。

「観戦ツアーも企画からそちらもいい。中々生で宇宙での戦闘を見る機会はないので人気がある。」

 俺たちは絶句した。ここに住んでる人間はやはり常軌を逸している。

「では色々と準備があるのでこれで失礼する。専用港へはこの暗号コードで入れる。」

 そう言うとヴィルヘルムは一枚のカードを差し出した。フリードリヒ大尉はそれを受け取り懐にしまった。

「感謝する。」

「いやこちらこそ良い取引だったよ。あぁ、ウルズラを残していこう。積もる話もあるだろうからね。」

 そう言うとヴィルヘルムは部屋から出て行った。残されたウルズラはソファーに座りなおした。

「アーシュラ・・・。」

 フリードリヒ大尉が呼ぶとウルズラは寂しそうな表情で言った。。

「今はウルズラよ。アーシュラの記憶はあるけれど別個の機体として規定されているわ。」

「そうか。ウルズラ。グレンからクローンだと言う話は聞いている。」

「そう。まさかこんなところで貴方に再会するとは思わなかったわ。」

「俺もだ。」

 2人は『セイズ』計画の時のパートナーだった。何か思うところがあるのかもしれない。ウルズラはヴァレリーに向き直った。

「貴方もよ。ヴァレリー。もう会えないかと思っていたわ。」

 ヴァレリーは戸惑った表情だった。アーシュラを撃墜したのはヴァレリーだ。確かに複雑かもしれない。

「私はクスタヴィ様もアーシュラも撃墜したと思っていました。」

「えぇ。バーナードの攻撃で確かに『オーディン』は操縦不能となったわ。でも運良く拾われて命拾いしたわ。」

「そうですか。私に恨みはありませんか?」

「ないわよ。ある訳ないじゃない。お互いにパートナーのために死力を尽くした結果だもの。」

 ガイノイドのはずなのに人間的な会話をするな。この2人は。

「ウルズラ。あの時俺を選ばなかったのは何故だ。」

 ウルズラは憂いのある笑みをたたえている。

「クスタヴィ様以外なら貴方を選んだわ。相手が悪かったのよ。」

「創造主には勝てないか。」

 フリードリヒ大尉は自嘲気味に言った。


「ウルズラ。また会えますか?」

 ヴァレリーは何故か縋るような表情だ。

「えぇ。貴方が望めばいつでも。」

 ウルズラは暖かい笑顔で言った。ヴァレリーの表情も和らいだ。

「ヴァレリー。貴方の今のパートナーはバーナード以上よ。適正だけ見ればヴィルヘルム様を超えているわ。とても良い縁に恵まれたわね。」

 俺のことか?ヴィルヘルムを超えていると言うことはレベル3に到達できると言うことだろうか?しかし俺が若返ってもなぁ・・・。ヴァレリーの表情は硬くなってしまった。

「進行度レベルが上がっても危険はないのですか?」

 ヴァレリーは俺のことを心配してくれているのだろうか。ウルズラは自愛に満ちた笑顔で

「レベル3までは問題ないわ。ヴィルヘルム様は至って元気よ。ただレベル4以上は保証できないわ。」

「そうですか。」

 ヴァレリーは少しほっとしたようだった。


 そしてそのまま解散の流れとなった。折角盛装したのでカジノで遊んで行きたかったが、『バルバロッサ』はどう行動するべきかを考える必要が出来たため、早々に貸衣装を返して『ロンバルディア』に帰還した。

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