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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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新型量産機編12

 今回の任務を終えて帰ったきた俺たちは早速アリサ中尉の元へ報告に向かった。工作室で作業をしていたアリサ中尉は俺たちの姿を見つけるや否や、こちらに凄い速さでやってきた。

「戻りましt」

「どうだった?」

 アリサ中尉は食い気味に聞いてきた。無茶苦茶気になっているようだ。

「アリサ中尉の想いは伝わっていました。ただフリードリヒ大尉はその気持ちに答えることはできないと言う回答でした。」

 アリサ中尉の顔はショックを隠せない顔になったあと、寂しそうな表情に変わった。「そっか。駄目だったか…。でもやっとすっきりしたよ。」

「長かったですもんね。」

 ヴァレリーも寂しそうな表情で言った。

「ヴァレリーは気づいてたんだね。」

 アリサ中尉は困ったような照れたような顔になった。

「確信を持ったのはついこの間ですけどね。」

「ちょっと長く想い過ぎたね。切り替えるのに時間が掛かりそうだよ。」

 俺はそんなに長く人を想い続けたことはない。だが忘れるには想った分と同じだけの年月が要ると言う話を聞いたことがある。アリサ中尉は一体何年ぐらいフリードリヒ大尉のことを想って過ごしてきたのだろう。

「今日の作業は終わりにするよ。泣いて寝て起きたらちょっとは気が晴れてると思うから。」

「はい。それがいいと思います。」

 ヴァレリーはアリサ中尉に大いに同意した。俺たちは傷心のアリサ中尉が吹っ切れることを願いつつ解散することにしようと思ったその時だった。


「アリサ中尉!」

 そこへフリードリヒ大尉がやってきた。手には花束が抱えられている。それはプラントブロックで大尉が手を掛けていた育てていた花だった。

「俺と付き合って頂けませんか。」

 大尉は今、自分で摘んできたであろう花束を差し出しながらアリサ中尉に愛の告白をしたのだった。その場に居た俺たち3人はただただ口を開けてぽかんとするほかなかった。あとになって人間驚きすぎた時はすこぶる間抜けな顔になるものなのだとよくよく思ったものだ。

 そしてその告白のスタイルも古典中の古典。きっと流行の恋愛もののドラマなんて見たことがなくて、古典小説の中のようなシチュエーションしか覚えがなかったのだろう。しかしそれ故にフリードリヒ大尉の人柄を表しているような気がした。


「どうかな?」

 フリードリヒ大尉は完全に固まっている空気に耐えかねたのだろう。アリサ中尉にもう一声掛けた。アリサ中尉はまず口を閉じ俺を見た。それを見た俺は口を閉じて大きくアリサ中尉にうなずいた。アリサ中尉はそれを見て次にヴァレリーを見た。ヴァレリーは気合を込めるように両の拳を握り、アリサ中尉に向かって大きくうなずいた。

 最後にアリサ中尉はフリードリヒ大尉を見てかすれる声でこう言った。

「はい。よろしくお願いします。」

 その瞬間アリサ中尉の目から涙が溢れ出た。アリサ中尉の涙は無重力状態の中、空中に弾けた。空中に弾けた涙は部屋のセンサーに拠って検知され、回収されるべく気流に乗って回収口へ運ばれていく。


一体フリードリヒ大尉にどのような心境の変化があったのだろうか。俺たちが煽ったからだろうか?それなら俺たちも頑張った甲斐があったと言うものだ。

「大尉。どうして気持ちが変わったのですか?」

 俺が驚きを隠せず大尉に質問をすると、照れたような表情で答えた。

「坊主…。いや、グレンとHTX-02に言われた事を作戦終了からずっと考えていたら、試してみようと思ったんだ。」

「試す?」

「あぁ。俺はずっと自分が変われない理由を父親に求めていたが、そうではないと言う結論に達した。ならばあとは自分が人を愛せるか試すだけだ。」

 大尉は父親に愛されなかったがために愛を知らないと思っていたが、俺たちが指摘した人を思いやる心が愛であることに気づいたらしい。人を愛せるのであれば後は先に進めるしかない。


「フリードリヒ大尉。俺たちはアリサ中尉に大尉が人を愛せないと思っていることはプライベートなことかと思い伝えていません。」

「あぁ。」

「なのでこれから自分の言葉でアリサ中尉にお伝え下さい。勿論2人きりで。」

 俺は意地悪くニヤリと笑いながら大尉に言った。大尉は少し驚いた顔をした後、苦笑しながら

「あぁ、わかった。ありがとう。」

と言った。俺たちは2人の邪魔にならないよう工作室からお暇することにした。


自室に帰る途中でヴァレリーと少し話した。

「大逆転だったな。もう駄目だと思ってたのに。」

「そうですか?私は上手く行くと思ってましたよ?五分五分でしたけど。」

 ヴァレリーは悪戯っぽく笑いながら答えた。

「でも五分五分だし、ヴァレリーもびっくした表情してたじゃないか。」

 俺が抗議の声を上げると

「そうでしたっけ?」

 と惚けた表情をしてみせた。そしてそのあとヴァレリーは優しい表情になって

「お2人とも上手く行くといいですね。」

と言った。俺もその意見には賛成だ。

「そうだな。」

 俺たち2人は穏やかな笑顔で笑いあった。


 ビックカップルの誕生は、『コンスタンツ』基地の中を駆け巡った。どこもかしこもフリードリヒ大尉とアリサ中尉の話題で持ちきりだった。

 その後、何故か俺とヴァレリーに仲を取り持って欲しいと言う依頼が何件か来た。お節介焼きだと認識されたようだ。丁重にお断りしたが。

 あと数件、あのもどかしい関係はくっつかないことにロマンがあると言うクレームもあったことも付け加えておく。

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