新型量産機編2
輸送船は『バルバロッサ』隊の旗艦である高速艇『ロンバルディア』と合流し、秘密工廠へと向かった。それから丸1日ほど移動したところにある岩石地帯で船は減速を始めた。
カメラから見える範囲にいくつもの岩石がある。その中でもとりわけ大きなものに船は近づいていった。岩石に偽装されたハッチが開き輸送船と『ロンバルディア』が悠々と入れる宇宙港が姿を現した。外から見た感じではまったく基地だとはわからなかった。
「凄い。」
「どうだ?驚いただろう。」
フリードリヒ大尉は自慢げだ。こんな大きくて精巧なものが宇宙の外れにあるとは思ってもみなかった。
「外からは岩石にしか見えませんね。」
「外見と違って中は意外と快適だぜ。住めば都ってな。」
岩石の中はいくつかのブロックに分かれているようだ。回転する円柱の先は円錐形になっており通路らしきものと接続されている。通路の先には様々なブロックが接続されているようだ。
「あの回転しているのはなんですか?」
「あいつは居住区だ。」
なるほど。大きさは違うが円筒形の部分はシリンダーと同じように回転で人工重力を作り出しているのだ。環境はミニシリンダーと言った感じなのだろう。どこかで太陽光を得て植物も栽培しているかもしれない。二酸化炭素を酸素に変える植物は宇宙生活では必要不可欠だ。これは見ているだけでも飽きなさそうだ。
船は桟橋に接岸した。荷物の搬出が行われていく。労働力の多くはアンドロイドのようだ。俺は一度部屋に戻り、荷物を持ってヴァレリーと一緒に船から降りた。
桟橋の造りもシリンダーに似ている。やはりここはミニシリンダーと呼ぶべき所なのだろう。乗降口から降りた所にフリードリヒ大尉が居た。
「久しぶりだな。HTX-02。」
「フリードリヒ中尉!」
ヴァレリーは驚いた声で大尉を呼んだ。あれ?中尉?
「あれから昇進してな。今は大尉だ。」
「失礼致しました。フリードリヒ大尉、お元気そうで何よりです。」
「年は取ったがな。HTX-02はいつまでもきれいで羨ましいよ。」
確かにヴァレリーは年を取らないからな。今は俺より年上の見た目だが、いつかは逆転していまうな。
それよりもフリードリヒ大尉とヴァレリーが知り合いと言う事は前回の計画のパイロットだったのだろうか。
「大尉もナノマシンの実験を受けてたんですね。」
「まぁな。」
その表情は髭でわかり難いがばつが悪そうだった。何故だろうか?
「その話はまた追々してやるよ。まずは荷物を置きに居住棟の坊主の部屋に案内するぞ。」
俺たちはフリードリヒ大尉の後を着いて行った。桟橋を抜け廊下を登り、円錐状の頂角部分に到着した。円錐部分は中でいくつかの横向きの層に分かれていた。層は回転しており、頂角から底面に向かって徐々に回転速度が上がっている。
「ここを順番に渡って行くと最後が1Gのエリアだ。」
なるほど。いきなり1Gだと相当な速度で動いているので飛び移ったりするのが難しい。これなら徐々に速度が上がって行くので、次の層との相対速度の差は少ない。そうすると比較的安全に1G環境へ移り変われる。
俺はフリードリッヒ大尉のあとに着いて行く。層を超える毎に重さを感じて行く。円錐の底面は円柱形の構造物になっており、この中が居住区域だ。俺たちはその中の1つの部屋に案内された。
「ここだ。」
部屋の広さは狭い。輸送船の個室と変わらない広さだ。ベッドと申し訳程度の机と小さな収納。あとシャワーとトイレが付いている。寮と比べると格段に狭くなってしまうが、寮が2人部屋を1人で使っていたのでこればかりは仕方が無い。
「HTX-02もここで一緒に暮らして貰う。」
「わかりました。」
「と言う訳で『バルバロッサ』の基地に居る間はお前が管理しろ。」
「了解です。」
ここでヴァレリーと暮らす事になりそうだ。
「荷物を置いて次は食堂だな。」
俺は私物の入った鞄を部屋に置き、再びフリードリヒ大尉の後に着いて行った。今来た道を戻り入って一番手前にあった大きな部屋が食堂のようだ。パワーバーのベンダーと飲み物のベンダーが置いてあり、座って食事が摂れるように机と椅子が置かれている。現在は食事どきではないので人は居なかった。
「飯はここにあるものならなんでも食べていいぞ。今のところ数に制限はない。」
パワーバーは男性でも2本も食べればお腹がいっぱいになるように作られている。そんなにいっぱい食べる奴は居ないと思うが…。
「ここに居る奴等はおいおい紹介していく。当然だが全員軍人だ。」
「はい。」
「よし!次は…。基地司令のところに挨拶に行くか。」
俺たちは居住棟を出て廊下に戻った。そして居住棟と逆にある建物に入って行った。
「ここは司令室やブリーフィングルームなんかがある、この基地の中心部だ。」
確かに趣は月面基地やシリンダーにあった駐留軍基地に似ている。フリードリヒ大尉はある部屋で止まり、扉の前で網膜スキャンを行い扉を開けた。
「司令。今回着任のテストパイロットを連れてきました。」
フリードリヒ大尉は司令にし対して敬礼をしながら報告した。
「大尉。ご苦労だったな。」
返礼しながらこちらを振り返った司令はフリードリヒ大尉よりも若く見えた。まぁ、フリードリヒ大尉は髭面なので年齢が解りにくい。
「グレン候補生です。宜しくお願いします。」
俺は敬礼をしながら自己紹介を行った。
「『バルバロッサ』の基地司令をしている。ガストーネ中佐だ。よろしく頼む。」
中佐は返礼しながら応えた。
「帰ってきたばかりで悪いのだが次の仕事だ。作戦G-02839を出してくれ。」
ガストーネ中佐がオペレーターに向かって指示を出した。オペレーター席にはアンドロイドが座っていた。アンドロイドは司令の指示通り、大きなスクリーンに作戦の概要図と表示させた。
「地点P233-T984-A123に置いて新型量産機を受領する仕事だ。『ロンバルディア』の整備、補給が終わり次第、フリードリヒ大尉とグレン候補生は出発してくれ。」
「了解しました。」
フリードリヒ大尉は任務を聞いて敬礼した。俺も倣って敬礼する。概要図に拠れば今度は大型輸送船ではなく、小型の輸送船を拿捕するらしい。早速次の任務だが、いきなり宙賊の真似ごとか…。上手くできるだろうか…。




