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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編4

「やばい!コインを奪う気だ!逃げるぞ!」

 スロットマシーンのジャックポットが当たったのも束の間、その派手な演出のため当たりに気づいた者たちが近づいてきた。俺たちから当たったコインを奪うつもりらしい。改めて『トルトゥーガ』の治安の悪さを痛感した。

 ラウル曹長はコインカードと俺の腕を引っ掴むと出口に向かって駆け出した。

「おい!」

「待て!こらっ!」

「コインを寄越せ!」

 店の無頼者たちが口々に罵りながら一斉にこちらに向かって走ってきた。俺たちの前に立ちふさがった奴らをラウル曹長が薙ぎ倒す。

「付いて来い!」

 ラウル曹長のあとを必死に追い掛ける。不意に気配がして横を見ると殴りかかってくる無頼者が居た。殴りかかるその腕はスローモーションのように見え、軽く避けることができた。殴りかかってきた無頼者は目標を見失いバランスを崩したところを足を引っ掛けてやった。無頼者は盛大にひっくり返った。なんだ今の感覚は?

 しかしそれを追求している時間はない。俺は踵を返すとラウル曹長を追いかけて出口目掛けて駆け出した。

 カジノを飛び出し、ラウル曹長に付いて路地を走り抜ける。どこをどう曲がったかなんてわからず無我夢中でラウル曹長の背中を追いかけた。ヘルメットをしているので中の二酸化炭素濃度が上がったが、パイロットスーツの自動恒常性機能が働いて酸素を供給してくれたのでそれほど息苦しくはなかった。


 どれぐらい走っただろうか。士官学校時代を思い出すほど走ってラウル曹長は一軒家の前で止まった。素早くキーコードを入れて指紋認証で扉を開ける。

「早く入れ!」

 俺は中へ飛び込むとラウル曹長も中に入り扉を閉めた。ラウル曹長は即座に鍵を閉め、息を殺しながら外の様子を伺った。外ではいくつかの足音が通り過ぎていくのが聞こえた。どうやらここに逃げ込んだことはバレなかったようだ。俺がその場座り込むとラウル曹長も座り込んだ。

「スリル満点だったな!」

 返事をする余裕もない。肩で息をしながら首だけを縦に振った。捕まっていればカードを奪われるだけでなくどうなっていたかわからない。いち早く決断して逃げたのはよかった。『トルトゥーガ』は気が抜けないな。


 ようやく落ち着いてラウル曹長に此の場所のことを聞いた。

「ここは一体?」

「『ロンバルルディア』のセーフハウスだ。」

 『ロンバルディア』の拠点らしい。確かに中はそれなりに広く誰かが住んでいるのか生活感があった。

「誰が住んでいるんです?」

「あぁ、ここの維持管理と『トルトゥーガ』の内情を探る人員が住んでる。」

 やはり人が住んでいるらしい。しかし今は人の気配はしない。

「留守みたいですね。」

「この時間だと店で働いてるんだろう。」

 どうやら仕事に出かけているようだ。ならばよいだろうと俺はヘルメットを取った。走ったせいで熱が篭って暑かったので涼しく感じる。

 ラウル曹長は立ち上がると

「飲み物を探してくる。」

と奥へ行った。ほどなく水を2つ持って帰ってきた。

 曹長から渡されたアルミパックの水を飲む。結構冷えていて火照った体にはありがたかった。

「これからどうします?」

 喉も潤い一息ついたので今後の方針をラウル曹長に確認した。曹長は少し考えて

「ここでしばらくやり過してから帰るのがいいだろう。」

と言った。まだ外には無頼者がうろついているだろう。3~4時間もすれば居なくなっていると思われる。俺たちはここにしばらく潜むことにした。

「船と連絡を取ってくる。」

 そう言うとラウル曹長は、再び奥のほうへ行った。俺はほっとしたからなのか空腹を覚えた。現金な体だなと思いつつ、ラウル曹長が帰ってきたら食べ物を貰おうと考えた。


 ラウル曹長は少し気落ちして帰ったきた。

「フリードリヒ大尉に叱られたよ。目立つなってさ。仕方ないよなぁ。運が良かったんだから。」

 この場合は運が良かったと言えるのだろうか。お金は手に入ったが俺たちが自由に動くことは制限されてしまった。

「本当にな。不可抗力だよ。あと曹長。腹が減ったんだけど。」

「備蓄のパワーバーでも食うか。ちょっと待ってろ。」

 曹長は手前の小部屋に入り、パワーバーを4本持って帰ってきた。どうやら倉庫になっているようだ。

 パワーバーを受け取った俺はぺろりと2本食べてしまった。起きてから何も食べてなかったからだ。食事も終わって、特にすることがなくなってしまった。

「仮眠でも取るか。」

 そう言って俺たちは机に突っ伏して仮眠を取った。目が覚めた時には2時間ほど経っていた。

「さすがにもう居ないだろう。ちょっと見てくる。」

 ラウル曹長は建物の外へ出て行き、10分ほどで戻ってきた。

「大丈夫だった。筋を変えてエレカー乗り場へ行こう。」

 俺は再びシールド付きのヘルメットを被って、最寄の筋のエレカー乗り場ではなく、少し回り道をしてエレカー乗り場に向かった。裏通りはほとんど人の往来はない。この辺りは住居地区なのだろう。大きな通りに近づくにつれ、店と人通りが多くなっていった。目立たないように人ごみをすり抜けていく。今度は十分に気をつけていこう。

 エレカーが走る地下へ下りて、停車場へ着いた。俺が先に乗りラウル曹長が乗り込もうとした時、ラウル曹長の体が急に消えた。

 何が起こった!? 俺はエレカーを降りて曹長の姿を確認しようとしたが、乗降口で再びエレカーに押し戻された。

 俺を押し戻した女性は絶世の美女だった。その艶のある銀髪に意思の強そうな瞳が宿っている。この美しさは俺がよく知る人と同一の物だ。つまりガイノイドだ。俺はガイノイドを押しのけて外へ出ようとしたが、もの凄い力で押し戻された。

 その隙にガイノイドはエレカーの扉を閉じて、行き先を入力した。エレカーは目的地に向かって走り出した。動く直前、窓の外に腕を押さえたラウル曹長が見えた。どうやら無事のようだ。エレカーは加速し、あっという間に曹長の姿は見えなくなった。

 俺がガイノイドの方を向くと、あちらもじっと俺を見ていた。そしてふと表情を緩めると

「悪いようにはしないわ。少し私に付き合って貰うだけ。」

と言った。俺は先ほど押し返された力から抵抗は無駄だと感じ、諦めて付いて行く事にした。

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