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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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新型量産機編11

 アリサ中尉に大見得を切ったは良いが翌日が作戦開始日と言うこともあり、フリードリヒ大尉は多忙を極めていた。結局大尉にアリサ中尉のことを話すことはできなかった。船に乗って移動中ならば話す機会もあるだろうとその時を待つことにした。

 しかし移動中の間もフリードリヒ大尉を捕まえることはなかなかできなかった。こちらも仕事の合間を縫って探しているので間が悪いだけかもしれない。あとは意図的に避けられているか・・・。

 俺は100%大尉を捕まえられるであろうブリーフィングのあとを狙うことにした。恐らく今回も俺は出撃することになるだろう。そして出撃前のパイロットが話をする時は相手は必ず話を聞く機会を設け、誠実に回答すると言う習慣がある。いつからある習慣かはわらないが、死んで心残りがないようにする習慣だと言われている。そしてブリーフィングが始まった。大尉が前で作戦の概要を説明している。今回のターゲットはMEの商社の船だ。今回も月面裏への商品の納品で航路も前回と同じだ。交差点は前回よりも<ルナ>寄りであることが若干の違いだろう。作戦メンバーも前回同様俺とタグボート部隊による強襲となった。ここまでは想定通りだ。

 ブリーフィングが解散となったタイミングで俺は素早く席を立ち、フリードリヒ大尉の元へ急いだ。

「大尉お話が。」

 フリードリヒ大尉は俺に怪訝そうな目を向けながら

「何の話だ。」

 と問うた。

「ここではちょっと。」

 と俺は周りを見た。まだ人が残っている。さすがにアリサ中尉のこと言い出すのは憚られる。

「そうか。なら隣だ。」

 俺とヴァレリーはフリードリヒ大尉と共に隣の小さなミーティングルームへ移動した。ここなら大声で無ければ聞こえないだろう。


「で?何の話だ?」

「アリサ中尉の話です。」

「アリサ中尉?」

 フリードリヒ大尉は再び怪訝な顔をした。出撃前のパイロットが、何故この場に居ない人物の話をするのかわからないと言った表情だ。それはそうか。

「フリードリヒ大尉は、アリサ中尉のことをどう思ってますか?」

「どうって…。昔からの同僚だよ。」

 やっぱり何も伝わってなかった。ここは剛速球で勝負だ。

「言い方を変えます。アリサ中尉を女性としてどう思っていますか?」

 フリードリヒ大尉は眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌そうだ。

「それがお前に何の関係があるんだ?」

 関係はなさそうだなー。


「アリサ中尉が想いを寄せ始めたのは、前のプロジェクトからです。いい加減はっきり白黒つけてあげた方がいいんじゃないですか?いくらなんでも長すぎます。」

 ヴァレリーから援護射撃が飛んできた。一体何年塩漬けなんだろうね。でもその言い方だと大尉は想いに気づいていたってことか?まぁいい。ここは押そう。

「俺はおせっかいが好きでして。出撃前のパイロットなので誠実な回答を求めます。」

 慣習をダシに答えて貰う作戦だ。フリードリヒ大尉は何か言おうとしたが、深いため息を吐いて話始めた。

「女性としては憎からず思っているが、俺が彼女の想いに答える事はない。」

 一瞬期待させたがその答えは明確な拒絶だった。

「理由を教えて下さい。」

 毒を食らわば皿まで。逆にここで理由を聞かないと死んだ時にマジで心が残る。

「話すと長くなるから出来るだけ端的に話す。」

「お願いします。」

 大尉は観念したような表情で話し始めた。

「俺には母親が居ない。遺伝上の母親は居るだろうが会った事がない。俺は人工子宮で生まれた。」

 人工子宮から生まれる人間は少なくない。また片親しか居ないと言うのも珍しい話ではない。精子も卵子も金銭で取引ができる。そしてそうやって子を成すには安くない金銭が必要だ。つまりフリードリヒ大尉は結構なお金持ちの子息だと言う事だ。

「父は俺を作ったが、愛情を注がれたかと言われると疑問だった。結局俺は父の愛情を感じないまま大人になった。」

 淡々と話しているが急に重い話になったぞ。

「その結果、俺は愛情と言うものがわからない人間になった。だからこの憎からず思っていると言う感情が愛なのかがわからない。だから彼女の想いには答えられないんだ。以上、納得したか?」

 俺は完全に踏み込んでは行けない領域に踏み込んだね。激重です。

「大尉殿は意外と臆病なんですね。」

 ヴァレリーが援護射撃と言うか煽り始めた。

「何ぃ?」

 大尉の声に怒気が孕む。こえー。

「女性がアプローチしているのに何を怯える必要があるんですか?」

 確かに明らかな勝ち戦だ。

「そうですよ。相手が大尉に好意を持ってるんですよ?」

「だが俺の想いは愛情ではないかもしれない。」

「そんなわけないでしょ。だってそれは中尉を大事に思うから答えられないと思ったんでしょ?相手を大切に思う気持ちを愛情って言うんですよ。」

 俺がそう言うとフリードリヒ大尉は、はっとした表情をした。何かに気づいたようなそんな表情だった。


 そんな時に大尉の方からアラームが鳴った。作戦開始時刻になったのだ。

「時間なので俺はスペース・トルーパーに搭乗します。」

「あぁ…。」

 俺はヴァレリーと会議室を辞去すると格納庫へ向かった。

「大尉自身も誰にも相談できなくて困ってたんだな。」

 俺がヴァレリーにぽつりとそう漏らすと

「そうですね。でもこれで上手く行くんじゃないですか。」

 ヴァレリーは本当にうれしそうに答えた。

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