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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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宙賊達の楽園編1

 俺たちが『コンスタンツ』にやってきて3ヶ月が経った。『アスク』の調整は順調に進んでおり、機体が持ち込まれた頃から比べると性能に雲泥の差があるだろう。ひとえにアリサ中尉の活躍のおかげだが、フリードリヒ大尉と交際を始めてからは更にパフォーマンスに磨きが掛かり、その活躍には目を見張るものがあった。

 恋は人を変えると言うが、ここまでパフォーマンスがアップするとは知らなかった。メンタルの状況が良くなった結果と思えばありえない話ではないのかもしれないが、元々できる人であったのに更に上がるとは誰も想像し得なかっただろう。


 そして明日には俺たちは『トルトゥーガ』へ出発する手筈になっている。俺たちは護衛の任務兼見学だ。今回は『ヘーニル』を持って行くことになっている。『トルトゥーガ』は世界最大の裏マーケットがある場所で宙賊たちの溜り場となっているところらしい。俺も噂にはそう言う場所があると聞いたことがあったが、一般人であった頃には接点すらなかった。お金さえあれば大抵物が手に入ると言う場所であり、俺たちは奪った輸送船や余剰資材を売りに行くのだ。養父さんが『ヘーニル』とヴァレリーを売ろうと考えていたところも恐らく『トルトゥーガ』なのだと思われる。

 厳格に管理されていながら非合法な人間しか居ないため、危険度が非常に高いと言う矛盾した場所であるが、各政府の利権も複雑に入り組んでおり、おいそれと手を出せないし、宙賊は出禁になろうものなら生活していくことができなくなると言う場所だ。

聞いた話では、あるお金持ちが持っていた資源を採りつくした資源衛星を、裏マーケットの場として再利用したことで始まったらしい。お金持ちの考えることはよくわからないが、更なる富を呼び込む結果になったようだ。


 スペース・トルーパーを護衛として持って行くのは、無法者たちが集まるところであり武力がなければどうなるかわからない場所だからだ。ちなみに『ヘーニル』で行くのは『アスク』が強奪された時のリスクを鑑みてである。ヴァレリーは盗難のリスクを避けるため船から降りることができず、俺は子供であることがばれないように遮光シールド付きのパイロットメットを被ってしか『トルトゥーガ』を見て回れないらしい。さらに白兵戦部隊のラウル軍曹と一緒に行動することも義務付けられた。

 ラウル軍曹は鍛え上げられた体躯の持ち主で白兵戦は勿論、格闘でも相当の強さを誇っており、言わば俺のボディガード役だ。体の厚みが俺の倍はある。

 また船には俺かフリードリヒ大尉のどちらかは残る手筈になっている。フリードリヒ大尉は士官なので仕事も多い。つまり俺の外出はかなり制限される。

 当然武器の持ち込みは制限されているが、出し抜く方法など無数にあるらしく、それだけ用心する必要がある場所であることが危険度を物語っている。メットで顔が出せないとなると食事も満足に取れないため本当に見学程度だ。

 しかしそんな状態であっても一度は見ておくべきだと基地の皆が口を揃えて言っていた。一体どれだけ凄いところなのだろうか。


 今回の旅程は6日とかなり掛かる。場所は<ルナ>の向こう側だ。<ルナ>の裏面を通る方が早いらしいのだが、この情勢であるので表面側から行くことになっている。US軍の哨戒のスケジュールならば確度が高い物が手に入るのでリスクが減るのだ。その分かなりの大回りとなってしまう。


翌日荷物を満載した輸送船と『ロンバルディア』は電磁カタパルトへと出発した。電磁カタパルトで加速し、2隻の船は順調に旅程を消化していった。途中宙賊に襲われたが『マウス』に乗るフリードリヒ大尉によって撃退された。荷物を奪われようものなら良い笑いの種だ。俺と『ヘーニル』は出番すらなかった。

 US軍の哨戒にもぶつからず、他の軍にも見つかることなく『トルトゥーガ』に到着することができた。


 外から見た『トルトゥーガ』は岩石に<シリンダー>がくっついていると言った変わった形をしていた。<シリンダー>部分は回転しており、中には人工重力が発生していることが見て取れる。岩石部分に出口と入口が1つずつあり、出入りは完全に管理されているとのことだ。船はタグボードで入口へ順番に曳航されていく。入口付近には岩に迷彩されたスペース・トルーパーが見えた。防衛にも力を入れていることがわかる。無法者たちへの抑止力はやはり武力なのだろう。

 狭い入口を抜けると中は広い空洞となっていた。そこには多くの艦艇が係留されていた。軍のように同じ型のものばかりではなく、むしろどれ1つとして同じ物がないように見えるほど多彩な艦艇が留置されていた。

 資源衛星の中はきれいに刳り貫かれており、資源のためだけでなく整備のために整形されたかのようになめらかだった。港としての設備も立派でその係留できる数と係留されている数に圧倒された。30以上の艦艇が係留されており、まだ空いている桟橋がそこかしこに見て取れた。


「すげぇ。」

 外のカメラを映し出していたモニタを眺めながら、俺はその光景に圧倒された。

「本当ですね。宇宙港は細かく分かれているので、ここまで一斉に船が見られる光景はなかなかないと思います。」

「壮観だな。」

 いきなり度肝を抜かれたが、中は一体どうなっているのだろうか。俺は早く中を見たい衝動に駆られていた。

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