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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編7

「若返りだって?」

 ヴィルヘルムは60歳を超えていると言う。だがどう見積もっても30代前半だ。20代と言われてもおかしくない。

 人類の平均寿命は100歳を超えている。再生医療とサイバネティクス技術は寿命を伸ばしたが、それにはお金が必要であり大きく平均寿命を押し上げることはなかった。

 また若返りについても様々な研究は行われているが、有効な手段は確立されてない。本当に若返ったとしたら完全にオーバーテクノロジーだ。

「あぁ、間違いないよ。私が証拠だ。」

 にわかには信じられない。だがヴィルヘルムの自信に満ちた表情は嘘を吐いているようにも見えなかった。

「クスタヴィは間違いなく天才だよ。彼の計画は壮大だ。」

「パイロットのナノマシン品質を揃えるだけではないということか?」

 ヴィルヘルムは大きくうなずいた。

「さっきも言ったが目的に特化した成果は所詮レベル1だ。この計画には先がある。」

「その先が若返りだと?」

「彼はもっと先も話していたよ。最終的にはレベル6まで話していたかな?」

 レベル6だって?レベル3の若返り効果だけでも十分なのにレベル6になれば一体どうなってしまうのだろうか。

 その時ふとクリストフが以前言っていた人間からかけ離れていく恐怖の話を思い出した。もしかしするとクリストフはサンドラから、更に先の段階がある話をされていたのかもしれない。それとも本能的に先があることに気づいたのだろうか?

「貴方はレベル6になりたいと考えているのか?」

 俺は率直な疑問をヴィルヘルムにぶつけた。彼は少し考えてから答えた。

「いやレベル6は要らないな。到達できるならばレベル5になりたい。」

 どうやらヴィルヘルムにとってレベル6の特性は魅力的ではないようだ。しかし自信がなさそうな回答だな。

「到達できるなら?」

「あぁ、誰も通ったことがない道なのでね。何が起こるかわからない。私は疑り深い性分でね。」

 結果は出ているが、この技術について懐疑的なのか。何か気になることでもあるのだろうか。

「何か気になることがあるから疑っているのでは? 例えば体調に問題があるとか。」

「体調はすこぶる良い。むしろ逆だな。順調すぎて気味が悪いぐらいだ。」

 順調すぎて懐疑的になっているということか。『トルトゥーガ』では当たり前の感覚なのかもしれない。

「さて話したいことは大体話したな。私は上のレベルを目指しているが情報が足りない。君には同士として情報提供をお願いしたい。」

 経緯は大体わかった。US軍も持っていない情報が多数あった。クスタヴィ特任大尉は自身の計画の全容を軍には伝えていなかっただろう。

 当たり前と言えば当たり前だ。若返りなんて軍は求めていないだろう。軍の要求であるパイロットのナノマシン品質の均一化。それに見合う部分だけをクローズアップして伝えることで予算を獲得したのだ。

 そう考えるとクスタヴィ特任大尉にはかなり社会性もある気がするのだが、何故ルナ・ラグランジュ・ポイント4襲撃事件を起こしたのだろうか?あれは社会性を無視したとしか思えない行動だ。何か理由があるのだろうか?

「約束はできないが善処しよう。何か連絡先を貰えるだろうか。」

「よい返事を期待しているよ。」

 ヴィルヘルムはそう言うと名刺を出してきた。

「連絡したい時はそこにある連絡先に連絡をしてくれ。」

「わかった。」

 会談は終了した。かなり一方的に情報を貰った気がするがよいのだろうか?相手としてはこちらと縁を結ぶのが目的だったのかもしれないが。

「ウルズラ。階下までお送りしろ。」

「はい。」

 俺はウルズラに連れられて元来た道を戻った。エレベーターに乗ったところでウルズラに俺の疑問をぶつけてみた。

「君はアーシュラではないのか?」

 ウルズラはその端正な顔をこちらに向け少し微笑みながら答えた。

「半分は正解です。」

「半分?」

 一体どういうことだ?

「私はアーシュラのクローン。つまりコピーです。」

「コピー?それはどう言う事だ?」

「ヴィルヘルム様はナノマシン調整のためのガイノイドをクスタヴィ様に要求しました。しかしクスタヴィ様は手元にアーシュラを残すため、アーシュラをベースとしたコピーを作成しました。時間があまりなかったため、一から新規で作成することはせず人格プログラムごとコピーされたのが私です。」

「つまりコピーとして稼動し始めた時点でアーシュラからウルズラになったということか?」

「そう言う理解で問題ありません。」

 ウルズラはアーシュラとは別個のガイノイドではあるが、途中まではアーシュラとしての記憶も持っていると言う事だ。それならば今までの言動も理解できる。

 エレベーターは階下に到着した。俺たちはエレベーターを降りて停車場に向かった。

「送ってくれてありがとう。」

「ではお気をつけて。」

 俺をエレカーに乗り込むと街方面へ行き先を入力した。扉が閉まりエレカーは加速を始めた。俺は手に持っていた名刺の中身をみた。そこには

《リースマン商会 会頭 ヴィルヘルム・リースマン》

とあった。戻ったらリースマン商会について調べる必要があるな。

 10分ほど走ったところで一旦エレカーを降り、港方面のエレカーに乗り換えた。 エレカーは無事港の停車場に到着した。時間にして10時間も経っていないが無事俺は『ロンバルディア』に帰還することができた。

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