宙賊達の楽園編2
『トルトゥーガ』に着いても、俺は上陸することができなかった。フリードリヒ大尉が仕事で上陸していたからだ。フリードリヒ大尉が居ない場合、俺はパイロット要員として『ロンバルディア』に残る必要がある。そこで船に居る間は使用してもよいと『トルトゥーガ』専用端末なるものをフリードリヒ大尉から渡された。
「いいか。その端末はうちのネットワークに繋いではいけないし、内容のコピーも他の端末に移したりするなよ。クラッキングされるからな。」
フリードリヒ大尉は険しい顔でそう言った。
「そんな危険極まりないものを俺に渡して大丈夫なんですか?」
「『トルトゥーガ』が如何なるところか知るにはそれを見ておいた方がいい。ここは宇宙のソドムとゴモラだ。」
「ソドムとゴモラ?」
俺は何のことかわかららず大尉に聞くと
「旧約聖書と呼ばれる古い宗教の聖典にある悪徳の街の名前ですね。」
とヴァレリーがフォローしてくれた。
「ここには人間の悪行の全てがあるってことさ。端末にある悪行を目にすれば、ここが如何に危険な場所かがわかる。上陸する際の心構えになるだろう。」
そう言い残し大尉は行ってしまった。俺は仕方なく自室に戻り端末を閲覧することにした。
端末には簡単な操作説明が載っておりその通り操作した。操作して出てきたのは『トルトゥーガ』で売買されているもののリストであった。種別の項目だけでも膨大な数がある。金さえ払えば全てのものが手に入るというのもあながち間違いではないかもしれない。
酒、艦船、セックスボットに兵器まで。本当に何でも売っている。珍しい物だと各国の通貨まで売られていた。これでマネーロンダリングが可能なのだろう。確かに悪行の香りがするな。
売り物の売値にはよくわからない単位が書かれていた。おそらく『トルトゥーガ』内のローカル通貨なのだろう。更に売り物を見ていくと
「人間?」
背筋が泡立つのを感じた。その項目を掘り進めてみるとそこには老若男女問わず無数の人間が売られていた。この時代に人身売買だって? そして最も戦慄したのは年端も行かない子供たちが売られている事だった。もしかするとこれは養父母に引き取られなかった俺なのではないか。そんな考えが頭をもたげた。そう思うとやるせない気持ちとなった。これがフリードリヒ大尉の言っていた人間の悪行か・・・。本当に胸糞が悪くなる…。
なんだかすっかりテンションが下がってしまったが、気を取り直してスペース・トルーパーの項目を見ることにした。さすがに現役機はなかったが退役した機体についてはほぼ網羅されていると言ってもいい。US軍、人民軍、EUと国も様々だ。どこから横流しされてるんだろうか。これも闇が深そうだ。しかしスペース・トルーパーも宙賊が持つとなると整備などの運用面も考える必要があり、かなりの金額が必要となる。誰でも持てるわけではないが、ここにくれば少なくとも手に入れることができる。そんな中でも取り分け気になる機体があった。それだけ他と4桁金額が違う。売る気がないのか?
「オーデン?」
「『オーディン』ですね・・・。」
俺の隣で見ていたヴァレリーが訂正してくれた。俺はふと横を見るとその表情は険しかった。俺は更に『オーディン』と呼ばれたその機体についての詳細情報を映し出した。そして詳細情報に気になる部分があった。
「操縦には専用ガイノイドが必要?」
心当たりが有りすぎるその記述に俺はヴァレリーの方を見た。
「はい。『オーディン』は『へーニル』と『ローズル』の同型機です。」
3機あったのか。しかし軍にありそうなものが何故『トルトゥーガ』にあるのだろうか。実際『ローズル』は軍倉庫の片隅にあったはずだ。
「ヴァレリーは何故『オーディン』が『トルトゥーガ』にあるか心当たりはある?」
一番詳しそうなのはフリードリヒ大尉だが、この場には居ない。次に詳しいのは間違いなくヴァレリーだ。
「いいえ。何故なら『オーディン』は私が撃墜からです。」
「撃墜だって!? 同士撃ちをしたってこと?」
一体何があったと言うのか。ヴァレリーの表情は非常につらそうだ。ヴァレリーが話し出そうとしたその時
「いや、やっぱり話さなくていいよ。ヴァレリーつらそうだ。」
俺はヴァレリーを遮った。
「いえ。お話します。これはグレンにも無関係ではありません。少し長くなりますが、以前のプロジェクトの話もお話します。」
そう言うと何故ヴァレリーが『オーディン』を撃墜したかを話し始めた。




