邂逅編6
スペース・トルーパーのコックピットまでやってきた俺たちはコックピットの中の作業はヴァレリーが、コックピットの外から工具を渡す補助係を俺がと言う役割分担にした。何しろコックピットの中は狭いのだ。ヴァレリーは工具を使いコックピット内の壁を外すとモジュールからコネクタを外したり、配線を切断したりした。作業は30分余りで完了した。
「これで作業は完了しました。」
「お疲れ。」
「起動してチェックするのでコックピット内にお願いします。」
「わかった。」
俺はコックピット内に入ると、パイロット席に座り、イメージフォードバックインターフェイスのグリップを握った。ヴァレリーがハッチを閉めて自席に座る。
「起動チェック開始します。」
ヴァレリーは目を閉じて集中しているかのように見える。本当に人間のような所作をする。
「識別コード発信、NG。起動シークエンスではイグノア設定。完了。」
どうやら作業は上手くいったようだ。
「せっかくですから先日の戦闘を振り返りましょうか。」
「振り返る?」
「見て貰った方が早いと思うので準備しますね。」
そう言うと俺の視界が暗転した。
「うわっ!先日から視界がよく変わるけどビックリするな。」
「すいません。映像出します。」
目の前に映像が飛び込んできた。自分が乗っていたスペース・トルーパーだ。視点が第三者視点になっている。
「対『マウス』戦の状況シミュレーションになります。」
自機は『マウス』に向かって飛んでいく。途中やった覚えのある動きをした。こうやって俯瞰的に見るとかなり平面的な動きをしていた。もう少し3次元的に動いた方がよいと感じられた。第三者視点から見ても自機と『マウス』はドックファイトをやっていた。自分が動かしているとは俄かに信じ難い。
「凄いな。」
我がことながら立派にドックファイトができていることに感心した。進んで行くと勝敗を分けたあの接近戦まできた。自機はかなりの速度で近づき『マウス』を切り付けている。自分の記憶では直前の『マウス』の動きが鈍かった印象があるのだが、シミュレーションでは再現されていないのかそのような感じは受けなかった。
「ちょっとここの動きは違うっぽいな。」
「どこですか?」
「敵機の右腕を切ったところ。直前の敵機の動きが鈍かったんだよね。」
「なるほど。こう言った感じですかね。」
先ほどシーンだけが再度流れた。敵が少し躊躇するような動きをし、それを見てからこちらは一気に相手との距離を詰めていっていた。確かにこちらの方が近い気がした。
「そうそう。こんな感じ。」
「了解です。」
「しかし凄いな。第三者視点でシミュレーションとかができるんだ。」
「自分の動きは記録が残っているので映像情報から相手の動きが解析できれば可能です。」
「映像が残ってないとダメなのか。」
「はい。1対1の訓練後などに使います。」
この映像で反省会をするのだそうだ。
「さて仕事も終わったし自室に戻るか。」
「わかりました。」
ヴァレリーは食堂待機になったので、俺は自室に戻り眠くなるまで学校の課題を片付けた。
翌日、俺たちはルナ・ラグランジュ・ポイント2に帰ってきた。650マイル内は防衛圏となっており、速度を落として通行しなければ問答無用で攻撃を受ける。63マイルになると完全停止を行い港まではタグボートによる曳航が行われる。
タグボートに曳航されながら見えてくるのは大きな円とそれにくっついている円柱だ。大きな円は<サークル>と呼ばれており、<サークル>が3つでルナ・ラグランジュ・ポイント2を形成している。1つの<サークル>には8つのシリンダーと呼ばれる円柱がついていて、居住区が4シリンダーと工業区が4シリンダーあり、約4000万人の人が住んでいる。<サークル>3つで約1億2000万人がこのルナ・ラグランジュ・ポイント2で生活している。
<サークル>は8つのシリンダーをつなぐ役割をしており、その中にはリニアモーターカーが走っている。宇宙港はその<サークル>から更に髭のようにはみ出した場所にあり、1つの<サークル>に4か所の港がある。俺たちは<サークル3>に住んでおり『エーリュシオン』は<サークル3>から見て3時辺りにある2番港へ曳航されていった。
宇宙港に接続されると荷物の搬出を行う。シリンダー内の配送は専門の業者が居るのでそちらに引き渡すところまでが俺たちの仕事だ。引き渡された荷物は同じ円の中に配送されるものもあれば、別のところへ更に移動させることもある。
俺たちは引き渡しの仕事を終え、『エーリュシオン』を船庫まで移動させて一息ついた。とりあえずは一段落だ。この後の仕事は明日からの仕事で、今日はみんな家に帰るのだ。
ヴァレリーの偽装諸元は威力を発揮し、何のお咎めもなく税関を抜けることができた。帰ってから養母にヴァレリーを会社で使うことになったいきさつの説明を行ったがそれがもう大変だった。何しろ夢みたいな話だ。しかし明日からはきっとありふれた日常の生活に戻るだろう。ヴァレリーが加わる以外は。