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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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新型量産機編10

 次の作戦までは3日と期間が開いた。いつもの通り『アスク1』の稼動確認と物資搬入の手伝いを終えるとやることがなくなり1日空いてしまった。せっかくなのでヴァレリーと基地内を散策することにした。

 普段の生活では行かない場所に行こうということで、最外周部にあるプラントブロックにやってきた。プラントブロックはその名の通り植物を育成するブロックである。人間には酸素が必要で人間が活動することで発生した二酸化炭素を植物の光合成で酸素に変換する必要がある。その為宇宙空間においても植物の育成は欠かすことができない重要なインフラなのだ。

 この基地は外側は岩石に見えるようにカモフラージュされているが、偏光ガラスと偏光ミラーによってプラントブロックに太陽光が当たるよう工夫されている。

 プラントブロックには<キューブ>と呼ばれる立方体があり、そこから植物が生えている。<キューブ>は床面に固定されているが、プラントブロック自体は無重力であり、<キューブ>内は植物が育つのに必要な人工土や栄養素、水などが供給される仕組みになっており、植物を床に固定するためのものでもある。また植物は重力がなくても育つよう品種改良がされている。そんなプラントブロックに来てみたが意外な人物が居た。


「フリードリヒ大尉。こんなところで何しているんですか?」

 大尉はランニングシャツで植物の世話をしていた。確かにここは太陽光が当たるため暖かい。

「坊主か。植物の世話をするのが趣味でな。」

 そう言いながら大尉は枝の剪定や肥料の追加などをしていた。

「自動的にやってくれるんじゃないですか。」

 俺がそう言うと大尉はちょっと困ったような顔をしながら

「そうなんだがな。手を少し入れてやるともっといい感じで育つんだよ。」

と言った。

「そう言うものなんですね。俺は植物には疎くて。」

「坊主は宇宙生まれか?」

「はい。宇宙生まれ、宇宙育ちです。」

「俺は実は地球生まれでな。土があって植物がいる環境が普通だったんだ。」

 シリンダーでは農業用シリンダー以外ではあまり植物を見ない。街路樹や公園にはあるが<キューブ>で育てられていることが多い。

「ここでは土には触れないがこうやって植物と触れ合ってると昔を思い出して落ち着くんだ。」

 大尉はそう言うと普段見せないような柔らかい表情を見せた。俺にはわからないが、大尉に取っては本当にリラックスできる趣味なんだろう。


「皆揃って何をしているの?」

 後ろから声を掛けられ、振り向いて見るとアリサ中尉が居た。

「アリサ中尉こそどうしたんですか?」

 ヴァレリーがアリサ中尉に聞いた。

「あら。私はよくここに来るわよ。ね。大尉。」

「確かによく見るな。」

 大尉は大きく首肯した。

「行き詰った時なんかはよく来るのよ。」

 と言うことは今は何かに行き詰ったのだろうか。俺が聞いても答えてくれないだろうけど。しかしその時、俺の中で何かが引っかかった。ずっとアリサ中尉のことばかり考えていたからだろうか。何故か突然ひらめいてしまったのだ。

「アリサ中尉はフリードリヒ大尉に会いに来てるんじゃないんですか?」

 俺が不用意にした発言はアリサ中尉の心に直撃した。

「そ、そ、そ、そんなことないわよ。」

 とてもわかりやすいリアクション。これは俺完全にやってしまったのでは?

「じゃ、じゃあ私は仕事があるからこでで。」

 アリサ中尉は言葉を噛みながら凄い速度で去っていった。

「俺、アリサ中尉と初めて言葉のやり取りを交わしたけど、これ印象最悪なんじゃ・・・。」

「そんなことないんじゃないですか?」

「本当かなぁ?」

 こう言った感情についてはヴァレリーは疎いのかもしれない。俺は大尉に意見を求めようと大尉を見ると、心配そうな表情をしていた。あれ?

「中尉はどうしたんだろうか。調子が悪そうだったが…。」

 大尉は真顔でそう答えた。んんん? 俺の勘違い?

「いやー。大丈夫じゃないですかね。」

「ならいいんだが…。」

 なんとなく腑に落ちないが、しかしアリサ中尉には悪いことをしたな。アリサ中尉は相手に想いを悟られないようにしていた可能性がある。それを俺が暴露してしまったのように見える。ただ大尉は気づいていない様子だが…。アリサ中尉の印象は最悪だろう。俺たちはフリードリヒ大尉に別れを告げて自室に戻った。


「はぁ・・・。」

「そんなに気にすることはないと思いますよ?」

 ヴァレリーは柔らかい笑顔で慰めてくれる。

「そうかなぁ。アリサ中尉は勝手にフリードリヒ大尉への想いをばらされたと思ってるよ。」

「でも大尉には伝わってなかったですよね。」

 ん?もしかして?

「フリードリヒ大尉って滅茶苦茶鈍いの?」

「おそらく。ずっと浮いた話を聞いたことがありません。」

「アリサ中尉はフリードリヒ大尉に想いを伝えていたけど伝わって居なかったってこと?」

「極度の人見知りですからね。直接的には伝えていないと思いますけど、間接的なアプローチはしてたんじゃないですかね。」

「つまりアリサ中尉は長年フリードリヒ大尉を好きでアプローチしてきた。しかしアプローチが上手くない上にフリードリヒ大尉は鈍感なので気づかなかった。ってこと?」

 ヴァレリーはにっこり笑いながら答えた。

「概ねそんな感じだと思います。直接アリサ中尉の想いを知ったのは今日ですけど、ずっとそんな雰囲気は出してました。」

「前のプロジェクトからってこと。」

「はい。そうですね。」

 ヴァレリーはずっと気づいていたってことか。こう言うのはおせっかいがくっつけたりしそうだけど。

「くっつけようとする人たちは居なかったの?」

「少なくとも前のプロジェクトではそう言う人は居ませんでしたね。」

「ふむ。」

「『コンスタンツ』基地でもフリードリヒ大尉はあの風貌ですし、怖いイメージと階級が高いのもあって近寄り難いらしいんですよね。アリサ中尉は言わずもがなあの性格ですし、誰もおせっかいを焼く人も居なかったのでしょう。」

 基地内で気づいている人が居ても誰も手を貸せなかったと言う事か。もしくは眺めるのをよしとしている人ばかりだったか。この基地は人が少ないと言っても数百人は居るからなぁ。その両方だろう。俺の中では解決したが、これはどうするべきだろうか。

「ヴァレリー。どうしたら良いと思う?」

「そうですね。これをきっかけにアリサ中尉と仲良くなりますか。」


 俺たちはアリサ中尉を探して工作室にやってきた。工作室ではアリサ中尉が一心不乱に何かを作っていた。

「アリサ中尉。」

 ヴァレリーが声を掛けるとアリサ中尉はピクリと反応しこちらを向いた。その顔は真っ赤だった。やっぱり怒ってるんじゃないだろうか。

「グレンがフリードリヒ大尉との仲を取り持ってくれるらしいですよ。」

 え?俺そんなこと言った? するとアリサ中尉は凄い勢いで俺の前に来て俺の手を握った。

「本当?」

 アリサ中尉は5フィートぐらいしかないので俺に対して上目遣いの涙目でそう聞いた。逆にちょっと可愛そうになってきた。フリードリヒ大尉に想いを伝えようと頑張ったけどまったく伝わらなくて切羽詰まってたんだな。こうなったら仕方が無い。俺がおせっかいな人間になるか。俺はにっこりと笑ってアリサ中尉に言った。

「はい。お任せ下さい。」

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