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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編3

 翌日の寝覚めは最悪だった。昨夜は両親を思い出し、泣き疲れて眠ってしまったようだ。部屋を見回すとヴァレリーは居なかった。昨日一人にしてくれと言ってから帰ってきていないようだ。俺は重い体と気持ちを引きずりながらヴァレリーを探すため部屋を出た。


 ヴァレリーを探して艦内を回っているとフリードリヒ大尉と遭遇した。大尉は開口一番、

「どうした?酷い顔だな。」

 と言った。朝起きてから鏡も見てない。俺はそんなに酷い顔をしているのだろうか。

「昨日少し家族を思い出しましてね。」

「なんだホームシックか。」

「まぁそんなところです。」

「この部隊に居ると連絡もできないからな。」

 大尉は俺の年齢と連絡できない特殊性から納得したようだった。しかし大尉は俺の本当に家族に会えないことで悲しんでいることは知らないだろう。大尉が『オーディン』を奪われなければと少し黒い想いが沸いてしまった。

「俺は『ロンバルディア』に居る予定だから『トルトゥーガ』を見てきたらどうだ?気晴らしにはなるぞ。」

「わかりました。そうします。」

 笑顔で答えたつもりだが、俺は大尉に対する暗い感情を隠せただろうか? 出かけることにもまったく気乗りはしないが、大尉が言うように気分転換になれば感情も整理できるかもしれない。今、ヴァレリーに会ったとしても、また心無いことを言ってしまう気がした。

 俺はフリードリヒ大尉と別れると、ラウル曹長に連絡を取った。『トルトゥーガ』内では2人1組での行動が義務付けられているため、相棒兼ボディガード役のラウル曹長と出かけなければならない。

 俺は約束と取り付けると着替えの為に更衣室へ向かった。俺の顔を見ればさすがに『トルトゥーガ』内では若過ぎて目立つし、最悪誘拐されて売り払われるとまで言われたので顔を隠すためだ。俺はEU製のパイロットスーツに着替え、シールド付のヘルメットを被り顔がわからないようにした。これはこれで目立つが、『トルトゥーガ』にはパイロットスーツの人間は一定居るらしい。

 着替えた俺はラウル曹長と合流した。着替える時に自分の顔を見たが、フリードリヒ大尉が言うようにそれは酷い有様だった。この格好であれば顔が見えないのでラウル曹長に心配されることもないだろう。


 船を出て桟橋を渡り、かなりの距離を移動して宇宙港のゲートに着いた。普通の<サークル>などでは入場に身分証が必要であるが、ここでは必要ない。ここで必要なのはお金だ。『トルトゥーガ』内は独自のローカル通貨を使用しており、それは物を売ることで手に入る。裏を返せばまず売る物がなければ『トルトゥーガ』に入ることすら出来ないのだ。

 俺たちは宙賊『バルバロッサ』として持っているカードから入場料を払い『トルトゥーガ』に入場した。ゲートの向こうはまだ資源衛星内で、艦船やスペース・トルーパーと言った大型の物が並んでいた。

 国が別々の兵器が並んでいる様は、それはそれは奇妙な光景だった。確かに見る価値はあるかもしれない。

 そう言えば『オーディン』が売っているはずだ。それらしいものを探したが見つからなかった。あの値段であるからどこかに厳重に保管されているのだろうか。


 資源衛星を通り抜けると<シリンダー>の軸に到着した。そこからは他の<シリンダー>と同様に壁面へ降りるエレベーターで地面へ降り立った。

 <シリンダー>の中は薄暗かった。入ってすぐの所はきらびやかなカジノや高級宿などリゾート施設が立ち並ぶエリアだった。俺の居た<シリンダー>にもリゾートはあったが、ここに比べれば洗練度が全然違う。

「凄い。」

「だろ?俺も初めて見たときはびっくりした。」

 自然と漏れた感想にラウル曹長が反応した。

「凄いですね。こんな辺境にこんな場所があるなんて・・・。」

「それだけ金が集まってきてるってことさ。」

 これだけの規模のリゾートが何軒もあってやって行けると言う事はすさまじい金額が動いているのだろう。

「ここはお客さんのための表の顔のようなもんだ。宙賊ではない人間もお忍びでやってきたりするからな。」

 定期便などない『トルトゥーガ』へ来ようと思えばチャーター機かプライベート機しかない。確かにお金を持っている人間なら来れるだろう。宇宙で遊ぼうと思えば非合法な遊びが出来る『トルトゥーガ』は人気なのかもしれない。

「確かに見た目に堅気っぽい人が多いですね。」

「治安も比較的いいからな。」

 お客さん用なら治安も良いに越した事はない。

「こっちだ。」

 俺はラウル曹長に連れられて地下に降りた。そこにはエレカー専用の道路があった。俺たちはエレカーに乗り、<シリンダー>の更に奥に進んだ。


 連れて行かれた場所はエレカーで10分程で恐らく<シリンダー>の真ん中辺りだと思われる。きらびやかさはあるが、先ほどと比べると洗練とは程遠く猥雑にも感じる雰囲気だ。リゾートやカジノと言うよりは賭場と言ったものや風俗店と思しきもの、バーではなく飲み屋と言った風情のものが雑然と軒を連ねていた。

「宙賊的にはこっちがホームグラウンドだな。」

 ラウル曹長は楽しそうだ。確かにこちらの方がアウトローな雰囲気が漂っている。道行く人間の見た目も完全に堅気ではない。

「小遣いは貰っているからちょっと遊んで行こうぜ。」

 そう言って連れて行かれたのは辛うじてカジノの体裁を整えたような場所だ。ゲーム内容も伝統的なテーブルゲームからスロットマシーン、ブックメーカーなどが一通り遊べる場所だった。

「なんかやりたい物はあるか?」


 両親が死ぬ半年ほど前に皆でリゾートに行った。午前中はプールで泳ぎ、午後からカジノへ行った。こんな場末のカジノではなく、もっとファミリー向けのカジノだ。9歳だった俺ができるものと言えばスロットマシーンかビンゴゲームぐらいしかなく、リールが回るだけで楽しかったスロットマシーンをやったのだった。

「スロットマシーン。」

「お!いいね。」

 そう言うとラウル曹長は貸しメダルを借りに行った。戻ってきたラウル曹長は貸しメダルが入ったカードを渡してきた。

「これがお前の分だ。」

「ありがとう。」

 俺はカードを受け取ると手近なスロットマシーンの前に座った。カードをかざしコインを投入する。リールが回転し自動的に止まった。地味な演出が出て外れの文字が躍った。確かにあのリゾートのスロットマシーンもこのような感じだった。幸せだった頃の思い出に浸りながら無心でスロットを回した。


《JACKPOT!》

 気が付くとスロットマシーンは豪勢なファンファーレとまばゆい光を明滅させていた。マシンからコインが溢れる様な効果映像が流れ、カウンターが回って行く。

「おい!凄いじゃないか!」

 俺のスロットマシーンの当たりを見てラウル曹長がやってきた。俺はぼーっとその様子を見ていた。現実感のないその光景も俺の深く沈んだ心を奮い立たせることはなかった。

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