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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編6

「なんのことだ?」

 俺は努めて平静を装って回答した。ヴィルヘルムたちはどれほどの情報を持っているかわからない。迂闊な言質は取られない方がいい。

「しらを切らなくてもいい。私たちにはわかっている。なぁ、ウルズラ?」

「はい。彼からはヴァレリーの匂いがします。HTX-02の方が通りがいいかしら?」

 ウルズラ!?アーシュラじゃないのか?一体このガイノイドは何なんだ?それにヴァレリーの匂いって何だ?シールド付ヘルメットのおかげで相手に表情は見えていないが、恐らくそんなことはお構いなしに相手に動揺していることがバレただろう。

 ヘルメットの中の顔は冷や汗でびっしょりだ。自動恒常性機能で汗をかいている事を検知したパイロットスーツはスーツ内の温度を下げているはずだが、まるで効果はないようだ。

「ウルズラ。彼の進行度はどれぐらいだ?」

「目を見せてくれませんので正確には判りかねます。」

 どうやらこのパイロットスーツ姿は相手に対してかなりの効果を発揮しているようだ。とてもこんな事態を予想していたわけではないが。

「匂いと所作ではわからないか。」

「無理を言わないで下さい。あと匂いは言葉の綾です。」

 匂いと言うのは本当に匂いではなく強化パターンに識別できるような癖があるのだろうか。しかし俺は目も見られていないし肌も直接触れられていないはずだ。

「さっき触った感じではレベル2は超えていますね。」

「レベル2!それは素晴らしい。お仲間では初めてだな。」

 触られた?いつだ?もしかしてしなだれかかられた時か!スーツ越しでも何かがわかるのか。それに進行度レベル2ってなんだ?


「私たちは君の敵ではないよ。むしろ仲間になりたいね。君の存在は貴重だ。」

 ヴィルヘルムは物腰柔らかく俺に告げた。俺には彼らの狙いが皆目見当がつかなかった。どうする?ナノマシン強化の件はバレていると思って間違いないだろう。ヴィルヘルムたちを信用するか?しかしここは『トルトゥーガ』だぞ。彼らはどこまで俺のことを知っているんだ。くそ!八方塞がりだ。

 動揺から立ち直れず考えがまとまらない。俺がずっと沈黙していてもヴィルヘルムは余裕の態度を崩さなかった。

 

 俺は動揺を沈めて情報を整理することにした。まず彼らの態度は悪くない。むしろ『トルトゥーガ』内では力を持っていると思われるのに、それほど強引に回答を引き出そうとしていない。

 俺の存在が彼らに取って有用な可能性があってここに連れてきた。それは間違いないだろう。そして先ほどの進行度レベル2で俺の有用性が確認できた。そうなると俺が気分を損ねて彼らに協力しなくなることは彼らの益にならないと言える。あれ?俺のほうが有利じゃないか?貴重だから殺されないとは限らないが、そこは割り切って交渉するべきだな。俺は意を決して口を開いた。


「察しの通り俺はナノマシンの強化を受けている。だがそれは機密事項だ。俺は下っ端なので貴方の知りたい事全てに答えることはできない。」

 回答の保留だが、彼らの目的は俺にまつわる情報だと思う。さぁどう出てくるかな?

「なるほど。では黙秘を認めるので質問の答えて貰えるかな?」

「了解した。」

 そう来たか。これからが正念場だ。

「まず君はUS軍の関係者だね。」

「黙秘する。」

 身分にまつわることはNGだ。

「ふむ。では顔を見せることは?」

「拒否する。」

「なるほど。」

 ヴィルヘルムは頷いた。俺のことは多分ナノマシンが強化されている人間として認識しただけで、『バルバロッサ』に所属しているだとかグレンと言う名前はわかっていないようだ。ますます身分が隠した方がいいし、何より目をウルズラに見られると情報を抜き取られる可能性がある。

「では質問を変えよう。君はスペース・トルーパー特化型だと思うが、最近コックピット以外でも感覚が鋭くなったりすることはないかね?」

 確かに動きがスローモーションに見えたりすることがある。

「あります。」

 ヴィルヘルムは納得したような表情となった。

「レベル2だな。」

「はい。」

 ウルズラが首肯した。

「ナノマシンの強化進行具合の分類のことでね。決めたのはクスタヴィだ。」

 ヴィルヘルムはクスタヴィ特任大尉と接触していたようだ。このガイノイドがアーシュラでない時点で接触はないかもと思ったが、そうではなかったようだ。そうするとウルズラもクスタヴィ作の可能性はあるな。

「ちなみにレベル1は目的に即した場合のみナノマシン強化が発揮されるだ。スペース・トルーパー特化型はスペース・トルーパーを操縦している時だけ、能力が発揮されている場合がレベル1だ。君の場合は操縦以外でも能力の向上がみられているようなのでレベル2と言うわけだ。」

 ヴィルヘルムは聞いてもいないのに懇切丁寧に説明してくれた。情報をくれるのは助かるが何か裏がありそうだ。

「君の周りにレベル2は居るかい?」

 可能性としてはクリストフだろうな。

「心当たりは1人居ます。」

「ほう。」

 ヴィルヘルムの目が細くなった。有用のな情報だったようだ。確度は低いがね。

「レベル2以上の人材は非常に少なくてね。心当たりも仲間にしたいね。我々はデータが欲しいのだよ。」

 彼らの目的は進行度レベル2以上のデータらしい。動機はわからないが。

「我々は君を仲間だと思っているのでね。情報は共有したいのだよ。」

 それで情報を開示してくれているのか。

「ちなみに私のレベルは3だ。」

 なんだって?俺よりも上なのか。一体レベル3になるとどうなるんだ?

「レベル3はね。若返るのさ。私の年齢は60を超えている。」

 衝撃の告白に俺の思考は停止した。

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