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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編8

 俺の『ロンバルディア』への帰還は無傷だったこともあり、驚きを持って迎えられた。ラウル曹長は涙を流して無事を喜んでくれた。死んだと思われていたらしい。『トルトゥーガ』はやはりヤバいところのようだ。

 俺は自室でパイロットスーツとヘルメットを脱ぎ、開放感に満たされていた。そこへ呼び出しが掛かった。状況を確認するため、主だったメンバーはブリーフィングルームへと集合せよとのことだった。ブリーフィングルームに着くとすでにメンバーは揃っていた。俺の到着を待っていたかのようにフリードリヒ大尉が口火を切った。

「一体何があったか教えてくれ。」

 俺はブリーフィングルームをぐるりと見回して、ヴァレリーが居ないことに気づいた。

「すいませんが、ヴァレリーも呼んで下さい。」

 大尉はヴァレリーを探してくるように指示を出した。ほどなくヴァレリーがブリーフィングルームへやってきた。俺はそれを見計らって話し始めた。

「俺を拉致したのはこの人物です。」

 俺はフリードリヒ大尉にヴィルヘルムの名刺を手渡した。大尉の表情はみるみる曇っていった。

「リースマン商会だと?」

「はい。そこに名のある会頭に拉致されました。」

「『トルトゥーガ』で高級リゾートを経営している会社だ。『トルトゥーガ』の中では老舗の大店だな。一体何故?」

 老舗ならばヴィルヘルムが1代で興した会社ではないということか。

「そこでナノマシン強化についての情報提供を求められました。」

 フリードリヒ大尉は目を見開いて驚きの表情となった。

「我々のことがバレていると?」

「そう言うわけではなさそうです。俺がグレンと言う名前であることも相手はわかっていない印象でした。俺はトニーと名乗っています。どうやら俺がナノマシン強化の施術を受けていることを何かしらの機器などで見抜かれたようでした。」

「そんなことができるのか?」

 フリードリヒ大尉は懐疑的だ。俺も確たる証拠を持っているわけではない。

「ヴァレリー。君にナノマシン強化を検知できる仕組みはあるか?」

 ヴァレリーは首を横に振った。

「私にはない機能です。」

「そうか。じゃあアーシュラには有った?」

 ヴァレリーは目を見開いた。フリードリヒ大尉も驚きの表情で

「アーシュラと会ったのか!」

と質問してきた。

「いえ。少し複雑なのですが、アーシュラだった者と会いました。」

「どう言う事だ?」

 フリードリヒ大尉は困惑しているようだ。確かに言葉を額面通りに受け取れば意味がよくわからない。

「本人はアーシュラのクローンだと言っていました。コピーであると。」

「コピー?」

「はい。ヴィルヘルムはどう言う経緯かはわかりませんが、クスタヴィ特任大尉と面識があるようでした。ヴィルヘルムはアーシュラの提供を求めたのですが、クスタヴィ特任大尉はアーシュラは譲れないため、クローンを作成し提供したようです。」

「やはりクスタヴィはここに居たのか。しかし何故ヴィルヘルムはアーシュラを求めたのか…。」

 フリードリヒ大尉は目線を落とし考え込むような仕草をした。

「我々が『トルトゥーガ』に来た理由の一つに売りに出されていた『ヘーニル』の同型機の調査がある。」

 思い当たるのは『オーディン』だ。

「『オーディン』のことですか?」

「『オーディン』のことを知っていたのか。」

 フリードリヒ大尉は意外そうな顔で俺を見た。何故意外そうなのだろうか。ヴァレリーが話すはずがないと思っていたのだろうか。それとも話さないように釘を刺していたのだろうか。また俺の心に黒い疑念が頭をもたげてきた。

「それなら話が早い。クスタヴィのことも知っているんだな。」

「大枠は。」

 俺は少し話をはぐらかした。

「今回はクスタヴィの捕縛も命令が出ている。」

 『オーディン』が『トルトゥーガ』のマーケットに出たことでUS軍はクスタヴィが『トルトゥーガ』に潜伏していると考えたのだろう。そこで『バルバロッサ』に調査命令が出たというわけか。

 だがこれはクスタヴィが『トルトゥーガ』に居ると思わせる、周到に仕組まれた罠ではないだろうか。ウルズラが言うには随分前にユーラシア連邦に亡命したと言っていた。

「あの。」

 ヴァレリーが恐る恐る声をあげた。

「アーシュラにナノマシン強化が検知できる仕組みがあったかはわかりません。ただアーシュラは私たちよりも明らかに機能を盛り込まれていました。」

 ならば固有の機能として持っていると思った方がいいだろう。

「話が逸れてしまっていたな。」

 ヴァレリーの言葉で逸れていた話題を思い出した。

「ヴィルヘルムがアーシュラを求めた理由ですね。それはわかりません。ただ彼もナノマシン強化の施術は受けているようでした。」

「会社の会頭がか?」

 フリードリヒ大尉は腑に落ちない表情をしている。俺は理由を知っているが、にわかには信じられない理由でもあるのでここでは言及しないことにした。

 会議はヴィルヘルムに情報を提供するか否かをドーソン准将に確認することとし解散となった。『トルトゥーガ』からであると『コンスタンツ』の基地司令と連絡を取るより、月面基地の方が連絡がしやすいからだ。

 会議終了後、俺はヴァレリーを連れてフリードリヒ大尉との会談に臨んだ。

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